予告なき手紙
休憩時間。
ミカは一人、庭園のベンチで昼食を取っていた。
そこへ、転校生のユキナが現れる。
彼女の手には、一通の封筒。
「これ、渡してくれって」
差出人は——学園長。
静かな昼下がりに、小さな波紋が広がる。
授業が終わった。
休憩のベルが鳴り、生徒たちが一斉に教室を出て行く喧騒と同時に響いた。数人は食堂へ向かい、数人は廊下で話し込み、数人は椅子に座ったまま体を伸ばしている。
ミカは立ち上がった。
彼の手には、水色の布で包まれた弁当があった——ミヤからのものだ。普段なら教室か食堂で友達と一緒に食べる。だが今日は、一人でいたい気分だった。
今日は、一人でいたほうがいいかもしれない。
彼は教室を出て、廊下を歩き、学園の裏庭へと向かった。そこには小さな庭園があり、木陰にいくつかの木製ベンチが置かれている。静かだ。風の音と、葉擦れの音だけが聞こえる。
ミカは隅のベンチを選び、腰を下ろした。
彼はゆっくりと包みを開けた。中には、黒ごまが振りかけられた丸いおにぎり。いくつかの小さなおかず。漬物。そして、きれいに切られた卵焼き。
ミヤが、まだこんな風に作ってくれているのか……
彼はスプーンを手に取った。ご飯をすくう。口へと運ぶ——
だが、そのスプーンが唇に触れる直前——
「ねえ!」
横から、明るい声がした。
ミカは驚いて、スプーンを落としそうになった。
彼が振り向くと——
すぐ隣——同じベンチの上に、いつの間にか長い銀髪の少女が座っていた。瞳は薄紅色。大きな笑みが唇に浮かんでいる。
ユキナだった。
「どうして俺についてきたんだ? 何か用か?」ミカは少し疑わしげな口調で尋ねた。
ユキナは小さく笑った。「うーん、半分は当たりで半分は外れかな。一緒にお昼を食べたかったから来たの」
「どうして俺なんだ? 他の誰かじゃダメなのか?」ミカは弁当を食べ始めながら返した。
ユキナは少し体を後ろに預けた。「あなたの力のことを、直接聞きたくて来たの。お父様が『すごい奴がいる』って言うから、気になっちゃって」
ミカは一瞬、咀嚼を止めた。そして、ため息をついた。
「俺はただの普通の学園の生徒だ。勝てたのは、仲間が助けてくれたからだ」
ユキナは微かに笑った。信じていないようだった。だが、反論もしなかった。
二人はそのまま、静かに食事を続けた。スプーンと弁当箱の触れ合う音。風の音。葉擦れの音。
しかし、その静けさは長くは続かなかった。
「ねえ、ミカ」ユキナが再び呼びかけた。
「ん?」
「聞いていい?」
「何を?」
ユキナはゆっくりとご飯をすくい、横目でミカを見た。「ミヤちゃんとの関係って……何なの?」
ミカは眉をひそめた。
「つまり、あなたは彼女の護衛? それとも恋人? それとも……夫?」ユキナはどんどん意味のわからない言葉を並べ始めた。
ミカは無視した。聞こえないふりをして、食べ続けた。
そんなミカの態度に、ユキナは諦めなかった。彼女はいたずらっぽく笑った。
「あら、冷たいのね、ミカ。まさか、あなたの関係を隠してるってわけ?」
ミカはスプーンを置いた。
彼はユキナの方を向いた。顔は真剣で、目は鋭かった。
「ミヤとの関係を隠したことなんて一度もない。何の関係もないからだ。ただの戦友だ」
ユキナは少し驚いた。無口だったミカが突然、はっきりとした口調で言い切ったからだ。
「ごめん、ミカ」ユキナは小さな声で言った。「私、ちょっとからかいすぎたね」
ミカはため息をついた。顔の表情が再び穏やかになる。
「謝らなくていい。君は何も悪くない。ただ、俺はそう伝えたかっただけだ」
ユキナは小さくうなずいた。しかし、心の中で何かが微かに動いた。
食事が終わると、ユキナは自分の弁当箱をベンチに置いた。そして、制服のポケットから何かを取り出した。
白い封筒だった。かなり厚みがある。彼女はそれをミカに差し出した。
「これ、何だ?」ミカは戸惑いながら尋ねた。
「封筒。お父様からの手紙。あなたに宛ててるの」ユキナは答えた。
ミカはしばらく封筒を見つめ、それから受け取った。彼はゆっくりと封を開け、中から少し黄ばんだ紙を取り出した。やや乱雑な手書きの文字が並んでいる。
ユキナも気になって覗き込む。首を少し傾け、目を細めた。
手紙にはこう書かれていた——
「こんにちは、ミカ。おめでとう。君のところが今、朝なのか昼なのか夕方なのか夜なのかは知らないが——たぶん朝だろうな。娘に朝のうちに届けろと頼んだから。
さて、前置きはいいだろう。伝えたいことがある。
万が一、不測の事態が起きたら、学園の正面広場に行け。そして、広場の中央にある像を破壊しろ。すぐにテレポートする。
だから、試しに壊してみようなんて考えるなよ。破ったら、お前を罰するからな。
わざわざ手紙を書いたのは、時間がないからだ。いつも忙しい。それに、『ヴォイド・リーパーズ』という組織が動き出したらしい。将軍一人と、数名の部隊を送り込んで、お前とミヤを狙っているそうだ。
気をつけろ。
どうしても追い詰められて、像を破壊できないなら——周囲のことは気にするな。全力を出せ。
では、これで終わりにする。
ああ、そうだ。一つだけ言い忘れた。娘に手を出そうものなら——殺す。
——ヨウスケ・リベルト」
静寂が訪れた。
風が吹き、数枚の枯れ葉が二人の間を舞い落ちた。
ミカは手紙を読んだ。その目は最後の一文で止まった。
「娘に手を出そうものなら——殺す。」
彼はユキナの方を見た。
ユキナはまだ読み続けていた。その顔は——真っ赤だった。
ただの赤ではない。耳の先まで真っ赤になっている。
「ユキナ……大丈夫か?」ミカが尋ねた。
ユキナは答えなかった。
彼女の目はまだ手紙に注がれている。最後の一文に。その前の一文に。自分が地中にでも埋まりたくなるような全ての文章に。
「お父様……なんで……なんでこんなこと書くのよ?!」
「ユキナ?」
「あああああああっ!」
ユキナは突然叫び、ミカの手から手紙を奪い取った。そして、パニック状態でそれを折りたたむ——雑に、ぐちゃぐちゃに、ところどころ破れそうになりながら。
「何してるんだ?!」ミカは驚いた。
「この手紙! お父様、頭がおかしいのよ!」ユキナは叫びそうになりながら言った。「まさか、こんなことが書いてあるなんて知らなかった!」
「こんなことって?」
「最後の一文よ!」
ミカはまばたきした。「まさか……本当に知らなかったのか?」
「知らないわよ!」ユキナは手紙を封筒に雑に詰め込んだ。「お父様は『ミカにこの手紙を届けてくれ』って言っただけ! 普通の手紙だと思ったのに! まさか殺人予告なんて入ってるなんて!」
ミカは笑いをこらえきれなかった。
「笑ってるの?!」ユキナは目を見開いてミカを睨んだ。
「悪い」ミカは口を手で覆った。しかし、肩はまだ微かに震えている。「でも……笑えるよ」
「何も笑えないわよ!」ユキナは立ち上がった。顔はまだ真っ赤だ。封筒を手の中でぐしゃぐしゃに握りしめている。「お父様ったら本当に……私は……私は……」
彼女は最後まで言い終えなかった。
彼女は乱暴に封筒を地面に投げつけた。ベンチのそばに落ちた封筒は、中の紙がはみ出しそうになっている。
ユキナはそのまま歩き出した。振り返らない。止まらない。
ミカはただ黙って、遠ざかっていくユキナの背中を見つめた。銀色の長い髪が風に揺れている。小さく、速く、木々の向こうへと消えていく。
風が再び吹いた。
ミカはため息をついた。そして、ゆっくりと口元に微かな笑みを浮かべた。
「笑える」と、彼は小さく呟いた。
しかし、その笑みは長くは続かなかった。
笑える。笑えるのか?
彼はうつむき、地面に落ちている封筒を見た。端にいくつかの草の葉が付いている。
残念だけど……これは全然笑えない。
ミカは近づき、封筒を拾い上げた。そして、再び中から手紙を取り出した。
彼はヨウスケの言葉を読み返した。
「『ヴォイド・リーパーズ』という組織が動き出したらしい。お前とミヤを狙っている。」
「周囲のことは気にするな。全力を出せ。」
ミカは手紙を強く握りしめた。
なぜだ? なぜ、一つの問題が終わると、いつも次の問題がやってくるのか? なぜ、彼は安らぐことができないのか? なぜ、ミヤはいつも危険にさらされなければならないのか? なぜ——
彼の手が震え始めた。
恐怖からではない。怒りからでもない。
しかし、何かが混ざり合っていた。怒り。フラストレーション。恐怖。全てが一つになっていた。
ヴォイド・リーパーズ。
くそったれが。
彼は拳を握りしめた。手紙はその掌の中にあった。
そして——
バキッ。
彼の指の間に、氷が形成され始めた。ゆっくりと。
バキ……バキ……バキ……
手紙は凍りついた。紙は硬くなった。そして——
砕けた。
青白い氷の破片が彼の指の間から飛び散り、小さな雪片のように地面へと落ちていった。
「ヴォイド・リーパーズ……」ミカの声は低かった。ほとんど囁きに近い。しかし、その中には重い何かがあった。「……必ず、全員ぶっ潰す」
彼は立ち上がった。
長く息を吐き、手に残った氷の破片をゆっくりと払い落とした。
そして——彼は歩き出した。庭を後に。ベンチを後に。地面で静かに溶けていく氷の破片を後に。
教室へと戻っていく。
遠く、学園二階の窓の向こう側。
青い髪の少女がそこに立っていた。
ミヤだった。
彼女の目は、最初から最後まで、ずっとミカから離れていなかった。ユキナがミカの隣に座った時も。二人が一緒に食事をした時も。ユキナが怒って封筒を投げつけた時も。
ミカが手紙を凍らせた時も。
ミカが「必ず、全員ぶっ潰す」と言った時も。
ミヤは全てを見ていた。
最初から最後まで。
彼女はゆっくりと遠ざかっていくミカの背中を見つめた。その歩幅は小さく、しかししっかりとしていた。いつもの彼とは違う。そこには重荷があった。しかし、同時に決意もあった。
ミヤはそっと目を閉じた。
ミカ……
息はゆっくりと、深く。
そして——彼女は再び目を開けた。
窓から風が吹き込み、青い髪の何筋かを後ろへと流した。
しかし、その瞬間——
何かが変わった。
彼女の右目。
青ではない。薄緑だった。春の若葉のように。これまで一度も見たことのない、かすかな光のように。
彼女はそれに気づいていない。知らない。
しかし、あの窓辺で、風がそよぐ中で、頭上に青い空が広がる中で——
ミヤは小さな声で呟いた。
「戦って、ミカ」
その声は優しかった。ほとんど聞こえないほどに。
しかし、十分だった。
彼女の緑の瞳が一瞬輝き、すぐに元に戻った。何もなかったかのように。
彼女は遠ざかっていくミカの背中を見つめ続けた。
そして外では、互いに振り返ることなく、互いに知ることなく——
同じように戦い続ける二人が、前に向かって歩き続けていた。
新キャラクター・ユキナの本格登場です。
そして、物語は静かに次の舞台へと動き出します。
次回もどうぞお楽しみに。




