二つの夢が待つ
静寂が夜を包む。
勝ち取ったはずの安らぎの中で——彼の意識は、別の場所へと引きずられる。
緑あふれる花園。
そこに立つ、見覚えのある女性。
彼の名前を知る、謎の老人。
そして——「聖域」という、約束の地。
これは、目を覚ます前の、長い長い夢の話。
静寂が、彼ら全員を包み込んでいた。
キヨはまだ盾を手にしたまま動けないでいる。リョウジョは膝をついたまま、息を殺している。ミヤは涙を落とすこともできず、ただ立ち尽くしている。
そしてミカ——氷の円環の中心で、ようやく剣を鞘に収めたばかりの彼は、静かに立っていた。
だが——
彼の視界が、ぼやけ始める。
疲労のせいじゃない。傷のせいでもない。
ただ、自分の周りに広がる光景のせいだった。氷。砕け散る結晶。消し去った敵の痕跡。崩壊した領域。そのすべてが——この自分の手で引き起こしたものだ。
彼はうつむき、自分の手のひらを見つめた。
変わらない。前と同じだ。でも、その感覚は——違った。
これが俺だ。全部、俺がやったのか?
その時、周囲の氷が少しずつ溶け始める。しかし、彼の呼吸を奪ったのは、それではなかった。
目の前の光景が——変わる。
半径百メートルの氷の円環が、ゆっくりと、現実とは別の何かに上書きされるように、その姿を変えていく。
氷が溶ける。その下から現れたのは、破壊された地面でも、戦いの残骸でもない。
緑の草原。
咲き誇る花々。
どこまでも続く、その景色。
ミカはその中心に立っていた。優しい風が吹き、彼が現実で一度も嗅いだことのない花の香りを運ぶ。頭上には、月明かりの夜ではない——青く澄んだ空と、ゆっくりと流れる白い雲。
この景色は……
ミカにはわかった。
見たことがある。夢の中で。何度も。
あの緑の草原。決して枯れることのない花々。現実とは思えないほど完璧な空。
そして遠く——花の海の中心に——
一人の影が立っていた。
緑の髪の女性。
風に揺れる長い髪。花びらとともに舞い上がるその姿。彼女は花畑を歩きながら、優しい眼差しでミカを見つめる。その顔には、とても優しい微笑みが浮かんでいた。
「ミカ? どうしてそこに突っ立ってるの? 早くおいで」
ミカはただ呆然と立ち尽くす。それでも勇気を振り絞って、彼女に問いかけた。
「なあ、お前は一体誰なんだ?」
微笑んでいた彼女の表情が、困惑に変わる。
「どういうこと、ミカ? 私のこと、知ってるでしょ? まるで初めて会ったみたいな顔してるよ」
ミカは記憶をたどろうとした。この銀河に来る前のすべてを。しかし、どれだけ必死に思い出そうとしても、彼の人生に緑の髪の女性が存在した記憶は、どこにもなかった。
静寂の中、彼女は再びゆっくりと花畑を歩き出す。
「ねえ、ミカ。あの何千もの化け物を倒した後、具合でも悪くなったの?」
ミカは驚いた。この銀河に来る前、地球で多くの化け物と戦っていたことを、彼女は知っている。口を開こうとするが——声が出ない。
彼女は立ち止まり、再びミカを見つめた。
「まあ、いいか。じゃあ、改めて自己紹介するね。ちょっと変な感じだけど。えっとね、私の名前はシ——」
彼女が名前を言い終わる前に——花畑ごと、彼女の姿が消えた。
瞬く間に、ミカの周囲の光景が再び変わる。今度は見知らぬ惑星の廃墟だった。暗い空が広がり、かつて誰かが暮らしていたであろう建物の残骸が静かに佇んでいる。
その静寂の中——瓦礫の向こうから、足音が聞こえてくる。
ミカは警戒しながら身構える。攻撃しようとしたが——力がまったく出ない。
ここは一体どこだ? さっきまで花畑だったのに、今は別の惑星……しかも力が使えない。とにかく、来る奴に備えるしかない。
足音が次第に大きくなる。瓦礫の陰から、一人の男が現れた。
年老いているが、その体はしっかりと鍛えられている。彼は歩みを止め、ミカを見下ろすように立った。
「こんにちは、鈴宮ミカ。銀河系出身の人類種。君に会えて嬉しいよ」
ミカは驚いた。見知らぬ男が、自分の姓と出身を知っている。
「お前は誰だ? どうして俺の姓と、出身の銀河を知っている?」
「おお、すまない。驚かせてしまったようだ。まだ名乗っていなかったね。では、私の名は—— ——」
男が名乗った瞬間——名前の部分だけが、ノイズに遮られた。
「すまない、もう一度名前を教えてもらえるか?」
男は快く応じる。「ああ、もちろん。私の名は—— ——。よろしく頼む」
再び、ノイズ。今度はさらに酷く、ミカは耳障りなノイズとともに軽い目眩を覚えた。
この男は怪しい。名前を言うたびにノイズが発生する。
ミカは問いかける。
「なぜ俺をここに呼んだ? 何が目的だ?」
男は微笑む。そして手を掲げると——銀河ほどの大きさの城を、その手のひらに出現させた。
「君を——聖域に招こうと思ってね。私は、聖域の主だ」
ミカは言葉を失った。銀河を創り出す——そんな力を持つ者が、この男なのか。
その瞬間——
「ミカ?」
遠くから、ミヤの声が聞こえる。かすかに。まるで次元の向こうからの呼びかけのように。
「おや、友人は君のことを気にかけているようだね? まあいい、次は聖域に来たまえ」
その時、ミカの立つ惑星が激しく揺れ始めた。ゆっくりと、崩壊していく。
最後の瞬間、ミカは叫んだ。
「待て! もし俺が聖域に行ったら、何が得られるんだ?」
男は答えない。惑星が崩壊し、その答えは——最後の最後に、ようやく聞こえた。
「ミカ。君は、欲しいものをすべて手に入れられる」
惑星は粉々に砕け散る。ミカは落下しながら、その光景を目の当たりにする。
そして——
「ミカ!」
——その光景は、まるで最初からなかったかのように消え去った。
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ミカは我に返った。
彼はまだ、溶けかけの氷の円環の中心に立っていた。目の前では、ミヤが心配そうに彼を見つめている。後ろでは、リョウジョとキヨもようやく動き始めたところだった。
「だ、大丈夫?」ミヤが彼の腕を握る。その手は冷えていたけれど、なぜか温かかった。「さっきからずっと、動かなくなっちゃって。何度も呼んだんだよ」
ミカはミヤを見つめ、小さく微笑んだ。
「ああ……大丈夫だ」
だが心の中では、あの言葉が何度も繰り返されていた。
欲しいものを、すべて手に入れられる。
聖域。
それが何を意味するのか、彼にはわからなかった。しかし、ひとつだけ確かなことがある——この世界は、自分が思っていたよりもずっと広い。そして、彼を待つ誰かが、どこかにいる。
キヨが近づいてきた。
「家は……壊れてしまったな」彼は静かに言った。「しばらくは、学園に泊まるといい」
ミカはうなずいた。彼の目は、まだ夜空を見つめていた。
「行こう」
ミヤが彼の手を握る。「本当に、大丈夫なの?」
ミカは答えない。その代わりに、握り返した手に、そっと力を込めた。
溶けゆく氷の円環を後に、彼らは歩き出す。背後では、崩れ去った家の跡に、月明かりが静かに降り注いでいた。
リョウジョだけが、その場に立ち尽くしていた。
ミカの放った一撃が残した爪痕——半径百メートルの氷の跡。それを見つめながら、遠ざかっていく少年の背中を、彼はただ見つめていた。
「……学年最下位クラスの新入生が、こんなことができるわけがない」
彼は小さく呟く。
「お前は一体、何者なんだ、ミカ」
ついに明かされる、ミカの過去への扉。
彼は何を思い出し、何と向き合うのか——。
次回、新たな物語の幕が開きます。
どうぞお楽しみに。




