穏やかな夕暮れ
退院したその日、ミカは市場でミヤと再会した。
何も知らない彼女の笑顔が、優しかった。
「一緒に帰ろう」——そう言って、二人は歩き出した。
これは、最後の平穏な一日。
時間は過ぎ、夕方になった。ミカは病院を退院した。医者は体はもう大丈夫だと言った。三日間も昏睡状態だったのに、もう普通に歩ける。普通に息ができる。
でも——頭の中は普通じゃなかった。
ミカは病院の玄関前に立ち、冷たい風を浴びていた。風が全身を突き刺す。その冷たさが、この一週間で起きた全てのことを思い出させた。
グロクとの戦い。崩れ落ちる体。あの深淵の囁き。三日間の昏睡。そして今——ここに立っている。
ミカは拳を握りしめた。
「よし、帰るか。」
彼は歩き始めた。まっすぐ家には向かわず、市場の方へ続く道を進む。夕方の風はまだ冷たいが、気にしていられない。
その途中、ふと見覚えのある姿が目に入った。
市場の端で、髪を結んだ少女が楽しそうに野菜を選んでいる。買い物袋はもう半分以上膨らんでいた。彼女は店先で小さく笑みを浮かべ、にんじんを袋に入れた。
ミヤだ。
ミカは足を止めた。遠くから彼女を見つめる。ミヤはまだ気づいていない。
ミカは近づいた。
「ミヤ」
ミヤが振り向いた。一瞬目を見開き、すぐに輝いた。
「ミカ!?もう退院したのか!」
彼女はすぐに駆け寄り、ミカを頭の先から爪先までじっと見た。
「大丈夫なのか?本当に治ったのか?無理するなよ!」
「……大丈夫だ」ミカは静かに答えた。
ミヤは満面の笑みを浮かべた。「よかった!さっきお見舞いに行こうとしたら、看護師さんに『まだ目を覚ましたばかりで休ませてあげてください』って言われてさ。だから先に市場に来たんだ。お前のために料理作る材料を買いに!」
彼女は買い物袋を誇らしげに掲げた。中にはにんじん、じゃがいも、肉、そして真っ赤なトマトが入っている。
「特製スープを作ってやるからな!いっぱい食べて早く元気になれよ!」
ミカはかすかに微笑んだ。「……ありがとう」
「さあ、帰ろう!一緒に!」
ミヤは気軽にミカの腕を取ると、二人は家へ向かって歩き出した。夕暮れが迫り、空はオレンジ色に染まっていた。
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