ヴシュターク城
ヴシュターク領、領都。
領主城の表御殿と裏御殿を繋ぐ廊下沿いには、小さな庭園と、それを望む縁側がある。
フロランシアは今、その縁側に腰掛け、カトレア夫人とお茶をしていた。
いつもカトレア邸ばかりにお邪魔しているので、今回はヴシュターク城に招待したのだ。
――ここに至るまで、フロランシアは突貫工事での城の改築を余儀なくされていた。
当初は自分が住む裏御殿だけを直す予定だった。
しかし、モブ君のお祖母ちゃんがめちゃくちゃ怖い顔で工事を凝視していたため、プレッシャーに負けて表御殿から大改築する羽目になったのだ。
池を掘り、松を植え、石を置き、砂を敷く。
格式というか、ワビサビというか、それっぽい何かを意識してデザインを考えた。
普段使わない頭をフル回転させたフロランシアは、すでにぐったりである。
ちなみにフロランシアは知る由もないが、お祖母ちゃんが怖い顔をしていたのは単なる「地顔」だ。
監視していたわけではなく、魔法で次々と景色が変わるのが面白くてワクワクしながら眺めていただけだった。
そんなお祖母ちゃん(の地顔)の視線に削られ、頭を使い果たしたフロランシアは、自分の裏御殿に手をつける前に力尽きた。
結果、改築は表と裏の繋ぎ目でストップ。
さすがに未完成の裏御殿に客を招くのは気が引けたので、この「境界線の縁側」をお茶会会場にしたのである。
縁側から見えるのは、グルグルと渦巻き模様が描かれた砂だけの寂しい枯山水。
流石に寂しいかとお茶会当日の朝に「鹿威し(ししおどし)」を突貫追加した。
だが、金属で生成してしまったため、鳴り響く音は「カポーーーン」ではなく、
『カキーーーーーン!!』
という、鼓膜を震わせる硬い金属音。
風流の欠片もない。
用意した茶菓子もまた、風流とは程遠かった。
「ケーキやアップルパイは目新しさがない」という理由で並べられたのは、干し柿、手作りせんべい(仮)、そして、さきいか。
現在、カトレアがその「さきいか」を指先でつまみ上げ、眉間にシワを寄せている。
「……これ、何かしら?」
「……いか、です」
「いか?」
「……クラーケン、の」
「クラーケン!?」
「た……た……食べてみてよ。美味しいから」
カトレアは恐る恐るさきいかを口に運び、咀嚼した。
「あら……? 思ったより美味しいですわね」
「そ……そう、でしょ」
ほっと胸をなでおろすフロランシアに、カトレアは自慢げに胸を張る。
「私はヴシュターク領の歴史や文化、風習に食事までしっかり勉強して参りましたのよ。見てくださる? この私のお着物。素敵でしょう?」
「うん、よく似合ってる」
「貴女は相変わらず、その軍人さんみたいなドレスのままなのね? 今度、私とお揃いの着物を仕立てましょ?」
「そ……そうね(この枯山水に軍服ドレスは確かに浮いてるかも……)」
「フフフ。今日はお饅頭や、お団子が出るものだと思っていましたわ」
「あ、うん。まだ小豆の近似種が見つけられなくて……」
フロランシアが困ったように頬を指で掻いた、その時だった。
1匹のピクシーが、凄まじい勢いで庭園へと飛び込んできた。
「フロランシア大元帥閣下! 緊急案件です!」
静寂(と時折響くカキーンという金属音)を破る叫び声に、カトレアが口元にハンカチを当てて吹き出す。
「プッ……! フフ、相変わらず貴女は、その仰々しい肩書きなんですのね」
「うう……」
フロランシアの眉は、これ以上ないほど情けなくハの字に下がるのだった。




