強盗とかモブには関係ないと思ってたんですけど?
俺の前世は主に俺が重ためな設定を背負っただけの平和な世界だった。魔法世界でもなければ悪人が支配する世界でもない。それは今の生活もそうだ、なんの変哲もない普通の学生生活。
普通の学校に金髪縦ロールのお嬢様がいるとか、いち生徒のセクハラもにこやかに対応できる女教師がいるとか、やけに巨乳率が高いとか、まぁそういう普通じゃないのはあるけども概ね普通なはず。
なのに、何故俺は今、たまたま入ったカフェで強盗なんてもんに引っかかってしまったのだろうか。
「大人しくしてろ、お前らぁ!」
銃を持った黒づくめの男がひとり、森浦さんを人質に俺たちを脅していた。
放課後に三人で帰ってた俺達は森浦さんの誘いでカフェに入った。それが30分前。その後部活の助っ人を終えた真堂が後輩の有栖を連れて入ってきたのが10分前。
ケーキバイキングだった為に森浦さんがテーブルを離れた時、入口から押し入ってきた強盗が森浦さんを人質に取ったのだ。
さすがの俺でも経験のないこの流れに、考えが巡らない。彼女はメインヒロインなはず、それならば害はないのだろうけど…森浦さんのイベントにしては強引すぎやしないか…?
「さっさと金出せ!この女がどうなってもいいのか!?…ふん、よく見ればいい女じゃねぇか」
下衆な視線が森浦さんに向けられる。こいつ…かりにも俺の元嫁さんにお前コノヤロウ…ここはヒーロー出番だ、さぁ真堂いけ!!俺の元嫁さんを助けてかっこよく決めてくれ!俺がいくらイラァ、としてもモブなのでなにもできないんだ!
「人質なら俺がなる、だからその子は解放してくれ」
皆が銃に怯える中、真堂は立ち上がって進んで人質を申し出た。さすが真堂…俺達の主人公だぜ…。
ずい、と進み出た真堂に強盗はぴくりと眉をあげた。さぁここで主人公の手刀か蹴りか、かっこよくメインヒロインを助けてこその名場面だ。
これは森浦さんと真堂のイベントのはず。それならこれはもう勝ったも同然……
「うるせぇ!俺はお前みたいな男が大嫌いなんだよっ!」
銃がガッと振り下ろされて真堂の頭にあたり、そのまま男の蹴りが入って真堂が吹っ飛んだ。背中を強く打ち、真堂が気を失ってしまったようだ。
森浦さんの小さな悲鳴、有栖の泣き声、上紺屋は汗を一筋落としながらじっと機会を伺っている。
おいおいおいおい嘘だろおいおいおいおい!?主人公脱退したぞおい!!バットエンドには早い、まだなにも始まっていないのに、どういうことだ!?
どこだ、どれだ、なんだ!?どうしてこうなった!?
再び男の下品な視線が森浦さんに向けられた。
誰か、誰でもいい、助けてくれ、どうして助けられない!?何故話がうまくいかない!?
俺にはなんの力もない、俺はモブだから出ていけない、モブだからメインストーリーに関われないのに…俺にはなにもできない…!!
「……っ」
なにも、できない…?そうだ、俺は話を見守るだけのモブ。ストーリーに介入してはいけない。それが世の理。俺が望んだもの。
ならばもし、もしそれを破って出てしまったら…?
ひゅ、と空気を飲み込む。短い深呼吸。俺が死んだとしてもきっとなんの問題はない、それがモブ。だからこれは一種のかけだ。小さな声で俺は傍らにいる男に話かけた。
「…上紺屋」
「……?」
「俺になんかあったら、あとはお前に頼んだわ」
「…は…?…お前、まさか…おい、やめ…っ」
制止など聞かない。ガタッと音を立てて椅子から立ち上がった俺に銃が向けられた。
「なんだ、お前!?」
なんだって?俺のこと?決まってんだろ、俺は………
「……あ、どうも…モブの持木です…」
後頭部に手を添えて愛想笑いでぺこり。凍った空気が走り、鼻で笑う男が「意味わかんねえ、死ねよ」と銃に指をかけた瞬間…外からファンファン、とサイレンが鳴り響いた。
は、とそれに気を取られたその時、須藤が走り出して男の手首を捻って銃を落とした。
そこからは早かった、警察が乗り込んできて強盗犯はさっさとお縄。
有栖が泣きながら真堂を呼ぶと頭をくらくらさせながら起きたし、森浦さんも心配そうに見ていた。
はー…かけはどうやら間違いなかったらしい。
モブとはその他のひとり。メインストーリー及び重要な話には口を出してはいけない、主役を取ってはいけない、と俺は考えている。
それを破ったらどうなるか?それはイベントの失敗。失敗したらどうする?そう、次のイベントにさっさと移らねばいけない。
だから俺は自らイベントを壊しにきたのだ。モブが前に出たことにより、早急にストーリーは失敗ルートとして回収。故に警察もさっさとくるし、犯人もさっさと捕まった。誰ひとり怪我することもなく、バグは最小限に留まる。
とは言え、冷や汗もんだった。いやぁだって殺されてもおかしくねーもん、俺モブだし。
「……持木」
「おう、上紺屋。さっきのかっこよかったなー」
さすがはメインキャラのひとり、なんて笑っていたらいつもの無表情を更にどこか怒りを込めながら俺を見る。え、なんで怒ってんの。
伸ばされた拳がこつん、と俺の額を叩いた。
「……無茶しすぎだ。心臓止まるかと思った」
「…わ、…悪い…?」
「……守れなかったらどうしようかと…」
「ば、ばかだなぁそういうのは女の子に言えよ、俺はただの」
「お前に言ってんだよ、誠人」
真摯に向けられた瞳に息を飲んだ。それはかつて見た前世の上紺屋…、…一将にそっくりで。幼い頃、一応は裕福なくくりだった為に誘拐されかけ、それを助けてくれたのが一将だった。
『この命に代えてもお守り致します、…あなたの幸せを守るのがこの一将の喜びなのですから』
一将はよくそう言っていた。俺がひとりだった時も、恋に悩んでいた時も、結婚した時も、ずっとそう言って見守ってくれていたのだ。…ばかだな、俺はもう主人公じゃないに、…立場が違っても、それでもそう思ってくれた一将がそこにいて、俺は思わずふと笑ってしまった。
「…ごめん、…もうしないよ一将」
それは在りし日、悪戯しては叱ってきた一将に謝るように俺は告げた。
笑ってる俺に叱咤しようとした一将だったが、何やら固まっている様子。俺は首を傾げた。なにを驚いて…?…あ、やべ、つい名前で呼んじまった。それか!前世で呼んでたからうっかり…まぁでも今世も友達だしもうよくね?
なんて思ってたら森浦さんが駆け寄ってきて、きゅ、と俺の服を掴んだ。
「…持木くん、…大丈夫…?」
「森浦さん!俺なんて全然そんな…それより森浦さんこそ大丈夫?怖かったよな、あんなの」
「…私は…大丈夫…だけど、持木くん」
「え、あ、はい」
「…無茶したらだめ、だよ……でも…ありがとう」
お礼を言われるようなことしてないのに…向けられた微笑みに照れてしまう。
その後、名前呼びが定着した俺たちに気づいた森浦さんが、自分も!と言い始めたけども男女ということもあって丁重にお断りした。
ものすごいふくれっ面をされたけども、一週間おかずを提供することで許されたのである…。




