ここで発覚モブが引き継いだスキル。まぁ別に使い道ないんですけどね。
お気づきの方もいるかもしれない。俺、持木誠人はどこをどう取ってもただのモブだが、前世の主人公スキルからただひとつだけ引き継いだものがある。
それは【なんか重要そうな場面に立ち会ってしまうスキル】だ。
簡単に言えば暴露話してる場面だとか、人が泣いてるところとか、そういう時に通りかかってしまう、といったもの。
これが主人公の場合、暴露をされてる相手だったりそれを救う重要な役割だったりする。
俺はモブなので、うっかりそれを見てしまう通行人だ。例えばこの前の黒岩先生の気になる人の話や、有栖の先輩事件などもそれ。
なんでそんな話をしたか、といえば、まさに今俺はその通りがかりだからだ。放課後、忘れ物をした、と教室に戻ろうとしたら影ふたつ。思わずばっと隠れてしまった。
だってそこには真堂と泣いてる女の子がいたから…。
女の子は双子美人姉妹と有名な子で…あそこにいるのは確か妹の方だ。一卵性なのでほぼ似た容姿でプラチナブランドの髪色(再三言うがここは普通の学校だ)をなびかせて、どこかの血が入っているのか色素の薄い瞳を輝かせる綺麗なふたり。
姉は自信満々で明るい桜木一葉、妹は控えめで優しい桜木二葉
姉に隠れている印象が多かった妹が、今真堂の前で泣きながら叫んでいた。
「私、なにも、なにもできない!いつもお姉ちゃんのお飾り、だめな子、できない子、お姉ちゃんの影にいるしかない!私にはなんにもないの!」
なるほど、これは双子美人姉妹ともてはさやされながらも自信を持てない妹とのイベントだな。
俺にも経験がある。残念ながら俺の場合は男の双子で友情イベントではあったけど…なにをやらせても完璧な弟と、弟に何でも取られてしまう兄…傍からみれば気弱な兄と兄を見下す乱暴者の弟だったけれど…蓋を開けてみればなんてことはない。
弟が可愛いからなんでもあげてしまう優しい兄と、兄が好きすぎて構ってほしくてワガママ言っていた弟の双子だったなぁ…こいつらのすれ違いに巻き込まれた俺は仲を取り持つにどれだけ苦労したことか…なんて遠い目をしていたら真堂の声が響いた。
「そんなこというなよ…俺知ってるぜ、お前は誰よりも優しい。教室の花に毎日水をやってたり誰かが困ってたらそっと手を差し伸べられる。お前はそのままでいいんだよ、そのままのお前が1番だよ」
一瞬、ひや、と空気が凍った気がした。そっと中を見ると桜木二葉は一瞬は、とした顔するが真堂が言うんだから間違いない、と切り替えるようににこりと笑って「嬉しい、ありがとう」なんてその胸の中に飛び込んでいた。
俺は一筋汗を流した。これはモブとしてあの子を時々見かけていたからわかる。
違う、あの子はそうじゃない。あの子は変わりたいんだ、そのままの自分がいやなんだ、本当は誰かの手伝いで使いっ走りしていたのも嫌がっていたし、花が好きなのではなく虫が苦手だから清潔にしたいだけ。
だから正しくは、変わろう、望むままの自分に。偽ることなんてない、不出来の可哀想な妹である必要ない、なのにあの子はあの言葉でもう終わってしまった。
真堂は間違えたのだ、選択を。
だけど、俺はモブ。できることはない。だからモブなのだ。ただ見ているだけ、救うこともできなければ助けることもできない。
歯がゆさもある、だけどそれが俺が受け入れた人生なのだ…。ぐ、と拳を握り締めて忘れ物を諦めて帰ろうと顔をあげた瞬間、そこには屈んでこちらを見ていた森浦さんのドアップ。声にならない叫びとはまさにこのことかと言わんばかりにびびった。
「っ…!?!?」
「…持木くん…ずっと座り込んでどうしたの…?」
「え、あ…その…机に手提げごと忘れ物、したんだけど…取り込み中だったから入れなくて」
「………あぁ」
森浦さんが顔をあげて、窓から中を見た。いや待て、きっとメインヒロインである森浦さんがこれを見るのはまずいのでは?いやこれもイベントなのか?どうしよう?なんてぐるぐる考えていたらなんと森浦さんは無遠慮にもガラッと扉を開けて入っていってしまった。
「…!」
「ごめんなさい、忘れ物取りたくて……邪魔はしないから…」
驚いて離れたふたりをよそに森浦さんは俺の机まで歩いていき、手提げを取ってそのまま踵を返して戻り、何事もなかったように扉を閉めた。
まだ屈んで隠れていた俺にはい、と手提げを渡してくれまでする…。
「…あ、…ありがとう…」
「うん…校門で上紺屋くんが待ってたよ…?」
「え、別に帰る約束なんかしてないのになにしてんだ、あいつ…」
「……三人で帰ろ…?」
「え…っ…い、いいの…?」
「うん…」
森浦さんの申し出に思わず声が上擦ってしまった。モブとして、森浦さんの中の真堂の印象をあげるためにフォローはいれてやらねば…ある意味他の女の子との修羅場を見てしまったわけだし…。
森浦さんは前世でもおっとりというかぼんやりというか、そんな様子だったのでモブになった今でもどんな感情を抱いているかはわからなかった。
真堂に悪い感情持ってないといいけど…。
俺はようやくそこから立ち上がって教室から離れた。
そこに残されたであろうふたりに向かって…頑張れよ、と心の中だけでぼやく。
俺の予想ではこの後双子の妹である桜木二葉の地雷をさっきのように踏みまくるとバットエンドヤンデレ「だってこんな私でもいいんだよね?」がある気がする。
だがしかし、発言間違えた後でも救済措置イベント「私、私ほんとは変わりたいの!」を起こせば正規ルートになるはずだ。
そこのフォローができるよう上紺屋を焚き付けておこう、うん。




