モブにも後輩ってもんはいるけどいないようなもの
花も恥じらう17歳。それが俺の年齢だ。無論後輩もいる。中庭でベンチに座ってパンを齧っていれば、渡り廊下が騒がしい。
髪はベリーショートで、はつらつとした声が元気の塊のような性格を示した女の子が、真堂の腕に抱きついていた。それを困ったように眉を下げて見ている真堂。
「ねーえ、せんぱーい!いいでしょ?ね、私と遊びましょーよー」
「こら、梨塚。だめだっていってるだろ。俺はこれから部活の助っ人なんだよ」
「帰宅部なのにバスケ部の助っ人になんでいくんですかっ!私とカフェに付き合ってくださいよーカップルデーで安いんですよー!」
駄々を捏ねてるのは一年の梨塚杏
少年のようなベリーショートとは裏腹に短いスカートをひらめかて、大きな栗色の瞳で甘えてる。小さな身長と小さな胸。まさに成長途中を楽しむ、とはああいうことだろうな。
もぐもぐとパンを食べていたら真堂と目が合い、なんと巻き込まれて指をさされた。
「それなら持木でもいいだろ?あいつ優しいから付き合ってくれるぞ」
おいこら真堂。子守りを押し付けるんじゃねぇよ、と呆れ顔を向けていたらちら、とこちらを見た梨塚はうげ、といった顔をしてからまたきゃるん、と可愛い顔を真堂に向けた。
「やだ!先輩がいいのー!」
…俺がなにをしたというのだ、ただのモブだぞ、そんな顔されるためのモブなのか、くそう。
食べ終わったパンのゴミをポケットにしまったら渡り廊下からまたひとり少女が現れた。
肩にかかるくらいに切りそろえられた黒髪。伏せ目がちに向けられた大きな黒い瞳。見覚えのあるその少女の名前は有栖菫
その昔、俺の前世でも後輩だった女の子だ。確か文化祭で交流があった時から俺を先輩、と慕ってくれた可愛い子だった。
「杏ちゃん、先輩困らせたらだめだよ…ほら、行こう?」
「やーだー!」
同級生をなだめる姿は今も昔も変わらない。同い年の女子の中でも少しだけ大人びていていつもまとめ役。その中で年上の自分たちが前に出た時に頼りになる姿に憧れてくれたらしい。
今はもちろんその対象は真堂、のはずだけど…どうやらまだそんなイベントは起きてないのか、有栖は真堂を気にしている様子はない。
「ほら梨塚。友達も迎えにきてくれたのに失礼だろ。行ってこいよ」
「うー…、わかりましたよーっだ。菫ちゃんいこっ」
「うん。…真堂先輩、ご迷惑おかけしました」
ぺこりと頭を下げていく有栖を見ながら礼儀正しい子だなぁ、と真堂が見送っていく。そうだろう、俺の後輩はいい子なんだぞ、とひとり自慢気になる…が、まぁ今は俺の後輩じゃないけどな、うん。関わりないから向こうは俺を知らないだろうし。
そんな三人を見かけた次の日。俺はまたパンをかじりながらベンチに座っていた
。ちなみに昨日も今日も、このパンは非常食だ。昼飯はちゃんと弁当がある。しかし育ち盛りの17歳男子には足りず、こうしてパンで満たしているのだ。
もぐもぐと口を動かしていたら隣のクラスの男子生徒が渡り廊下を歩いてきた。その後ろから恥ずかしそうに有栖が出てきて何やら可愛い弁当箱を渡そうとしている。ほう、どうやら今有栖が気になっているのはあいつなのか。てっきり真堂の対象だと思ったが…攻略対象の後輩は梨塚だけなのか、なんて考えていたら聞こえた会話に眉を寄せた。
「あ、あの…先輩、これ…っ」
「…あー…なにこれ、手作りのなんかってやつ?悪いんだけどこういうのやめてくんない?」
「え…」
「なに入ってんのかわからないし気持ち悪くて食えないつうかさ」
その言葉にみるみるうちに表情を暗くし、涙を耐えて下を向く有栖。あのくそやろう、あんなに可愛い子に向かってなにを……くしゃ、とパンの袋を握って立ち上がり、ひと言いってやろう、と思ったその時、反対側の中庭から真堂が走ってきた。
「悪い、有栖待たせたか?」
「っ…」
「お、頼んでた弁当作ってくれたのか?嬉しいなぁ。ごめんな、俺忙しくてなかなか捕まらないから俺に渡すようこいつに頼もうとしてくれたのか」
「え…っ」
「いやぁさんきゅ。それ俺のだからもらうな。…あれ、もしかして誤解させたか?自分宛だって」
「っ……んだよ、紛らわしいな…っ!」
弁当をぎゅ、と胸に抱えていた有栖を背中に隠して、へらへらと笑いながら言う真堂に男は恥をかいたと顔を真っ赤にしてぶつぶつと文句を言いながら去っていった。
そいつが完全にいなくなると真堂はそろ、と後ろを振り向いて俯いている有栖に小さく声をかけた。
「…あー…ごめん、な?俺余計なことした、かな…?」
「…!」
ぶんぶん、と有栖は首を横に振る。
どうやら性格が悪いとは知らずに憧れていた先輩に勇気を出してお弁当を持ってきたら最悪な態度を取られ、それに対して助け舟を出し逆に男に恥をかかせて真堂が救ったようだ。
おいおい真堂…ただの熱血バカかと思えば…かっこいいじゃねぇか真堂…!
見てみろよ、さっきまで泣きそうだった有栖もぽー、とした顔で真堂を見てる…!完全に立ったフラグにほっとしながら俺はまたベンチに座り直した。
「昼飯だけじゃ足りなくて…よかったらほんと食べさせて欲しいんだけどだめかな?」とか言ってるし有栖はこくこく頷いて渡してる。あとはなるようになるだろう、よかったよかった。
「真堂なら悪いようにはしないだろうし、安心だなぁ」
「なにが安心なんだ?」
「………だから、お前は…何度言えば…!」
前世で大事な後輩だった有栖を真堂なら預けられる、なんて勝手な親心でふふん、と笑っていたら背中からぬ、と現れた上紺屋が躊躇いもなく隣に座った。
驚くことすらも遅れた。ふるふると震える肩。何度言えば治るんだ、お前のそのくせは…!
そしらぬ顔で現れた上紺屋は自分も足りないのか、袋から開けたパンを取り出しバクっと食いついている。
俺の抗議も聞かずにまた「なにが安心なんだ?」と聞いてる始末。
俺は、はぁ、と深いため息をついた。
「真堂がいい先輩してるってだけだ」
「へぇ。さすが真堂だな」
聞いときながら完全に興味ゼロのセリフ。かりにも主人公の友人ポジのお前がなんていう冷め方だ…俺はまたはぁ、と深いため息をついた。
お昼にはそんな話題で森浦さんとも盛り上がったのは言うまでもない。




