モブは勉強もそこそこなんですけど困ってません。
学生の本分とは学業。すなわち勉強だ。俺の成績は中の中。さすがはモブ、といわんばかりの悪くもなく良くもない。
前世の俺が天才だったらよかったのだけど、前世の成績は下の上。何故かと言えば、無論「ここわからないの?教えてあげよっか?」という優しい委員長との勉強イベントのせいだ。
その後お礼で青い髪飾りをあげたっけ…委員長は大きな丸眼鏡と大きな三つ編みを一本背中に垂らした見た目からザ・委員長という子で学年一位の頭の良さだった。
真面目で明るく誰にでも優しい、そして胸は控えめ。眼鏡をつけてても可愛かったけど外したら更に美少女というテンプレ。プレゼントした後は嬉しそうに髪飾りをつけてくれてたなぁ…。
このクラスにも、頭のいい委員長はもちろんいる。アンダーリムの眼鏡と肩から三つ編みを垂らした委員長・奥墨真波。性格は控えめで胸も控えめ。勉強が苦手な真堂太陽に頼み込まれてよく教えている。
実際にも今まさにそこで…。
「委員長はやっぱり頭いいよな!ありがとう、やっとわかったよ!」
「う、ううん!私なんてそんな……役に立ててよかったです」
「今度お礼するからさ、なにがいい?」
「えっ…お礼なんてそんな…」
「遠慮すんなって!なんでもいいぜ」
「…その…じゃ、じゃあ…」
頬を赤らめて真堂を上目で見つめる委員長。口を開こうとした瞬間、真堂は友人のひとりに呼ばれてしまい、そちらに返事をして途切れてしまった。考えといて、なんて捨て台詞とともに去っていく真堂の背中を見つめて委員長はきゅ、と自分の手を胸の前で握った。
「……私とも…デート、してほしいなって……」
小さく呟かれた言葉にモブの俺は震える。か・わ・い・い…!!!当事者では気づけなかったこういう一面を見れるのもモブの醍醐味だ。
いじらしく主人公を想う委員長…可愛い…なんて思っていたら席に戻ろうとした委員長と目が合った。
やば、と思った矢先…委員長は控えめににこ、とだけ笑って頭を下げて去っていく。
天使かよ…委員長天使かよ…。
「…お前、委員長のこと好きなのか?」
「どうあ!?だ、からお前は…気配なく近寄るなって言ってんだろ!?…別に、好きとかじゃねぇよ、委員長の恋を応援したいだけだ」
いつぞやのように、ぬ、と後ろから声を掛けてきた上紺屋に間抜けな声があがる。だから何故お前はそこにいる…。
呆れ顔のままそう返すと上紺屋はふうん、とだけボヤいて中央の自分の席へ。
メインキャラはやはり主人公の近くに集めるのか、だいたいそこらへんに集まっている。
関係ないモブの俺はもちろん端っこ。だからこそこういうのが見れて楽しいのだけど。
チャイムが鳴って次の授業の先生が入ってきた。現国の先生は女性でスーツがよく似合う綺麗な人だ。
大きな眼鏡に大きな三つ編み。控えめな胸…は大きくなってゆさ、と揺らして教壇に立つ。
黒岩瞳先生。…そう、俺の前世で委員長だった彼女はなんと自分たちの先生となって生まれ変わっていたのだ。
最初見た時は驚いたけれど、彼女らしい姿に懐かしんだものだ…勉強好きだったし教えるの上手だったもんなぁ。
現国の授業はいつも以上に真面目に受けて30分。カツカツ、と足音を立てて黒岩先生が真堂の元へ。
真堂はしっかりと寝落ちしており、自分の腕に突っ伏していた。
…ちなみに黒岩先生ももちろん、真堂を取り囲む女性のひとり、だと思う。
「こーら、真堂くん?寝たらだめよ、起きなさい」
「ん、んー…んあ…?」
「…おはよう、起きた?」
「……肉まん…?」
寝ぼけた真堂は目の前にある青いシャツに包まれた黒岩先生の胸を見てぐわし、と掴んだ。なんて羨ましいイベントなんだ、真堂…!
そんな真堂に大人対応の黒岩先生は「寝ぼけないの」とぺちん、と額を叩いていて…。起きた真堂が自分の手に残る感触に、は!として慌ててすいません!と立ち上がって謝るけど、黒岩先生はふふ、と笑うだけで去っていく。
教師で年上で手のひらで男子生徒を転がすような余裕…トリプルコンボかよ黒岩委員長…いや黒岩先生…。
ちなみに触ってしまったことで顔を真っ赤にして座った真堂に斜め後ろの席のツンデレお嬢様がむーっという顔をして席を蹴られていた。哀れ真堂…。
授業も終わり、各々が散らばっていく。なんでもない顔をして出ていく黒岩先生を見ながら…昔の委員長を思い出してつい気になってしまい、俺も教室を出ていく。
人が多い廊下から外れて、声をかけようとした瞬間森浦さんが声を掛けていて思わず角に隠れてしまった。
「あの、黒岩先生…」
「…あら、森浦さん。どうしたの?」
「…その、…大丈夫、ですか…?…間違いとはいえ…女性の…大事な胸を…」
鷲掴みにされて、なんて言葉は続けられずに森浦さんが口を閉じた。それに気づいてか黒岩先生がまたふふ、と笑い声を漏らした。
「心配してくれてありがとう。大丈夫よ、あれくらい。真堂くんは学生時代の知り合いに似ててつい構っちゃうのよね」
「知り合い、ですか…?」
「真堂くんみたいに皆に優しくて人気者。…でも真堂くんみたいに底抜けに明るいわけじゃなくてね、どこか寂しそうな影があって少しクールなの。だけど誰かに頼るよりもまず自分で頑張る努力家で…気になっていつも声かけちゃってたの、わからない所教えてあげようか?なんてね」
「……その人とはどうなったんですか…?」
「…ふふ。どうかしらね。…でも忘れられないから私はこうしてひとりなのかも」
見なくたってわかる、その姿はきっとあの頃の委員長のように笑っているのだろう。彼女に前世の記憶はないし、今の彼女の学生時代にいたのも俺じゃない。それはわかっているのに…家に帰りたくなくて、友達の誘いも断って放課後ひとりで勉強していた時に声をかけてくれた委員長の優しさを思い出して唇を噛み締めた。
モブの俺には何も言えない。あの頃影でこう想ってくれていたなんて知らない俺に、言える言葉なんてない。
ただ、今の彼女の幸せを願うしかなくて。
そして俺は向こうから黒岩先生に謝罪しようと探している真堂を見てそこを後にした。
職員室に帰るから、と背中を見せた黒岩先生の三つ編みに青い髪飾りが光っているのを見ながら……。




