恋のライバル?
今日はいつもより早めに駅に着くことができた!
私がバイトがある日、いつも帰りに凪くんと駅で待ち合わせをしているんだけど、普段は凪くんが部活を終えて駅までやってくる時間の方が少し早くて、私は凪くんを待たせてばかりいた。
凪くんは気にしていないようだったけれど、申し訳ないなあ……もうちょっと早く駅につけたらいいのに、といつも思っていた。
そしたら今日は、バイトを終えてカフェを出たところで、美咲さんを迎えに来ていた天嶺さんに会った。
天嶺さんは車で来ていて、美咲さんを拾うついでに私も車に乗せて、駅まで送ってくれたの!
やったあ、これで今日は凪くんより早く駅に着けたんじゃないかな!?
駅前で車を降り、天嶺さんと美咲さんにお礼を言って、私はコンビニまでダッシュした。
すると、コンビニの前に、今日はまだ凪くんは来ていなかった。
よし!
いつも待たせちゃってたけど、やっと今日は私が凪くんを待つことができる!
私はウキウキしながら時計を見た。
……と言っても、いつも凪くんがどれくらい早くコンビニについているのか知らないから、この後いつ頃凪くんが来るのか分からない。私が普段バイトを終えて、駅にやってくる時間よりは早いんだろうけど。
まあいいや。凪くん、びっくりするかな? 今日はどうしたんですか? いきなり走るの早くなったんですか? とか聞かれちゃうかな?
私はいろいろ妄想しながら凪くんを待った。
すると、私の前に、一人の女の子がやって来て立ち止まった。
私に用があるみたいに、私の正面に立っている。
え?
私がその女の子を見上げると……その、私よりも背の高い、すらっとした制服姿の女の子は、あの、凪くんのクラスメートの女子だった。
その彼女が、私をじっと見つめている。
その視線を受けて、何となく心がざわっとする。
え? 何?
私は少しひるみながら、彼女に声をかけた。
「あの……私になんか、用ですか?」
嫌だな、あんまりこの子と会話したくない。ていうか、前にハワイ料理のカフェで会った時も、この子は私のことは完全に無視していた。一言も私には話しかけなかった。まるで私なんかその場に存在していないみたいに。それなのに、今日は真剣な顔で私を見るの?
「あなた、凪のことあきらめてくれへん?」
突然彼女の口から思いもよらない言葉が発せられて、私はわけが分からずぽかん、と口を開けた。
「え? あの……」
「なんで凪があなたと付き合おうと思ったんか知らんけど。でもあなたには凪は無理やと思う。あなたより私の方がずっと凪のこと分かってるし、学校でも部活でも一緒におるし、凪を支えられる。でも私がそうしたくても、凪はあなたと付き合ってるから、私をそういう相手として見ようとせえへん。凪はそういうところきっちりしとるから。だから、あなたと別れさえすれば凪は私のそばにいてくれるようになる。凪が筋を通せるように、凪と別れて」
へ? どういうこと? どうして?
彼女が言っていることの意味が私には全然分からなかった。
そんな言い方してたら、それはまるで……
「えーと、あの、凪くんが……私と別れたいってあなたに言ったってこと? でも凪くん自身からは言いだされへんから、私から別れるようにしろってあなたは言ってるん?」
「そんなこと凪が直接誰かに言うわけないでしょ? そんなことも分からん?」
彼女は吐き捨てるように言った。
ええー!?
いやいや待って、めちゃくちゃすぎない? 何それ? 凪くんは何も言ってないのに、この子は勝手に凪くんの気持ちを決めつけて、それで私に別れろって言ってるの? そういうことだよね?
「あの……あなたは凪くんが好きってこと?」
私が尋ねると、なぜか彼女は怒ったような表情になった。
「あんたなんかに関係ない」
「ええ!? いや、関係大ありでしょ!? だって私は凪くんが好きやし。だから自分から別れる気なんてあるわけないし。でもあなたも凪くんのことが好きやから、凪くんにフリーになってもらいたいってことでしょ?」
もしかしたら私、かなり彼女を苛つかせるような話し方してる? 一つ一つ確認しないと話を進められないのって、たぶん……頭のいい人とかからすると、すごくまどろっこしいっていうか、早く結論を出せって思われてるのかもしれない。
彼女はイライラしているからか、自分の爪を噛みながら私に言った。
「もし凪のこと、一途な男であんたのことしか考えてへんとか思ってるんやったら、それ大間違いやから。凪は普通に誘惑に負ける男やし、その辺の男と変わらんし」
「え……」
「前に、凪と二人きりで、誰にも言えんようなことを話した時に、私、凪に言ってん。彼女にこんなところ見られたらまずいやんな? って。そしたら凪、そうやなって否定せんかったで。分かる? あいつ、普通にあんたに後ろめたいことしてんの。私にぐらついてんの。普段別の学校で、そうそう会われへんあんたより、私の方がいいって言ってんの!」
彼女が強い口調でまくしたてている内容は、私にはかなり衝撃的だった。
誰にも言えないような話? それを、凪くんが……この人と、二人でしていた?
凪くんが……もし、本当に私に後ろめたいと思うようなことをしていたら……
……でも、どうしても違和感がある。
凪くんがそんなことする?
私の知っている凪くんは、どう考えてもそういうタイプじゃないと思うんだけど。
もちろん、私より……いつも、ずっと長い間一緒にいるこの子しか知らない凪くんがいるって可能性は……きっとあるんだろうな、と思う。
ちくちく、ちくちく、胸に無数の針が刺さったみたいに痛い。
でも私はどうしても彼女に聞きたかった。
「あの……あなたは、どうしてそんな風に凪くんを悪く言うん?」
「は?」
「凪くんは誘惑に負けるとか、後ろめたいことするとか、そんな人ちゃうって私は思ってる。あなたも凪くんが好きやったら、凪くんがそんな人やなんて思いたくないんちゃうの? だって、もし凪くんがほんまにそういう人やったら……もし私が凪くんと別れてあなたと付き合ったとしても、あなたはずっとそれを不安に思って過ごさなあかんやん。凪くんがまた自分じゃない他の人に誘惑されて、それに負けてるんかもって思って過ごさなあかんなんて、そんなん嫌やん」
凪くんは、私にとってはものすごく誠実な人だ。いつも私を傷つけないように考えてくれる。私がこうしたいって思ったことをかなえてくれようとする。だから私は凪くんを信じている。私のそういうところが凪くんにとって重たいなあって思われたとしても……それでも私は私と向き合ってくれている時の凪くんを信じたい。
彼女はぐっと唇を噛んだ。
「……ちゃうし。凪と私は一緒やし。なんの苦しみもなくただ幸せな家族の中でのうのうと生きてきたあんたとは違う。うちらは同じ苦しみを持ってる。だから分かりあえる。両親がそろってて、いつでも笑いかけて面倒見てもらえる環境で過ごしてるあんたに、片親の心もとなさとか孤独なんて分からんやろ? 両親がおってもいつ崩壊するか分からん、自分がなにかしたら終わるかもしれん恐怖の中で毎日過ごしてる人間の気持ちがあんたに分かる? 恵まれてるあんたじゃ、凪の本当の孤独なんて分からんやろ。それが分かるんはあんたやなくて私やの!」
今までと突然話の内容が変わったので、私はえ? と少し混乱した。
必死で彼女の話を頭の中で理解しようとする。
恵まれてる……
彼女から見たら、私は恵まれているように見えるのか……
彼女は、恵まれている私が許せないの?
みんな、自分ばかりが損をしているように思っちゃうものなのかな。自分よりも他人が、いろいろと望むものを手に入れているように見えるのかな。
……私も、同じようなこと、いつも思ってる。
「……私は、あなたがうらやましいけど」
私が小さい声でぽそっと言うと、彼女は眉をしかめて私を見た。
「は? なに言ってんの?」
「だってあなたは凪くんといつも一緒にいるでしょ? 学校が同じ、クラスが同じ、部活まで同じ。毎日ずっと、ほぼ一日中凪くんと同じ空間にいる。私はほとんど一緒にいられないのに。私から見ると、あなたはすごく恵まれているように見える」
「……それがなによ」
「私から見ると、あなたは贅沢に見える。でもそれはあなたと私じゃ見てるものが違うからやんね。私は……なによりも凪くんといたいって思ってる。でもあなたの欲しがっているものはそっちがメインやないみたい。あなたは凪くんよりも、両親が欲しいんとちゃうの?」
「は? 意味分からんこと言わんといて。両親にそろっててほしいと思うんなんか当たり前でしょ」
さっきはチクチクしていた痛みが、ズキズキと大きくなってきた。
当たり前……そりゃそうだよね。この子は、両親そろっていてほしくて、それがかなわなくて、代わりに凪くんを求めている。
私は……誰の代わりでもないよ。凪くん自身を求めてるんだけど。凪くんだけ求めてるんだけど。
でも、そんな気持ちだって、きっとこの子には分かってもらえないんだ。




