グミとキーホルダー
美咲さんのバイトが終わるまで絶対に休憩室から出て行かない! と豪語している天嶺さんを残して、私と佐久間くんはkamome caféを後にして駅まで一緒に帰っていた。
二人とも高校の制服姿。でも私たちは違う高校だから、統一感はない。……何だか変な気分。
「はー、めっちゃびっくりしたね! あの怖そうな人が美咲さんの彼氏やったなんて」
……ていうか、佐久間くん、大丈夫かな? 美咲さんの彼氏をリアルで見ちゃって……実は密かにショックを受けたりしてるのかなあ。
でも佐久間くんは、手を口に当てて考えるように歩いていた。
「そっか、それであの時……佐伯さんが休憩室に行った後、少しホールのお客さんがざわついてたんか。俺、他のお客さんの対応で忙しかったからあんまり気にしてられへんかったけど、あれは天嶺さんに気付いたお客さんが盛り上がってたんや。だから高瀬さんがお客さんの目から離すために天嶺さんを休憩室に連れて行ってたんかあ」
思い出すようにつぶやいている佐久間くんの言葉を聞いて、私も状況が何となく分かってきた。
理由はどうあれ、やっぱり天嶺さんはお客さんに怒鳴られている私を助けてくれたんだ。それも、ただ声をかける、とかじゃなくて、ダイレクトにお客さんと私の間に入って壁になってくれた。あの瞬間、お客さんの姿が視界から消えて、それだけで私は救われたような気がしたんだ。
今日は……本当に、いろんな人に助けてもらったなあ……
私は隣を歩いている佐久間くんの顔を見上げた。
「佐久間くん、グミありがとね。めっちゃすっぱくてびっくりした!」
「うまかったですか? あれ、マジで弟のお気に入りなんですよ。弟、めっちゃすっぱいのとか激辛グミとか大好きなんで」
「おいしいっていうか……おもしろかったよ。佐久間くんが言ってたみたいに、気分がすっきりしたような気がしたから、たまにはああいうの食べるんもいいかもね」
「そう言ってもらえたんなら良かったです」
佐久間くんとは一歳違いで、年が近いのに、けっこう他人行儀というか……そんなに親しく接してもらったことがなかったから、距離があるのかなあと思っていたけど、そんな気持ちはなくなってしまった。
だって距離を感じてる人にめちゃくちゃすっぱいグミなんて渡さないでしょ? だから実は私が思ってるより、佐久間くんは私に親しみを持ってくれてるのかもしれない。
私たち、お互いに年上の人に片想い同士だしね……そしておそらく失恋同士だ。どっちも憧れている相手には恋人がいる。
でも、高校生の年上の人に対する片想いなんて、そういうものなのかも?
口に出してそんなこと言ったりはしないけれど、私は勝手に佐久間くんに対して親近感を持ち始めていた。
佐久間くんは歩きながら、背負っていたリュックを前に持ってジッパーを開けた。
「そしたらついでにこれもあげます」
リュックから取り出したのは、かくかくした緑色のキャラクターのキーホルダーだった。
「……これ、なに?」
「これも弟が好きなんですけど。マインクラフトってゲームの、クリーパーってキャラです。ガチャガチャでこればっかり取れちゃったんで、いっぱいあるからひとつあげます」
佐久間くんが私の手のひらにキーホルダーを乗せた。
「えーと、かわいいけど……もらっていいん?」
「はい。これ、まだ家に三つくらい同じのあるんで」
私はぷっと吹き出した。
「佐久間くん、めっちゃ弟くんにいろいろ買ってあげてるん? 優しいお兄ちゃんなんや?」
佐久間くんは私を見て少し目を見開いて、それからほんの少し頬を赤くして前を向いた。
「いや、別にそんなん……ただ俺、バイトして自分で金稼げてるんがうれしくてちょっといい気になってるだけなんで。もらった小遣いの中でやりくりして、とかじゃなくて、自分で稼いだ金やから好きに使っていいんや、って弟にいいかっこしたくて、つい菓子とかおもちゃとか買ってまうだけで。別に優しいとかやないです」
それ、十分優しいお兄ちゃんじゃないの、って思ったけど、それは言わなかった。
それよりも、私と同じこと考えてる、と思ってうれしくなった。
「あは、それ、めっちゃ分かる! 私も自分でバイト代稼いでるんうれしくって、ついついデパ地下とかで家族の分もスイーツ買っちゃったりする! こんなんできる私、すごいやろ? って家族に自慢してまうの。私もやってる!」
「なんや。一緒ですね」
「うん。考えることおんなじやね」
こうやって、誰かと同じこと考えてたんだって分かると、急にその人との距離が縮まったような気がしてうれしくなる。
佐久間くんは、年が違うし、学校も違うし、もちろん性別も違うし、バイトに入ってる頻度も、働きぶりもきっと違う。全然違う……けど、同じことだってある。
そういうの見つけられると、楽しいよね。
「……思ったより元気そうなんで安心しました」
「え?」
「休憩室で、落ち込んでるみたいやったから。ホールにいたみんなも、佐伯さんがショック受けてバイト辞めちゃうんじゃないかって心配してましたよ。でもあのことをひきずっていないのなら、大丈夫なのかなって」
「あ……あー、うん、大丈夫。みんなが……佐久間くんも優しくしてくれたから、元気になった。怖い人はもちろん嫌やけど、でもいろんなお客さんがおって当たり前やろうし……接客とかやってたらきっとみんな通る道やんね? 私ももっとちゃんと対応できるように頑張らんとね」
私のこと、そんな風にみんな心配してくれてたのか……
申し訳ない……
次もしまた同じようなことがあったら、今度はもっとうまく対処できるようにならなくちゃいけないなあ。
佐久間くんは歩きながら私の方をちらっと見た。
「俺も次はすぐにフォローに入れるように頑張ります」
「え! そんな……えっと、私ももし佐久間くんが変な人に絡まれたらフォローするからね!」
「あんまり期待してないですけどよろしくお願いします」
き、期待してない……! がーん……
いや、そりゃ今日の何もできなかった私を見ていたらそう思われても仕方ないけど。
でもよろしくって言われたし! 私、一応佐久間くんより年上だし! いっぱい助けてもらった分、次は私が誰かを助けられるようになるんだ!




