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昼下がりのkamome café  作者: はる
美咲とトモ
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恋人たち

 バイトを終えてカフェを出る。

 帰り道は、紗羽ちゃん、佐久間くんと一緒だった。

 夜が更けた街は、昼間の喧騒が嘘みたいに静まり返って、大通りを時折通る車の音しかしない。

 私は空に向かって伸びをして、縮こまった肩を伸ばした。


「……あの、美咲さん……」


 紗羽ちゃんがためらいながら私に話しかける。

 バイトの間中、紗羽ちゃんはずっと私の方を見ていて、話をしたくて仕方ない感じだったもんね。


「どうしたん? 紗羽ちゃん」


 私はニコッと紗羽ちゃんに笑いかける。

 私の笑顔を見て、紗羽ちゃんはほっとした表情を浮かべた。


「あ、あの、美咲さん、天嶺さんのことなんですけど……」


「あー、トモ? うん、実は復縁、っていうか、また付き合うことになって……」


 紗羽ちゃんの表情がぱっと明るくなった。


「そ、そうですよね? 今日美咲さん、めちゃくちゃ表情明るくて、幸せオーラ出てましたもん! きっとそうやと思ってました!」


 紗羽ちゃんの言葉に吹き出す。

 幸せオーラ? ……そうかなあ? 自分では全然意識してないから、分からなかった。


「凪くんが、たぶん二人は大丈夫なんちゃうかなって言ってて」


「佐久間くんが?」


 私は後ろを歩いていた佐久間くんを振り返った。

 佐久間くんは少し目を見開いてひるみながら、あ、はい、と答えた。


「……天嶺さん、今週遠征行ってますよね? 昨日の試合、俺、動画サイトで見てて」


 トモの試合? それが何の関係があるの?


「天嶺さん、最近試合で勝つと、いつも勝利インタビューで高瀬さんの話してたん、知ってますか?」


「あー……うん、らしいね」


 それ、浪下くんに見せてもらった動画の話だよね。別れてた間、私に近付かなくなったトモは、いつも試合で活躍した時、勝利インタビューでこっぱずかしく私へのメッセージを叫んでたってやつ。

 よく聞いてみると、私の部屋の前に置いてあったバラの花とお菓子。あれは、トモが勝利インタビューを受けた日に私に届けられていた。

 トモいわく、「全世界に美咲への愛を伝えたのに、美咲本人にはなんも伝わってへん! 近付くことはできんから、俺の気持ちを届けるために花と菓子を置いていったんや!」てことらしい。

 よく意味は分からなかったけれど、とにかくインタビューで恥ずかしいこと言った回数だけ私のところに花とお菓子が届けられた、ってこと。

 あのインタビュー、佐久間くんも見てたのか……

 以前私がトモと別れたって話をした時、佐久間くんが、「天嶺さんも別れたと思ってるんですか?」って聞いてきたの、きっとそのインタビューのことがあったからだよね?

 でも、その恥ずかしいインタビューはもうやめてってトモに言ったんだけどな……

 佐久間くんは携帯を取り出して、無言で操作し、私の方に画面を向けた。


「……これ、昨日のインタビューです。この部分だけ切り取られて、いろいろ拡散されてましたよ」


 それは試合後のトモのインタビューで。以前見た時と同じように、インタビュアーにマイクを向けられたトモが話していた。


『……それでですね、天嶺選手、最近、あのおなじみの女性へのメッセージが聞かれなくなりましたが、どうしてなんでしょう?』


『あ、それ聞きます? 聞いてまいます? いやあ、彼女が恥ずかしがってもてね。だから全世界に向けてメッセージを送るんはやめたんすよ。でもその代わり、今後は彼女の耳元で愛を囁き続けることにしたんで! なんも問題ないっす!』


『そ、そうなんですね』


『え、そんなに美咲の話聞きたいですか? あー、しゃあないなあ、俺に美咲への愛を語らせたら、時間なんかいくらあっても足りんのですけど! そしたらまずは、美咲がいかにええ女かってのから説明しましょか!』


『あ、あの、大丈夫です。そろそろ時間もなくなってきたので、これでインタビュー終了です! 放送席どうぞ!』


 ……私はうなだれてため息をついた。。

 こういう恥ずかしいことやめてほしいから、もう何も言わないでって言ったのに……!

 結局もっと恥ずかしいこと言ってない!?

 佐久間くんは携帯をリュックにしまった。


「昨日これが流れてたんで、きっと仲直りしたんやろうなって思ったんです。今までは天嶺さんが一方的に叫んでましたけど、今回は高瀬さんの耳元で、って表現で、距離が近くなってたんで」


「あー、そう……」


 そんな細かいこと、絶対トモは考えてないと思うけど!


「でも、ほんまに良かったです! 二人が仲直りしてくれて。私、美咲さんと天嶺さんの二人が憧れなんです。だからめっちゃうれしいです」


「えっ」


 紗羽ちゃんが笑顔で話していると、後ろから驚いたような佐久間くんの声が聞こえた。

 再び佐久間くんを見ると、佐久間くんは手で口を押さえて顔を背けていた。


「あの、すみません、なんでもないです」


「え? 凪くん、どうしたん?」


 紗羽ちゃんが不思議そうに佐久間くんに尋ねる。

 その二人の姿を見て、私は吹き出してしまった。


「あは、紗羽ちゃん、私とトモが憧れ、なんて言うから、佐久間くんがびっくりしたんやん。きっと佐久間くん、トモみたいに紗羽ちゃんに対して愛を叫ばなあかんのかと思ったんちゃう?」


「え!?」


 紗羽ちゃんは驚いて肩をすくめた。すぐにかあっと顔が赤くなる。

 佐久間くんは慌てたように答えた。


「いや、いくらなんでも……俺、テレビとか出ませんし。全国放送でそんなん言うとかありえないんで」


「そそそそ、そうやんね? 凪くん別にテレビとか出んもんね!?」


 その二人の姿があまりにもかわいくて、私はめちゃくちゃニヤニヤしてしまう。


「あれ? そしたら、テレビに出ん状態やったら、佐久間くんは紗羽ちゃんにそんなん言ったりするってこと?」


「は!? いや、ないんで。そういうんは……あの、まだ早いんで。ないです」


 めちゃくちゃしどろもどろになってる!

 うわー、めっちゃかわいい!

 ああもう、この二人の初々しさ!

 私とトモは、性格上、初々しさなんてなかったもんなあ……

 ちょっともったいなかったかなあ、と思いつつ、でもそれが私たちだもんね。

 紗羽ちゃんと佐久間くんは、二人で二人だけの関係を作っていく。

 私とトモも、私たちだけの幸せを作っていく。

 それでいい。

 顔を真っ赤にしたかわいらしい二人を眺めて、人を好きになるっていいなあ、と私はあったかい気持ちになっていた。


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