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昼下がりのkamome café  作者: はる
美咲とトモ
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37/42

美咲の傷

 私は玄関の内側に座っていた。

 時間は、夜の十時くらい。

 クッションを敷いているとはいえ、ずっと廊下に座ってるの、いい加減疲れてきたなあ……と思ったところで、玄関の外側で、小さくカタン、と音が聞こえた。

 私はすぐに立ち上がってドアを開けた。


「うわっ」


 驚く声が聞こえる。

 私がドアを大きく開くと、外にはトモが立っていた。


「みみみみみ美咲? なんで」


 トモはさっと手に持っていたものを後ろ手に隠した。

 ……いやいや、隠したって意味ないでしょ。今までずーっとそれ、ドアノブにひっかけてあったんだから。

 私はトモをじっと見た。


「それ、見せて」


 私がそう言うと、トモはしぶしぶ背中に隠した紙袋を前に出した。

 そのまま私の方に差し出されたので、私は紙袋を受け取った。

 受け取る際、ほんの少し、二人の指先が触れる。

 ……あ、どれくらいぶりだろう? トモに触るの。

 トモが黙ったまま立ち去ろうとしたので、私は待って、と声をかけた。

 私の声を聞いて、トモがゆっくりと振り返る。


「トモ、中入って」


「……え」


 私が部屋の方へ促すと、トモは眉根を寄せて警戒の表情を見せた。


「な、なんで」


「ええから早くして」


「そう言って、お前、俺がお前の部屋に入った途端、どこからともなく警察が現れて俺を逮捕するんちゃうやろな!」


 私はあきれて大げさにため息をついた。


「なに言ってんの? そんな警察の迷惑になるようなことしません。どうするん? うちに来るん? 来んの? さっさと決めて」


 イライラしながら言うと、トモはあきらめたのか、ゆっくり私の方に歩いてきて、部屋に入った。





 1Kの私の部屋に入ったトモは、キョロキョロしながら何回か深呼吸をした。


「……なに?」


「え……いや、美咲の匂いやなーと思って。めっちゃ久しぶりやから堪能しとる」


「そういう変態っぽいこと言わんといてくれへん? さっさと座って」


 私はクッションをトモにぶつけるように投げた。

 トモは唇を尖らせてその場にすとん、と座って胡坐をかいた。

 ……トモがいると、途端に私の部屋がめちゃくちゃ狭くなったように感じる。トモが大きいから。

 あーあ。

 やっぱり駄目だなあ。

 トモの顔を見た途端、声を聞いた途端、指に触れた途端。

 トモへの愛しさがぶわっと溢れてきて、私の全身を満たした。

 私はまだトモが好きなんだ。

 こんなにあまのじゃくで、素直になれなくて、めんどくさい私だけど。

 それでもトモと一緒にいたい。

 いつもうまく素直になれないけど……でも、浪下くんが言っていたことを思い出す。

 私がどれだけ隠したって、私の気持ちや考えていることは、分かる人には分かってしまうんだったら……それなら、トモにだって、隠しても意味ないんじゃないかなあ?

 他の人は私の気持ちを知っているのに、トモは知らないなんて。そんなの不公平だ。

 トモだって知るべきだ。本当の私の気持ちを。


「……トモ」


「えっ?」


「トモは、なんで私が怒っとったんか分かってる?」


「え? えーとえーと」


 突然私に尋ねられ、トモはめちゃくちゃ慌てている。きっと何も考えてなかったんだろうなあ。


「そ、それはほら、あれや、俺らが出かけようとしとったところに邪魔が入ったから! せっかくこう、二人で雰囲気のええところに行こうとしとったのに! できんくなったから!」


「違う」


「ちゃうの!?」


 うん、トモはきっと、説明されなくちゃ一生分からないよね。察して、なんて自分に都合のいいこと、トモに求めるのは無理。それを分かっていなくちゃ。


「あの時……トモの元カノがおったやん。あの人が私にきついこと言ってきた時、なんでトモはなんも言わんかったん?」


「えっ?」


 トモはそんなこと聞かれるとは思っていなかったのか、ものすごく驚いた顔をした。


「だってそんなん、お前、美咲はあんなん言われて言われっぱなしになっとるようなやつちゃうやろ。それが分かっとったから」


「……そしたら、あの人が私を叩いた時は?」


「あ、あれな! あれはさすがにぐわーって頭に血が上って、一瞬あの女ぶん殴りそうになったけどな。俺の美咲になにしくさっとんねん! って思ったから。でも俺が女殴るわけにはいかんから、すぐ我に返って自分を抑えてん。下手したら殺してまうもんなー。さすがにそれはあかん」


「……それで?」


「え、それで、って……いや、さすが美咲やなーって俺、感動しとってん。あの女の、美咲の顔ひっぱたくっていう、外から見たら分かりやすいけど実際は大したことないダメージに対して、美咲は見た感じのダメージは伝わりにくいけど、脛という急所を的確に攻撃したやろ! 美咲すげえ! って思って、マジで俺見惚れとってん。美咲はなに言われても相手の方がダメージでかくなるように言い返すし、肉体的ダメージも与えられるし。こんなええ女おる!? って俺感動して見とった!」


 私は額に手を当ててため息をついた。

 何それ!

 私を助けるとか守るとか以前に、トモは女の喧嘩をウキウキで観戦してたってこと!?

 ああもう、説明するのもだるい……

 でも、これをそのままにしたら駄目なんだよね……


「……トモ」


「うん?」


「トモのそれ、マイナス一億点やから。完全に間違った対応。分かる?」


「へ? なんで」


 私はぷくっと頬を膨らませた。


「そら、私、気強いし……やられたらやりかえしたるって思ってるけど……でも、あの時私、怖かったのに」


「え」


「いきなり年上の、知らん女の人に厭味言われて、責められて、叩かれて。めちゃくちゃ怖かった。トモに守ってほしかった。それやのに、トモは守ってくれへんし、ただ見てるだけやし」


「え……あの、美咲」


「トモが守ってくれへんのやったら、自分でどうにかするしかないやん。私、必死やったのに。誰も守ってくれへんのやったら、私を守れるんは私だけやん。私、トモはなにがあっても私を守ってくれるって信じてたのに、裏切られてん。私がどれほどショックやったか分かる?」


 トモは瞬きを忘れたように目を見開いていた。顔から血の気が引いていく。


「私、めちゃくちゃ傷ついたのに……それやのにトモはそんなん一切気にしてへん。私はあの女の人に攻撃されたことより、信じてたトモに裏切られた方が辛かった」


「み、美咲、その、すまん。俺、全然そんなん分かってへんくて……」


 私はうつむいた。話しているうちにあの時のことを思い出して、ちょっと涙ぐんじゃったくらい。

 私の涙は更にトモに衝撃を与えたようだった。


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