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昼下がりのkamome café  作者: はる
美咲とトモ
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36/42

浪下くんの推理

 よく晴れた日の夕方、大学の講義を終えて駅に向かって歩いている時に、偶然浪下くんと一緒になった。

 浪下くん。

 以前、課題のグループが同じになったことがある、穏やかな男子。


「高瀬さん、久しぶり」


 ザ、草食系、って感じの優しげな笑顔に、私もにっこりと笑みを返した。


「ほんま、なんか久しぶりやね。講義は一緒やけど、あんまりしゃべってなかったよね。相変わらず薬局のバイト頑張ってるん?」


「うん。最近はいろんな店舗の応援に行きすぎで、乗り換えるんめっちゃ早くなったよ」


「あは、なにそれ」


 ああ、こういうぎらついてない男子と話すのはいい。気持ちが落ち着く。


「……そういえば、高瀬さんに前駅で会った時、めっちゃ俺のことにらんできた人おったやん」


「え」


 ぎくっとする。

 それ、あれだ。トモが私を迎えに来た時だ。トモがめちゃくちゃ浪下くんをにらみつけて、浪下くんは怖がってさっさと帰っちゃったんだよね。


「あれ、バレーの天嶺トモやったんやね。高瀬さん、天嶺トモと付き合ってたんや。びっくりした!」


「あー……」


 あの時は……まだトモと付き合ってたわけじゃなかったけど……そして今ももう付き合ってないけど……

 でもわざわざそんなこと言う必要もないかな?

 浪下くんが、リュックからごそごそと携帯を取り出した。


「高瀬さん、最近話題になっとる天嶺トモのパフォーマンス知っとる?」


「え?」


 浪下くんは、携帯をすっすっと操作しながらおかしそうに話している。


「俺、けっこうスポーツの試合見るん好きやねん。野球もサッカーもバスケも見るけど、天嶺トモ知ってから、バレーの試合も見るようになってんけどさ。最近、天嶺トモが試合で活躍した時の勝利インタビュー、めちゃくちゃ熱くて話題になってんで。知らん?」


「えー……私、バレーの試合とか、特に見たりせんから……」


「そうなんや! インタビューのその部分だけ切り取られてめっちゃSNSでも流れとるのに」


 浪下くんが私の前に携帯の画面を差し出した。

 どこかの動画サイトにあげられている、トモのインタビューの場面だった。

 試合が終わった後、ユニフォーム姿で汗まみれのトモが、興奮冷めやらぬ、といった感じで自分に向けられたマイクに向かって話している。


『では天嶺選手、今日の勝利の最大の要因を教えてください!』


『もちろんそれは、俺の愛する人がいるからこそです! 彼女のこと考えたら、俺は無限に力が湧いて来るんで! あいつのためなら俺は5mでも跳べる!』


『5mはすごいですね! 次の試合もどれくらい跳ぶか楽しみにしてます! では天嶺選手、最後に一言どうぞ!』


『美咲! 愛してるで! お前のために俺は次の試合も勝つ!』


「……」


 私は目と口をあんぐり開けて、そのインタビュー動画を見た。

 え!? 何これ!?

 私の知らないところで、トモ、こんなこと言ってたの!?


「最近の試合で勝ってインタビュー受けるたびに同じこと言っとってさ。もうめちゃくちゃ盛り上がるねん。この美咲って誰や! ってみんな噂しまくりで。でも誰もその相手を見たことないから、この美咲って子はほんまにおるんか? とか、実はファンの女の子たちを偶像化して美咲って名前つけとるだけなんちゃうかとか、しまいには天嶺トモの妄想の中だけにおる子なんちゃうかとか、めっちゃいろいろ言われてるで」


「ええ? なにそれ……」


「でもそっか、高瀬さんは試合見たことなかったんやー。そら知らんくても仕方ないか」


 ……信じられない!

 別れてるのに!

 私たちは彼氏彼女じゃないのに! あんなこと公衆の面前で言ったりする!?

 ……でも確かに、トモは今見たインタビューの中では、私のこと、恋人とは言ってない……

 途方に暮れている私を見て、浪下くんはおかしそうに笑った。


「困った風に見せて、高瀬さん、けっこう喜んどるね」


「……え」


「恥ずかしいけどうれしいんやろ?」


「ええ? いや、なんでそんな」


 私はしどろもどろになった。どうして浪下くん、そんな風に私の心を読むようなこと言うの!?


「なんとなく分かったっていうか……高瀬さん、上に兄弟おるんちゃう? 兄か姉か……兄かな。高瀬さんは妹やろ」


「なんで分かるん? 確かにお兄ちゃんおるけど」


「ほら、俺、姉一人と妹二人に囲まれてるから。高瀬さんの妹っぽさがなんか分かった」


 本当に!?

 浪下くんが姉と妹三人に挟まれた四人兄弟っていうのは知ってたけど。それだけで、私が兄弟の妹って分かるもの?


「別に俺の妹と高瀬さんが似てるとかやないで? 全然似てへんけど、妹っぽさがなんかかぶるねん。高瀬さん、一人でなんでもできるし! って普段よく動こうとするやろ。でも気分が乗らん時は、他人がやってくれへんかなーってちょっと他人に乗っかろうとしてるんとか、そういう実は甘え上手っぽいところが俺の妹と一緒やなって思ってん」


 ぎくぎくぎく。

 やばい、浪下くんには全部ばれてる……!?

 実は私がサボり魔なところとか、うまく隠してるつもりだったのに……!


「高瀬さん、けっこう普段はクールに振る舞っとるやん? 天嶺トモにもめっちゃズバズバ言っとったけど、きっと要所要所でうまく甘えてるんやろなーって思った。そんで、天嶺トモは、高瀬さんが冷たくあしらっとるところも、急に甘えたりするところも、きっと全部かわいくてしゃあないんやろうなって」


「え……な……なんでそんな」


「あ、気悪くしたらごめん。それこそうちの妹が、やねんけど、下ってやっぱり上に対して、自分もちゃんとできるし! って大人に見せたがるところあるねん。でも兄弟の上の人間から見たら、そうやって自分を大人っぽく見せようとしとること自体がなんかかわいく見えるねん。大人っぽく振る舞っとっても、実際はそういう自分のこと、ちゃんと見てる? なんかあったら助けてや? 甘えさせてや? って思ってるんが漏れ出とってさ。……と言っても、うちの妹たちはわがまま放題の悪魔みたいなもんやけど」


 浪下くんが、こんな人だったなんて……!

 やばい。なんか私の本心を丸裸にされているみたいだ。

 めちゃくちゃ恥ずかしくなってくる。

 おそるべし、女兄弟が多い男子……!


「だから、もし今高瀬さんがなんかモヤモヤしとることがあったとしても、それ、全部天嶺トモにぶつけてええと思うよ。変なこととかヤバめなことでも、なんでもたぶんあの人喜ぶんちゃうかな。なんせ、全然高瀬さんが知らんところで、全世界に向かって高瀬さんへの愛を叫びまくっとるような人やから」


「え!? いや、私別に……」


「高瀬さん最近ずっとため息ついたり心ここにあらず、って感じやったやん。姉とか妹たちが男関係で悩んでるんとまるっきり一緒やったで。みんな自分が思っとること全部相手にぶちまけたら、結果はどうあれすっきりした顔しとったよ。だから高瀬さんもすっきりしたらええよ」


 浪下くん、エスパー……!

 え、草食系男子だと思ってたのに、実はめちゃくちゃ女心分かってる系なの!?

 あー、確かに、姉や妹がいる男はもてるって聞いたことあるかも……

 こういうことか……

 浪下くんの携帯がぴりり、と鳴った。


「……浪下くんは彼女を不安にさせたり不満に思わせたりしなさそうやね」


「え? そんなことないと思うけど。……はい。あー、奈々? え? イチゴミルク買って来い? だから俺はこれからバイトやって。麗奈も欲しい? 知らんって。パイナップルがええって……だから! ……あーもう分かった分かった。うるさいって。買ってけばええんやろ。は? 姉ちゃんの分なんか知らんって。……もうええよ、微炭酸やろ、分かってるって。だから一度にしゃべんなって。もう切るからな!」


 浪下くんはため息をつきながら通話ボタンをトン、と押した。


「えーと、今のは妹さんたち?」


「そう。俺はあいつらの奴隷やねん。めんどくさいけどしゃーない。言うこと聞かんかったらいつまでもぎゃあぎゃあ文句言うから。そしたら高瀬さん、俺、あいつらにジュース買って行ってやらなあかんから走ってく。じゃあ」


「あ、うん、バイバイ」


 せわしなく走っていく浪下くんの背中を見て、大変そうだなあ、とぼんやり考える。

 ……でも浪下くんも、あきらめてるっていうか……そんなに嫌そうでもなかった、かな。


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