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昼下がりのkamome café  作者: はる
美咲とトモ
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34/42

トモの動揺

 俺は目の前の固く閉ざされた扉を呆然と見つめていた。

 ……え、何だこれ?

 まったく意味が分からないんだけど。

 え? 俺、フラれた?

 聞き間違いかもしれないけど、美咲のやつ、別れるって言ってたような。

 いや、まさか。

 だって今日は俺たち二人にとって記念日になるはずだったんだ。

 美咲にプロポーズして、OKをもらって、二人で幸福に浸りながら一緒に眠りにつくはずだった。

 ……それなのに、今のこれは何だ?

 マンションの前で美咲が来るのを待っていたら、なぜか突然昔付き合っていた女が現れた。

 暇だった時にめちゃくちゃ押してこられたから、まあいいか、と思ってほんの数ヶ月付き合っただけの、もう名前すら覚えていない女。

 そいつがいきなり現れて、意味分かんねえ、と思っていたら、そこに美咲が登場して。

 美咲がやってきた途端、俺の目には美咲しか入らなくなったけど。

 あいつ、ちゃんと俺が言ったとおり、見たことないワンピースを着てめかしこんできた!

 美咲は自分の見せ方を知っている。

 ワンピースの形、色、どれをとっても美咲が一番美しく見える着こなしをしていた。

 マジでいい女すぎ……と見惚れていたら、突然女が美咲に絡みだした。

 いきなり攻撃されたって、おとなしくやられるような美咲じゃない。すぐさま女に冷静に応戦していて、その鉄壁の受け答えを見て俺はほれぼれしていた。

 ……そしたらいきなり美咲が俺を睨んで、自分の部屋に帰ってしまい、迎えに行った俺にネックレスを突きつけ、別れを告げた。

 は? どういうこと?

 いや、何で今ネックレス?

 これ、美咲は自分には高価すぎると謙遜していたけれど、それなりに気に入ってくれてたんじゃないのか?

 それなのにどうしていきなり。

 俺は美咲の行動がまったく理解できなかった。

 別れるって、まさか本気じゃないよな?

 だってあいつ、俺にベタぼれだし!

 今は何かよく分からんが……あれか、元カノに嫉妬か!? それで頭に血が上って、ぶわーっとあることないこと言っただけなんだよな!?

 ええと、あれだ。ちょっと時間をおいて、頭を冷やしたら……そうしたらきっと、落ち着くよな?

 今日は邪魔が入ってしまってうまくいかなかったけど、もう少ししたら。そしたらまた、美咲にプロポーズしよう。うん、そうしよう。





 きっかけは、チームメイトの結婚だった。

 長く付き合った彼女と結婚するという話で、その報告を聞いた後、周囲は祝いの言葉であふれていた。

 そいつが俺に近付いてきた。


「おい、トモ。お前も彼女手放したくないんやったら、さっさと結婚しといたほうがええで」


「は? なに言うとんねん。あいつまだ学生やで。あいつやってまだ全然そんな気ないやろ」


「それ! そうやって大丈夫やーって状況に胡坐かいとると、あっちゅー間によその男に取られるで」


「ふざけんな。んなわけないやろ」


「俺ら、遠征やらなんやらいろいろあるやん? そうやって彼女のそばを離れとる間に、するーってやってきた優男に取られるねんよなー。いくら付き合っとったって、そういう時の女は薄情やで。すぐに向こう行くからな。俺はそうならんように覚悟決めたってことや」


 くだらない。

 そう思うけれど、以前美咲を待っていた駅で、美咲が同じ大学の男と話していたことを思い出す。

 俺がにらみをきかせたら、そいつはすぐに立ち去ったけど、よく考えたら同じ大学ってことは、美咲は大学に行くたびにやつと会ってるのか……?

 考えていると、不安というわけじゃないけれど、むしゃくしゃしてくる。

 大学で美咲がどんな風なのか俺は知らない。

 その俺の知らない姿を、あいつは知ってるってことか。

 んなもん許せるか!

 美咲に大学を辞めろ、なんて言う気はないが、美咲のすべてを知っているのは俺だけだという証明が欲しくなった。美咲のすべてを知っていいのは俺だけなんだ。

 そう考えると……うん、結婚か。

 悪くない。

 朝も昼も晩も、家に帰れば美咲がいる。笑顔で俺を出迎えて、くたくたに疲れた俺を癒してくれる。

 俺もめちゃくちゃ美咲にかまいまくって、美咲は嬉しそうにそれを受け入れる。

 ……めっちゃ良くないか!? それ!

 よし、結婚だ! プロポーズだ!

 美咲、めちゃくちゃ喜ぶだろうな。だってあいつ、俺のことめっちゃ好きだし。

 どっちも幸せになるんだから、今すぐ結婚したって何の問題もないだろう。

 それしかない!!





 翌日、美咲に連絡を入れてみた。

 ……が、何の反応もない。

 電話しても、メッセージを入れても、一切無反応。

 え、もしかして俺、ブロックされてる?

 まさか。

 慌てて美咲の部屋に行ってみたが、留守だった。

 これはまあ、大学に行ってるんだろう。それかバイトか。居留守とかあいつがするわけないし。

 夕方、あいつのバイト先に行ってみたけれど、今日は休みだった。

 ということは、今日は大学が忙しい日だ。

 きっと帰りが遅くなるだろうから、迎えに行ってやらないと。

 あいつの携帯は充電切れなのか一切連絡が取れないので、仕方なく俺は駅前をひたすらうろうろして美咲が帰ってくるのを待った。

 待ちくたびれてだるくなった頃、ようやく美咲が駅の改札を出てきた。

 やっと帰ってきた! 俺はいそいそと美咲のそばに寄っていった。


「美咲、今日はえらい遅いやんけ。遅くなるんやったらちゃんと連絡せえや」


 俺が話しかけても、美咲は俺を無視した。

 え?

 そのまますたすたと駅舎を出てマンションの方へ歩いていく。


「おい、美咲」


 俺は慌てて後を追った。

 これは……あれか、まだ昨日の怒りが残ってるってことか。

 これは仕方ない。

 こういう時は、別に俺は悪くなくても、完全に悪者になって謝ればいいんだ。そうすれば美咲はすぐにしょうがないなあ、と言って許してくれる。


「美咲、あれや、すまん。昨日お前に嫌な思いさせたやんな」


 俺の謝罪の言葉が聞こえているのかいないのか、美咲は歩調を変えずに歩き続けている。


「せっかく二人で出かけようとしとったのに、変なやつが現れてお前に絡んで、なんか悪かったな。まあ、あいつもうどっか行ったし、今後は来んと思うから。だから気を取り直してまた一緒に出掛けようや。昨日のお前のカッコ、めっちゃ良かったし! またあの服着てくれや」


 美咲は突然ぴた、と立ち止まった。

 俺は驚いて、前につんのめりそうになりながら足を止める。

 美咲はふう、と息をついてから、突然踵を返し、マンションと逆方向、駅に向かって歩き出した。


「え? 美咲?」


 俺はわけが分からないまま美咲のあとをついていく。

 美咲はどこに行こうとしてるんだ?


 ……すると美咲は、駅前の交番にまっすぐ入っていった。

 交番? 何で??


「すみません」


 交番に入り、美咲はカウンターの先にいる警察官に声をかけた。


「はい、どうしました?」


 警察官が顔を上げて俺たちを見る。

 美咲はまっすぐに警察官を見たまま、俺を指さした。


「この人、ストーカーです。駅からずっと私のあとついてくるんです。捕まえてください」


「はっ!?」


 俺は目を見開いた。

 警察官も、ぽかん、として俺を見ている。


「いや、美咲、なに言うとんねん! なんで俺がストーカーやねん!」


「以前付き合ってたこの人が、別れた後も私に付きまとうんです。接近禁止命令出してください」


「おい、待てや! 美咲!」


 警察官は戸惑った表情で俺と美咲を見比べている。


「えーと……?」


 やばい。これはやばい。何か分からんが、対応を間違えると社会的に死ぬ気がする!

 俺は仕方なくうなずいた。


「いや、ええと、これ、痴話げんかなんすけど……でも分かった、お前が嫌やって言うんなら、しばらくお前には近付かんようにする! だからそんな怒んなって!」


 俺が必死になってそう言うと、警察官は何とも言えない微妙な表情をして美咲を見た。

 美咲は眉間にしわを寄せて、ため息をついた。


「この人が私に近付かん、と言うんやったら、今のところはそれでもういいです。でももし私にまた接触してくるようなことがあったら、本気で相談させてください」


 美咲は警察官に一礼して、交番を出て行った。

 俺は当然美咲を追うわけにはいかないので、しばらくの間その場に突っ立っていた。

 美咲の応対をしていた警察官が、カウンターに両手を乗せ、俺の顔を覗き込んだ。


「君……以前、彼女がストーカーに襲われた時に助けとった人やんね?」


「あ、はい!」


 あの時の警察官!

 美咲がマジモンのストーカーに襲われて、俺が助けた時に対応した警察、この人だったのか!


「なんか……大変そうやね」


「はは……そうっすね……」


 彼はニコッと笑った。


「今はまだ大丈夫そうやけど、ほんまに彼女が危険を感じたら、それなりの対応せんとあかんくなるからね? それは覚えといてね?」


 ひー!

 勘弁してくれよ……!

 何でこんなことになってんだ!?


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