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昼下がりのkamome café  作者: はる
紗羽の恋
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もっと近くに

 パッションフルーツのゼリーは、コーヒーゼリーの後だったからか、おいしいのに味が薄く感じてしまってもったいなかった……

 でもそれも、凪くんと笑いながら食べられたから良かった。

 お店を出る時、凪くんは、私の分もお会計を全部払ってくれた。

 え!? なぜ!?

 私は当然自分の分を出そうとしたんだけど、凪くんに止められてしまった。


「前に言ったでしょ。こういう時にいいカッコしたいから、めっちゃバイト入ってるんです。だからここは俺にいいカッコさせてください」


 ええー……!!

 いいカッコしたい、と言って、自分はかっこよくない風を装う凪くんがあまりにもかっこよくて、私はくらくらしてしまった。

 もう、もう、私の目とか口からハートが出てたと思う!


「待って凪くん、なにそれ……めっちゃかっこよすぎるんですけど……でもでも、お願いやから、次は私にごちそうさせてね!? 私にもいいカッコさせて!」


 私がそう言うと、凪くんは苦笑した。


「そうでしたね、紗羽さんもバイト代使っていいカッコしたいんですもんね。そしたらかわりばんこでいいカッコしあいましょう」


「うん……!」


 そんな約束ができたことが、私はすごくうれしかった。

 二人でお店を出て歩いていると、ふと凪くんが立ち止まった。


「……ところで紗羽さん」


「うん?」


「実は、この後どうしようかいろいろ考えたんですけど、決められなかったんです。なにかしたいことあります?」


「え?」


 あ、そうだ、デートだもんね。二人でごはんを食べて、その後は……?


「友達にいろいろ聞いたんですけど、みんな映画行けとかカラオケ行けとかで。なんかそれはつまらなくないですか?」


「つまらない?」


「映画とか、二人で並んで二時間ただ前を向いてるだけでしょ。その間話もできないとか、時間がもったいなくないですか? カラオケも……歌ってたって話ができるわけじゃないし。あんまりかなって思ったんですよね」


「えーと……それは、凪くんは、私とおしゃべりしたいってこと?」


 凪くんは私をぱっと見てから、すぐに視線をそらして前を向いた。


「ああ……まあ、そういうことですかね」


 わ、何それ! めっちゃかわいい……!

 私はうれしくなって顔がにやけてしまった。


「ね、そしたら二人でお散歩しよ! 公園とか……あ、海の方に行くんどう? 海見に行こ!」


「それ、いいですね」


 決まった!

 いつもカフェの窓から遠くに見えている海。そこに凪くんと一緒に行く。めちゃくちゃ素敵だ!

 凪くんが、私の前にすっと手を出した。


「そういえば、慣れないといけないですもんね」


「あっ……う、うん」


 手を伸ばして、凪くんと手をつなぐ。

 うわわわわわ、ああもう、私たち、めちゃくちゃカップル!

 いや、そうなんだけど! そうなんだけど!

 めちゃくちゃ緊張している私をよそに、凪くんは反対の手をボディバッグに突っ込んで、中から小さなタオルを取り出した。


「今日は俺、これ持ってきたんです」


「……なに?」


「弟が保育園に通ってた頃に持たせてた、ゴジラのミニタオルです。ほら」


 凪くんがタオルをぴらっと広げると、小さなタオルの隅にアニメの絵のかわいいゴジラが描かれていた。


「わ、かわいい。これゴジラなん?」


「そうです。ちびゴジラです」


「へえ!」


 凪くんは器用に片手でそのタオルをたたんで、私たちのつないでいる手の隙間に挟んだ。


「これでゴジラは俺たちの手でつぶされて、放射能が漏れ出てるかもしれない……」


「ええー! なにそれ!」


「そういう設定らしいです」


 本当に!?

 ゴジラって、キャラクターは知ってるけど映画は見たことないからなあ。

 弟くんだけじゃなくて、凪くんもゴジラのこと詳しいのなら、私も映画、見てみようかなあ……





 手をつないで歩いていると、凪くんの手の大きさもだけど、たまにぶつかる腕が想像よりも硬くて太いのに驚く。

 私はまじまじと凪くんの腕を見た。


「どうかしました?」


「……凪くんって、離れて見るとすごくほっそりしとるのに、こうやって近くにおると、意外とたくましいっていうか……大きいんやね」


「え? そうですか?」


「うん。だって、ほら、手も大きくて……思ったより分厚い感じ? 腕も私の腕に比べたら実はしっかりして太いし。これって筋肉?」


 これが男女の体の違い? 骨格なのか……筋肉なのか。凪くんはすごく痩せてる人って思ってたけど、実は違うの?


「いや、俺なんて他のやつらに比べたら筋肉つきにくいし、全然大したことないですよ。……でも確かに、紗羽さんは細いと思いますけど」


 細い! 女子にとってなんて素敵な言葉!

 ほんとは私、女子の中では別に全然細いわけじゃないんだけど……

 でも男の子の凪くんから見たら、細く見えるってこと? ああ、女の子で良かった……!

 私は隣の凪くんを見上げた。

 顔を見て、首を見て、肩を見て、腕を見る。

 こう……ぱっと見は細く見えるのに。

 私はつないでいない方の手を伸ばして、凪くんの肩に触った。


「わ、ほんまや。凪くんの肩、細くない! なんか……なんやろ? すごくガチッとしてるっていうか、これ、骨? 骨が大きい!」


「え……いや、あの」


「あ、ごめん」


 私はぱっと手を離した。

 うわわ、思わず勝手に凪くんに触ってしまった……!

 手をつないでるから、気が緩んじゃったのかも。勝手に体にべたべた触られたら、そりゃ嫌だよね!?


「いや、大丈夫です。急やったからびっくりしただけなんで」


「えっと、でも、いきなり触ってもて……ごめんね」


「本当に大丈夫です」


 凪くんはそう言って、私の手を取って自分の肩に乗せた。

 ……本当に? 嫌じゃない? 平気?

 凪くんの肩に触れていること。その触れている私の手首を、凪くんがつかんでいること。両方にどきどきして落ち着かない。


「や、やっぱり肩、大きいね」


 凪くんは、私の手首をつかんでいた手を離して、その手を私の肩に置いた。


「……紗羽さんの肩は細くて小さいですね」


 凪くんの手は私の肩にそっと触れているだけなのに、そこが燃えるように熱い。

 こんな風に……お互いの肩に触っていい。私たちはそんな距離にいることを許された関係なんだ。

 どうしよう。

 でも……どうしよう、これ、もっと近付いたら駄目かなあ?

 肩に触れるだけじゃなくて……

 あの、バイト先の休憩室で、脚立から落ちた私を凪くんが受け止めてくれたことを思い出す。

 あの時の広い胸。大きな体。

 こんなこと考えてるのおかしい?

 もう一度あの時みたいに……

 すると、ふっと肩から重さが消えて、凪くんは前を向いた。


「行きましょう」


 あ。

 ……少しがっかりしたけれど、そんな自分に驚く。

 私、何考えてるの!?

 こんな街中で、凪くんが私を抱きしめてくれたらいいのにって考えてた!?

 やばい、私、痴女!?

 ほんとに私落ち着いて!?

 まず私は凪くんが近くにいても、頭に血が上ってわけ分かんなくならないようにしないといけないの! 手をつなぐのにも慣れて、それで……


「……凪くん」


「はい?」


 歩きながら、凪くんが視線を私に向ける。


「凪くん、ずっと私に敬語なん?」


「え?」


「付き合ってても……ずっと敬語のまま? クラスの女子は呼び捨てで呼んで、普通に話しとるのに、私にはずっとさん付けで敬語でおるん?」


 無意識だったけど、さっきのカフェにいた凪くんのクラスメートの女子と比べるようなことを言ってしまった。

 もう、めちゃくちゃ自分勝手って分かってるけど、さっき、もっと近付けなかったことに対して拗ねるような気持ちがあったのかもしれない。

 凪くんは立ち止まって、私の顔をまじまじと見た。

 う……あんまり見られると……自分が馬鹿なこと言ってる自覚があるだけに、気まずくなってきてしまう。

 いきなり拗ねてやきもちっぽいこと言っちゃってる。

 あっさりと自分の発言を後悔して、どう言い訳しよう、とぐるぐる考えていると、凪くんが少し私に顔を近付けた。


「いいんですか?」


「え……なにが?」


 凪くんは更に頬を重ねるように私に近付いた。



「まだ俺が近付くのに慣れてないのに、こんな風に話していいの? 紗羽」


「なっ……」


 そう言われた途端、ぐわーっと信じられないくらい急速に頭に血が上ってきて、私は言葉をなくしてしまった。

 なななななななな、なにそれー!!!!!!

 いや、何それじゃないんだけど。そういう話し方しろって言ったの私だけど!

 私が何も言えずに、口をぱくぱくしながら凪くんの顔を見ようとしたら、凪くん自身も照れてしまったのか、顔を背けて更に片手で顔を覆っていた。


「あー、すんません。やりすぎました。調子乗りました」


「えっ……え? あ、ええと、う、ううん、私がその……あほなこと言ってごめん……」


 ああ、カップルっぽいやりとりをするにはまだ修行が足りない私たち……

 二人して恥ずかしすぎて、私たちはその後しばらくの間何も話すことができなかった。


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