はんぶんこ
凪くんのクラスメートは、別に私たちのテーブル担当、というわけではなかったようで、それ以降は特にやって来ることはなかった。
私たちはそれぞれ注文したものを珍しがりながらおいしく食べた。
二人で向かい合って、ご飯を食べる。
それだけで何だか特別な感じがしてうれしかった。
そんな空気が少し変わったのは、私たちが食事をすべて終えた後のことだった。
凪くんのクラスメートの女子が、不意に私たちのテーブルへやってきた。
「凪」
彼女は手に持ったトレイに小さなグラスを持っていた。
「これ、特別サービスね。サービスやからさっさと食べちゃって」
そのグラスには、四角く切り取られたコーヒーゼリーに、ホイップクリームが添えられていた。
「なにこれ?」
凪くんが首をかしげる。
「だからクラスメートとして特別サービスやって。あんまり目立つようにせんとさっさと食べてねー」
そう言って彼女はテーブルを離れていった。
テーブルの上には、コーヒーゼリーが入ったグラスがひとつ。
凪くんは困惑した様子でグラスを見ていた。
……彼女、徹底的に私のことは無視するんだな……
でも……
kamome caféで、一ノ瀬さんが彼女を連れてきた時や、凪くんのクラスメートがやってきた時のことを思い出す。
あの時、私は知らない一ノ瀬さん、知らない凪くんを見て、寂しくなった。
……もしかしたら、彼女も今日の凪くんを見て同じように思ったのかな……
私と一緒にいる時の凪くんは、普段学校で彼女の前で見せているのとは違う顔をしているのかもしれない。
そのことを寂しく思って、知っている凪くんの顔を見たくて、彼女は凪くんに話しかけているのかもしれない。
目の前でそんなことをされてる私だって少し苦しいけれど、もしかしたら彼女も苦しいのかなあ……
凪くんが、ふと顔を上げて私を見た。
「紗羽さん、すみません、ちょっとトイレ行ってきます」
「えっ? あ、うん」
凪くんはすぐに席を立って店の入り口の方へ歩いていった。
そして、入り口のところにいる店員さんに何か話している。
その後凪くんは店を出て行った。
私はテーブルの上のコーヒーゼリーと一緒に取り残されてしまった。
仕方がないので窓の外をぼんやり見ていると、すぐに凪くんは戻ってきた。
「すみません、急に席を立って」
「大丈夫」
「……紗羽さん、このコーヒーゼリー、食いませんか?」
凪くんがコーヒーゼリーのグラスを少し私の方に寄せた。
「え? なんで? だってそれ、凪くんがもらったやつ……」
「いや、これもらっても……そもそも俺、コーヒー苦手なんですよね」
「……そうなん?」
それは初めて聞いた。凪くん、コーヒー嫌いだったの?
「俺、休憩の時もいつもコーラとかジンジャーエールしか飲んでないですよ。コーヒー好きじゃないんで」
「あー、いつも炭酸飲んでるのは知ってたけど」
……そっか……
てことは、あの女子も、凪くんがコーヒー嫌いなことは知らなかったってこと?
その時、別の店員さんが私たちのテーブルにやってきた。
「お待たせしました。パッションフルーツのゼリーです」
コーヒーゼリーのよりも少し大きめのグラスに、黄色いゼリーが入っていて、上にフルーツやクリームが乗っている。
「え? これ……」
「それは、俺から紗羽さんにサービスです。俺だけサービスされるのは不公平なんで、紗羽さんもサービスされるべきやと思ったから、それは俺からです」
私は驚いて、そしてそうだ、凪くんってこういう人だ、と思って胸がいっぱいになった。
たぶん凪くんは、自分が優しいことしてるなんて思ってない。でも私はその行動から、無限の優しさを感じた。
「あは、凪くん、そしたらゼリーが二つになったやん。私がコーヒーゼリーももらってしまったら多すぎるよ」
「でもゼリーなんか水みたいなもんやから食えると思いますけど」
「あのね、実は私もコーヒー苦手で……」
「そうなんですか?」
凪くんが驚いたように目を見開く。私が休憩中、しょっちゅうラテを飲んでいたから、コーヒーも平気だって思われてたのかもしれない。
私がいつも一ノ瀬さんにティーラテを入れてもらっていたこと、凪くんは知らないもんね……
でも最近は、少しずつカフェラテを飲む練習もしてるけど。
「あ、でも、ちょっとずつコーヒーも飲めるように練習してるから、コーヒーゼリーならいけるかもしれへん。だから、良かったら凪くん、どっちも半分こして食べへん?」
「半分こ?」
「うん。コーヒーゼリーも、このパッションフルーツのゼリーも、二人で半分こして食べようよ。私、そっちの方がええな」
凪くんは少しの間考えていたけれど、コーヒーゼリーに大量に砂糖をまぶせば苦さをごまかせるかもしれない……とかブツブツ言いだした。
「そうですね、今までさんざん変な味のグミ食ってきたんやから、コーヒーゼリーくらい行けるような気がしてきました。半分こしましょう」
「え!? グミ!?」
「グミに比べたら柔らかいけど、まあゼリーも似たようなもんでしょう」
そうきたか!
やっぱり凪くん、おもしろいの!
二人で笑いながら、そして恐る恐る、スプーンをコーヒーゼリーのグラスへ入れる。
二人のスプーンがかちん、とぶつかって音を立てる。その音すらうれしい。
クリームをたっぷりまぶして、コーヒーゼリーをいっせーのーで、で一緒に口に入れる。
二人ともまずいグミを食べた時みたいに、きゅーっと目を閉じちゃったけど……苦いけど、飲み込んじゃえば大丈夫!
二人で同時にパチッと目を開けた瞬間、目が合って、それがおかしくて二人で笑った。




