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昼下がりのkamome café  作者: はる
紗羽の恋
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28/42

あふれる気持ち

 歩いてるんだか立ち止まってるんだか分からないくらいゆっくりゆっくり歩いていた私たちだけどとうとうkamome caféがあるビルが見えてきてしまった。

 あー……

 私たちはぴたっと立ち止まった。

 そして、ちょっとだけ視線を合わせて、それから手を離した。


「あの……あの、凪くん」


 さっきまで二人の手のひらで挟んでいたミニタオルを握りしめて、私は凪くんに向き合った。


「あのね、うちらが付き合ってること、ちょっとの間だけ秘密にしててもええ?」


 凪くんが私を見る。

 私は慌てて付け加えた。


「あ、言っとくけど、付き合ってるって知られたくないとかそういうわけちゃうからね!? むしろ私言いふらしたいくらいやから! 美咲さんに、天嶺さんの話聞くんめっちゃ好きやったから、私もそういうの、美咲さんといっぱい話したい。それに一ノ瀬さんも……私が凪くんがバイト辞めてしまうかもしれへんって落ち込んでた時に、それなら凪くんがバイト辞めたくなくなるようにしよう! って提案してくれたん一ノ瀬さんやから、もう大丈夫ですって報告したいし。ほんまはみんなに言いたい。でも今の私、ちょっといっぱいいっぱい過ぎて、凪くんとのこと誰かに言われたらすぐてんぱってわけ分からんくなってまいそうやから」


「あの、紗羽さん、大丈夫ですから」


 私をなだめるように凪くんが笑った。


「分かってますから。紗羽さんが今めっちゃ動揺してるん、見るからに明らかなんで。そんなみんなにつつかれるようなこと言わん方がええなっていうん、普通に分かってます」


「あ……そ、そう……?」


「はい」


 私は胸に手を当てて、すーはー、と深呼吸した。

 まずは今現在落ち着かないと。落ち着いてバイトに入らないといけないからね。


「それじゃ行きましょうか」


 凪くんが私の先に立って歩き出そうとしたので、私はあ、と思って凪くんを呼び留めた。


「あの、凪くん、今日……帰りやけど、一緒に……帰れる?」


「え?」


 凪くんが不思議そうに私を振り返った。


「そら、今日シフト一緒ですし。帰りも当然紗羽さんが着替え終わるん待ってますから」


「ほんま? 良かった」


 私が安心していると、凪くんはおかしそうに笑った。


「大丈夫ですよ。別に約束しなくても、ちゃんと待ってます」


 ……約束しなくても……!

 すごい! これが付き合ってるってことなんだ……!

 当たり前なのかもしれないけど、今までそんな当たり前を知らなかったから、私はちょっと感動してしまった。





 バイト中は、必死で無心になって働いていたつもりだけど、できていたかは定かじゃない。

 凪くんはいつも通りだったと思う。てきぱき働いて、私がやらかしそうになったら自然にフォローしてくれるから、私が失敗しそうになったこと、ほとんど誰にも気付かれなかったんじゃないかな? ってくらい。

 凪くんが近くを通りかかるたび、声を聞くたびに私の心臓はどきーん! と跳ねあがったんだけど、必死でそれを隠した。

 凪くんを見ちゃ駄目! 声を聞いちゃ駄目! (さすがにそれは無理)仕事に集中……!

 私は不自然に他のバイトの人や美咲さんに話しかけて、凪くんのことは全然気にしていないフリをした。

 そんな私のことを、美咲さんは不思議そうに見ていた。


「んー、なんか、紗羽ちゃん……」


「え、えっ? なんですか? 美咲さん」


「ううん、なんでもないけど?」


 美咲さんは私を見つめてにっこり笑った。

 何だかいろいろ見透かされていそうな気がする……!

 何を言われちゃうんだろう、と私はドキドキしていたけれど、美咲さんは何も聞いてこなかった。

 ああ、対応が大人だ……!

 私の様子を見て、根掘り葉掘り聞かないようにしてくれてるんだ、きっと!

 ごめんなさい、美咲さん、私がもうちょっと落ち着いたら、めちゃくちゃ沢山話したいことがあるから! それまで少しだけ待っててください……!





 バイトの終了時間は美咲さんも同じだったけれど、美咲さんは着替えた後、トモが待ってるから、と言ってささっと帰ってしまった。

 後に残されたのは凪くんと私の二人。


「……美咲さん……絶対気付いてる……と思う……」


 二人でカフェを出て、駅に向かって歩きながら私が言うと、凪くんはあっさりうなずいた。


「そうでしょうね。紗羽さんの反応見てたら、たぶんバイトの人みんな分かったと思います」


「えっ!?」


 私は驚いて凪くんの顔を見た。

 凪くんは私の視線を受けて笑った。


「必死で俺のこと避けようとして、でもちょっと離れたらちらちら見ようとして、でも見れなくて、ってしてるの、めちゃくちゃ分かりやすかったです」


「う、嘘、私、そんなんやってた!?」


「はい。おもしろかったです」


 お、おもしろかった……!?

 私はがっくりうなだれた。

 何だそれ……今日の私の努力って、いったい何だったの……

 私があからさまに落ち込んだので、凪くんが少し焦ったように声をかけた。


「あ、すみません、おもしろかったっていうのは、その」


「……ええよ、私、みんなの笑いもんになってたんでしょ……?」


「違いますよ、おもしろかったというより、ええと、かわいかったです」


「えっ」


 私がばっと顔を上げると、私と目が合ってびっくりしたのか、凪くんがぱっと顔をそらした。


「あー、すみません、えーと」


「凪くん、私のこと……かわいいとか思ってくれるん?」


 こんなこと聞くのっておかしい?

 でも、でも、凪くん、私のことかわいいと思うの? そんなこと、ほんとに思うの!?

 凪くんは口に手を当てて、赤くなった顔を隠すように視線をそらしたまま答えた。


「いや、そら……思うでしょ。ていうか、たぶん、バイト先の人みんな今日の紗羽さん見てかわいいって思ってたと思います」


「いや、みんなとかやなくて……凪くんが思ってくれてるんかどうか知りたいのに」


「そこ、あんまり突っ込まんといてほしいんですけど……思ってます。紗羽さんはいつも……特に今日はめっちゃかわいかったと思います」


 ええー!

 ほ、ほんとに!?

 凪くん、私のこと、そんな風に思ってくれるの!?

 私はびっくりしすぎたのと、うれしすぎるのと、後はもうよく分からない気持ちがぶわーっと湧き上がってきて、言葉を発することができなかった。

 私が黙ったまま凪くんをずっと見ているので、凪くんは気まずくなってきたのか、仕方なさそうに私の方を見た。


「……どうかしました? すみません、そんなに俺がおもしろいって言ったことで気分悪くなりました?」


「え……え、ち、違う」


 私は必死で首をぶんぶん横に振った。


「わ、私、凪くんが……私のこと、かわいいなんて思ってくれてるって知らんくて……めっちゃびっくりして」


「え?」


 今度は凪くんが驚いたように眉を上げた。


「そんなん普通に思ってますよ。そうやないと付き合いたいなんて思わへんし。紗羽さんは、その、めっちゃかわいいし、一緒におって楽しいし、ずっとそばで紗羽さんを見てたいと思ったから」


 ええええー!

 うわ、駄目だ、もう脳みそが沸騰しそう!

 ドキドキしすぎて視界が回ってくる。

 私の体がぐらっと揺れると、それに気付いた凪くんが驚いたように私の腕に手を添えて体を支えてくれた。


「大丈夫ですか?」


「あの、あのね、私も、凪くんのことめっちゃかっこいいと思う! 今日待ち合わせた時とか、あんまりにもかっこよくてどうしようかと思ったもん! それだけやなくて、バイト中も、今も、あんまりにも凪くんが素敵でキラキラして見えて、なんかもういろいろとやばいです……」


 私は大きく瞬きして、顔を両手で覆った。

 ああ駄目だ、語彙力がない……!

 私にとって凪くんがどれだけ魅力的な人か伝えたいのに!

 この付き合うようになってから少しの間だけでも、見たことのない表情をたくさん見せてくれて、それでどれだけ私の胸がいっぱいになっているのか、言葉を尽くして伝えたいのに、全然言えない!

 私の様子を見ていた凪くんは、優しい声で笑った。


「俺も、紗羽さんがかわいすぎてやばいです。大丈夫です、二人ともやばくなってるんで」


「……そうなん……?」


「はい」


 凪くんの顔をそっと見上げると、凪くんの頬も赤くなっていたけれど、今は目をそらさずに私を見つめてくれていた。

 それがうれしくて、私も笑った。


「あは、一緒やね」


「そうですね」


 ああもう、さっきからずっと、私の心の奥底から湧き上がってくる気持ち。

 泉……どころかマグマみたいにどんどん爆発的にあふれてくる気持ちを、口に出さずにはいられなかった。


「凪くん、私、凪くんのことめっちゃ好き。ほんまに好き。わけ分かんないうちに、こんなに好きになってた。付き合ってくれてありがとう」


 凪くんは驚いたように少し目を見開いたけれど、表情がうれしそうに緩むのが分かった。


「……それ、俺も同じ気持ちです。俺、紗羽さんが好きです。俺と付き合ってくれてありがとうございます」


 今って、もしかして私の人生の絶頂なの?

 今のこの瞬間を永遠に切り取って保存したい!

 いつの間に私、こんなに凪くんを好きになってたんだろう?

 こんなに素敵な人が……この人も私を好きになってくれるなんて。

 本当に信じられない!


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