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昼下がりのkamome café  作者: はる
紗羽の恋
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27/42

初めての

 急転直下すぎる!!!

 彼氏ができてしまった!

 ほんとに!? 私に彼氏!?

 信じられない……

 この人のことが好きなのかも、と思った瞬間に、その人が彼氏になってしまうなんて……!

 でも、想像したのとはあまりにも違っているので、私はずーっと半信半疑でいた。

 そもそも私たち、どっちも好きとか言ってないし……

 もしかして告白してる? そうだよ! じゃあ付き合う? そうする。

 この流れ作業的なやりとり……

 ほんとに付き合ってる……?

 でもこんなの納得できない! だから付き合わない! なんて言う気は全然ないし。

 だってだって、高校生で! 彼氏ができて! こんなの、めっちゃ青春だし!

 ちょっとこう、片想いして、告白して、もしくは告白されて、ときめきのお付き合い、って感じじゃないだけで。

 一応、凪くんと私、ちゃんと付き合ってるんだよね?





 あんまり実感がわかないまま、今日はバイトに入る時間が一緒だったので、凪くんと駅で待ち合わせた。

 ああ、待ち合わせなんて、こういうのも付き合ってるって感じがする!

 駅の雑踏で、待ち合わせのコンビニの前に向かうと、すぐに凪くんの姿が目に入った。

 ……あれ? 何これ?

 凪くんの姿がめっちゃ輝いて見える……!

 凪くんってこんなんだったっけ? もしかして一夜にして脱皮した? なんか……顔つき? 表情? 変わってない?

 私がドキドキしながら凪くんに近付くと、私に気付いた凪くんが少し表情を緩めた。

 ええー、何その顔……!

 めちゃくちゃかっこいいんですけど……!

 彼氏フィルターがかかった凪くんって、こんなにイケメンなの!?


「おはようございます、紗羽さん」


「お、おはよう、凪くん」


「今日はなんか駅混んでますね」


「ほ、ほんまやね」


「……どうしたんですか?」


 私が挙動不審なので、凪くんが不思議そうな表情になる。

 いやいや、凪くんはどうしてそんなに普通にしてられるの!?


「え、あの……確認なんですけど……私たち、付き合ってるんやんね……?」


 恥ずかしいので手のひらで赤くなった頬を隠しながら凪くんに言うと、凪くんは一瞬動きを止めた。


「いや、そら……待ち合わせてますし。わざわざ一緒にバイト行こうとしてるんで……そうですね」


 やっぱり間違いじゃないよね!?

 ちゃんと確認が取れたので、私は安心して自分の気持ちをぶちまけた。


「うわー、どうしよう! 私、バイト中とか……絶対普通にできる気がせんねんけど……。凪くんが近くに来たりとか、なんかするたびにドキドキしてしまいそう。そんで挙動不審になってまいそう。どうしよう!?」


 そんで、美咲さんとか一ノ瀬さんにばれて、からかわれて、また恥ずかしくなって行動がおかしくなって……

 ひえー! ひどいことになる未来しか見えない……!

 あわあわしている私を見て、凪くんは少し考えるような表情になった。


「うーん……そしたら、しばらくの間、バイトの時間ずらして、一緒に入らんようにしますか?」


「え?」


「俺がいるせいで紗羽さんが落ち着いてバイトできんのやったら、しばらくはバイトは一緒に入らんようにしたら良くないですか? 別にもうバイト以外でも会えるわけやし」


「そんなん嫌!」


 思わず声を上げてしまった。


「バイト一緒に入ってたら、その間ずっと凪くんと一緒におれるやん。せっかく合法的に一緒におれるのに、その時間減らすんなんか嫌やん!」


 私が慌てて必死になっているのに、凪くんはぷっと吹き出した。


「いや、合法的って……。別にバイト以外の時間に会うんも違法ちゃうと思いますけど」


「あ、あれ? そっか」


「やっぱり紗羽さん、おもしろいですね。いきなり変なこと言いだす」


 えー!

 馬鹿なことを言ってしまったのが恥ずかしくて私は両手で顔を隠した。

 あーもう、どうして私はすぐに慌ててわけ分かんないこと言っちゃうんだ……


「うーん、そしたら、俺と一緒の空間におることに慣れてもらうしかないってことなんですかね」


「……そうなんかな……」


 すっと凪くんが手を差し出した。

 何だろう? と思って反射的にその手を取る。


「じゃあ、こうやって触れて、近くにいて、少しずつ慣らしていきましょう」


 ……あ! これ、手をつないでる……!

 うわー!

 一気にぶわーっと顔に血が上っていく。


「え、あ、すみません、いきなりで嫌でしたか?」


 私の様子を見て、凪くんが慌てて手を離そうとしたのを、私は手にぎゅっと力を入れてほどかれないようにした。


「あの、嫌ちゃうから……その、頑張って慣れる」


 恥ずかしかったけれど凪くんの顔を見上げると、凪くんの頬も赤くなっていた。

 あ、恥ずかしいの……私だけじゃないんだ。

 そう思ったら、恥ずかしさよりうれしい気持ちの方が湧き上がってきた。


「あー、すみません、俺、手汗すごい」


「私も……。あ、そしたら、ミニタオル手の間に挟もうよ。そしたらタオルが汗吸ってくれるから、ぬるぬるせんとずっと手つないでられるし」


「なるほど。さすが紗羽さんですね」


 さすがって言われたのがうれしくて、私はいい気になった。

 いそいそとバッグからミニタオルを取り出して畳み、つないでいる二人の手の隙間に差し込んだ。

 うん、いい感じ!


「そういえば」


 歩き出そうとしたところで、凪くんが思い出したように立ち止まった。


「どうしたん?」


「紗羽さん、俺のこと、名前呼び捨てで呼んでもいいですよ」


「……え?」


「前、言ってたじゃないですか。恋人同士だと、相手のこと、名前を呼び捨てで呼んでるって。だから俺のことも呼び捨てでいいですよ」


「な、なに言ってるの!?」


 待って待って、いきなりすぎる!

 以前私がやけくそみたいに言ったそんなこと覚えてたの!?

 どうしてそう、私を動揺させるようなことばっかり言うの……!


「そ、そんなん、そしたら凪くんも、私のこと呼び捨てで呼ぶん?」


「紗羽さんがそうしてほしいならそうしますよ」


 うわあああ、そんなの、いきなりは無理……!

 私が凪くんのこと、凪、って呼んで、凪くんが私のこと紗羽、って呼ぶの?

 考えるだけでうわーってなる!


「あの、それはその、もうちょっと待とう? 今いきなりはちょっとハードル高すぎやから、もう少し時間が経って落ち着いてからにしよう!?」


「そうですか? 分かりました」


 凪くんはあっさり引き下がった。

 そうですか? って。そうですか!?

 そんなに大したことないような反応をするってことは、凪くんは全然平気なの!?

 すごいな……なんか、凪くん、手慣れすぎじゃない?


「……もしかして凪くん、付き合うの、初めてやない……?」


「え?」


「いろんなこと、全部平気っぽいねんもん。私一人であわあわしとって、なんかあほみたい。凪くんは初めてじゃなくて、すでにいろいろ経験してるからそんなに平然としてられるん?」


 私がちょっと拗ねたように言うと、凪くんは目に見えて慌てた。


「そんな風に見えました? え、すみません。別に平然としとるわけちゃうくて……俺も付き合うんとか初めてでよく分かってないんで。とりあえず紗羽さんの方がいろんなやりたいこととか希望を持ってるっぽいから、それをしてたらええんかなと思っただけなんです」


「……初めて?」


「はい。そもそもあんまりそういうんに興味なかったんで。中学時代はとにかく部活ばっかりやったし、辞めてからは……とりあえず稼ぎたいなーと思ってバイトのことばっかり考えてました」


 バイトのことばっかり……

 それは……分かるかも。

 確かに凪くん、めちゃくちゃバイト入ってるもんね。

 バイトが大好きなのか、いっぱい稼ぎたいのか、って感じなのかなあと思っていた。


「そんなら……なんで私と付き合おうと思ったん?」


 凪くんはかあっと顔を赤くした。ぱっと視線をそらしたけれど、耳まで赤くなっているのが分かった。


「それは……言ったじゃないですか。紗羽さんとおるんは楽しいから、付き合ったらもっと楽しいかなって思ったんです。紗羽さんが言ってくれたんと同じように、俺も紗羽さんといたいと思ったから」


 うわ。

 自分が言わせちゃったんだけど、それを聞いて私もあり得ないくらいに顔が熱くなった。

 顔どころか全身が熱い。めちゃくちゃどきどきしてしまって心臓がやばい!


「あ……えっと、ありがとう……」


「いえ」


「あの、私もね、めっちゃうれしい。凪くんと付き合えて、信じられへんくらいうれしい。そんな……私がしたいことばっかり考えてくれんくてええよ。凪くんがしたいことも考えよう? 一緒に、やりたいこと考えて、一個ずつやっていこう?」


「……そうですね」


 どきんどきん。

 ほんとに心臓が破裂しそう。

 つないでいる手が爆発しそうに熱い。

 でも絶対に離したくない。

 ねえ、凪くん?

 私たち、一緒に、楽しいこといっぱいしようね?

 この、駅からカフェまで歩いていく道。

 どうか、誰にも知っている人に会いませんように、少しでも道が長くなってますように、とめちゃくちゃなことを考えながら、私は凪くんとゆっくり歩いていった。


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