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昼下がりのkamome café  作者: はる
紗羽の恋
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25/42

誤解

 空いた食器をトレイに乗せ、カウンターへ戻っている途中でカフェの扉が開きお客さんが入ってきた。


「……あ、いらっしゃいま……」


 私が足を止めかけたところで、すっとカウンターから凪くんが出てきた。

 小さい声で私に俺が行きます、と言って、すぐにドアの方へ歩いていく。


「いらっしゃいませ」


 お客さんを迎えて、席に案内する。

 私はカウンターにトレイを置き、汚れた食器を片付けた。

 視線を感じて顔を上げると、、キッチンにいる一ノ瀬さんから目配せされる。

 カウンターに戻ってきた凪くんに、私は笑顔を向けた。


「わ、わー、凪くん、ありがと! ささっとお客さん案内してくれてめっちゃ助かったー。やっぱり凪くんがおってくれたら、働きやすさがちゃうわー」


 ……めっちゃ棒読みっぽい?

 私の不自然な賞賛に、凪くんは不思議そうな表情を見せた。


「……そうですか?」


 ……全然響いてない!


「あ、えーと、お客さんにお水とメニュー持っていかんと」


 自分の不自然な言動をごまかそうとして更にしどろもどろになっている私だけど、凪くんはいつも通りだった。


「紗羽さん、まだ片付けの途中ですよね。俺が行くから大丈夫です」


 凪くんはすぐにトレイに水の入ったグラスを置き、メニューを持ってホールに出て行った。


「な、凪くん、ありがと!」


 いいセリフが思い浮かばなかったので、とりあえずお礼だけ言う。

 ……全然うまくいかない!

 私は途方に暮れてキッチンの一ノ瀬さんを見た。

 一ノ瀬さんは私から視線をそらして、笑いをこらえている。


「あー、まあ、ほら、そういう感じでええんちゃう? それ続けとったら、佐久間くんもそのうちこのカフェには自分がおらなあかんのやって思うようになるよ」


 本当に!?

 一ノ瀬さんの言葉、全然信ぴょう性ないんですけど……!

 私がことあるごとに凪くんを褒めて、頼りになる! すごい! っておだてまくることにより、凪くんはいい気分になってこのカフェを辞めないでいてくれる。

 一ノ瀬さんが考えたこの作戦、うまくいく気がしないんだけど……

 凪くんを褒める役は、一ノ瀬さんよりも、いつもホールで一緒に仕事をしている私がやった方がいいって言われて、それもそうか、って思ったけど。

 でもいきなり私がむやみやたらと凪くんを褒めまくるとか、どう考えても不自然でしょ。

 そう思ってはいるんだけど、先輩である一ノ瀬さんの提案をそうそう簡単に無理です、と切り捨てることはできなかったので、私は何とか必死で凪くんを褒めたたえようとしていた。

 はー、辛い……

 別に思ってないようなことを言ってるわけじゃないから、出来ないことはないんだけど……

 凪くんは、お客さんのテーブルにメニューを置かずに手に持って戻ってきた。


「オーダーです。パンケーキセットでアイスコーヒーと、ケーキセットでホットミルクティーです」


 すぐにコースターやストロー、ミルクを準備する。相変わらず手際がいい……

 ぼんやり凪くんを見ていると、振り返った凪くんとばっちり目が合った。


「どうかしましたか?」


「えっ!? あ、いや、えーとえーと、し、シゴデキですごいなって……」


 あーもう、また私変なこと言ってる……!

 全然うまくできないよ!

 私は助けを求めるようにキッチンの一ノ瀬さんを振り返った。

 一ノ瀬さんは笑いそうになる顔を隠しながら、アイスコーヒーのグラスと紅茶のカップをカウンターに乗せた。


「いやー、佐久間くんがいつも手際よく仕事しとるから、それを見習わなあかんって紗羽ちゃんが言うとってん。な?」


 助け舟……!

 私は必死でこくこく、とうなずいた。

 佐久間くんはそんな私と一ノ瀬さんを見て、少し首をかしげた。


「よく分からないですけど……なんだか二人して楽しそうですね」


 え。

 私が凪くんの方をぱっと見ると、すでに凪くんはおしぼりや紙ナプキンの準備をしていて、こっちは見ていなかった。

 ……もしかして、私と一ノ瀬さんの二人で何かふざけてるって思われた……?

 きゅっと胃が痛くなる。

 もう一度一ノ瀬さんの方を見てみると、一ノ瀬さんはパンケーキを焼く準備に入っていて、こっちのことは気にしていないようだった。

 私の気のせい?

 でも、凪くんの言った『二人して』という言葉が、ずっと私の頭の中でこだましていた。





 その後は、美咲さんや他のバイトの人がやって来て、お店も忙しくなり、凪くんや一ノ瀬さんと仕事以外の話をしている暇はほとんどなかった。

 今日は私と凪くんのバイト終了時間が一緒。仕事が終わった後、二人で休憩室に入り、それぞれ更衣室に行く。

 男性更衣室に入ろうとした凪くんに、私は思い切って声をかけた。


「あ、あの、凪くん、今日駅まで一緒に帰らへん?」


 更衣室のドアに手を伸ばしている凪くんが、動きを止めて私を見た。


「……別にいいですけど」


「そしたら私、急いで着替えるから! だからちょっと待っててもらってええ?」


「別に急がなくていいです。ここで適当に待ってるんで」


 普段から、凪くんの着替えは早い。だから帰るタイミングを合わせたかったら、私は急いで着替えなくちゃ!

 凪くんは待っててくれるって言ったけど、あんまり待たせて印象悪くなっても嫌だから、私は超特急で着替えた。

 別に一緒に帰ったからって……何を話せばいいかなんて分からないけど。

 でももし、私が一ノ瀬さんと一緒にふざけて凪くんをからかったり笑ってたなんて思われたら絶対嫌だから、それだけは何とかしないと!


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