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昼下がりのkamome café  作者: はる
美咲の恋
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21/42

一番の愛

「なあ美咲、試合見にこいや」


 ソファでくつろぎながらトモが言う。

 私はトモにもたれかかって携帯をいじっていた。

 今使ってるフェイスパウダーのパフ、使いにくいから別のに変えたいんだけど、使い心地のいいものないかなあ、と思っていろいろ調べているところだった。


「えー、試合? なんの?」


「なんのって、バレーしかないやろ! お前俺をなんやと思ってんの? プロね!? プロの選手!」


「あー、そうやっけ」


「そうやっけとか言う!? お前、どんだけ俺に興味ないん!?」


 トモの大げさな言い方にくすっと笑ってしまう。まあそれだけバレーはトモのすべてってことなのかも。

 もちろんトモがバレーの選手って忘れることなんてないよ。

 だってトモの家は、いくつか部屋があるんだけど、その中のひとつはトレーニング用の部屋になっている。中に器具とかたくさんあるの。

 それ以外にも、リビングも、隅にバランスボールとかすぐにストレッチができるようにマットなんかが置かれている。

 バレー雑誌や所属チームのグッズもあるし、今まで大会で優勝したトロフィーも飾ってある。

 トモがプロの選手だってことを認識しない日なんてない。

 やっぱり、アスリートの彼女って、彼氏の試合は見に行くべきなの?

 でもなあ……


「私スポーツ観戦とかしたことないし、人がいっぱい集まってるところそんなに好きちゃうからなあ」


「そしたら関係者席用意するし! あんまり騒がしい観客がぐわーっと周りにおらんようなとこ!」


「ていうか、なんでそんなに私にバレー見させたいん? 私そんなにバレー知らんし……見ててもおもしろさとか分からんと思うねんけど」


「んなもん、バレーしとる時の俺がいっちゃんかっこええからに決まっとるやろ!? お前に俺のええところ見せたいねんて! お前、普段の気抜けとる俺しか知らんやろ!? そうやなくて、バシッと活躍しとる俺を見てほしいねん!」


 ……まあ、それはそうだろう。トモが一番好きなことに打ち込んでいる瞬間。きっとものすごくかっこよくて輝いてるんだろうと思う。


「そしたらテレビで見るよ」


「だーかーら! テレビとかちゃうくて! 実際に見てほしいねんて! 俺もお前が同じ空間におるんやって思ったら、もっと気合い入るし! 絶対今までで一番活躍できる自信がある!」


「えー……」


 携帯の画面をスワイプして、パフをいろいろ探しているんだけど、映像はほとんど目に入ってこなかった。

 トモはしょぼん、と落ち込んだ。


「お前さあ、マジで俺のことどうでもよすぎちゃう? お前にええところ見てほしいのに……」


 私は携帯を横に置いて、トモの体にぎゅぎゅっと近付いた。

 大きくて熱い体。バレーしてるところなんて見なくても、十分かっこいいと思ってるんだけどなあ。

 それじゃ駄目なのかなあ。


「……トモ、知らんかもしれんけど、私、けっこうもてるねん」


「は?」


 トモが私の顔を覗き込む。


「別にそんなん分かっとる。お前ええ女やもんな。そらいくらでも男が寄ってくるやろ」


「そんな私が、不特定多数の男の人がおるところに行ってもええん? めっちゃナンパされるかも。もしくはお忍びで見に来とった芸能人とかに目つけられるかも?」


 本当はそんなことありえないけどね。

 私は街中を歩いている時も、近付いてくる男性にはかなり警戒心をあらわにしているから、そうそうナンパされることはない。向こうも私が警戒心マックスで相手に興味があるどころかむしろ嫌悪しているって分かったら、勝手に離れていくし。

 でもきっとトモはそんなこと知らないだろう。

 私の言葉を聞いたトモは目をひん剥いた。


「はー? んなもんこの俺が許すわけないやろ! その男、ギッタギタにしてやる!」


「今はそういう場所に行ってへんからなんもないけどね。トモの試合なんか見に行ったらどうなるか分からんで? それに……」


「それに?」


「逆に私、トモが……いろんな沢山の人の目にさらされて、女性ファンからきゃあきゃあ言われてる姿って見たくない。そんなんおもしろくないやん。もしその中にめっちゃかわいい子がいて、トモがそういう子見てかわいいなって思ったりしたら? そんなん見せられるん嫌やん」


「え!? お前、そんなん思ってたん!?」


 トモがめちゃくちゃ私の顔を見ようとするので、私は拗ねたようにトモから顔をそらして口を尖らせた。

 トモは嬉しそうに私の体を抱き寄せ、私の頭に口をつけた。


「そんなん気にするかー! 俺、試合の時は観客席なんか見てへんって! 試合に集中しとるからな! あんまり集中したら、マジでなんも周りの音聞こえんくなるくらいや。お前が心配することなんかなんもないのに」


 そうだろうなあ。そういうトモを見たくないだけなのに。

 トモは私の答えにある程度満足したようだった。


「そうやなー。そしたらしゃあないからしばらくはテレビで見てもらうくらいで我慢するか。お前がそういうんなんも気にならんと会場に来れるようになるまで待っとる。きっとテレビやって、俺の試合の姿見とったら、お前は直接見たくなるやろうからな!」


 トモはご機嫌で私の頭にぐりぐりと顔をすりつけ、それから私のこめかみにキスをした。

 私は黙ってトモを見つめた。トモの視線が私をとらえると、すっと目を閉じた。

 トモが私にキスをする。そしてそれはやがて深くなる。

 ……そうやって、私にだけ夢中になって。他のことなんて考えないで。私だけを見て。


 トモのファンの女の子に嫉妬するっていうのも本当なんだけど……

 でも実際は、私はもっとどうしようもないことを考えていた。

 ただ単にバレーをしているトモの姿を見たくない。

 トモは昔から……私と出会うよりもっと以前からバレーをしている。

 そして、バレーが好きで、めちゃくちゃ打ち込んで、プロになるほど人生を捧げている。

 以前、バレーをしているトモの姿を見て分かったんだ。

 トモは、きっと私よりもバレーを愛している。

 私はそれを見たくない。

 試合を見に行って、私のことなんてひとかけらも考えず、ひたすらバレーのことだけを考えて頭をいっぱいにしているトモを見たくない。

 馬鹿みたいでしょ? 自分が一番じゃなきゃ嫌だなんて。

 こんなこと、トモに言えるわけない。

 あなたが一番愛しているバレーを、私は怖がっている、なんて。嫉妬して、憎んで、そんなものなければいいのにと思っているなんて。

 誰にも言えない。

 だから私は他のもっともらしい言い訳を考えて、かたくなに試合を見に行くことを拒否している。

 ……結局、私の方がずっとトモを好きなんだ。トモがいなくちゃ生きていけないんだ。

 だから私はいつもトモを翻弄する。トモが私に振り回されている姿を見て安心する。

 ねえ、トモ、もっと私に夢中になって。他のことなんて考えないで。私に溺れて。

 私はいつもそんなことばかり考えている。


ここまで読んでいただいてありがとうございました!

美咲とトモの話はここまでになります。

次回からは再び紗羽の物語に戻ります!

美咲とは全然タイプが違う紗羽。

紗羽はどんな恋をするのか、楽しんでいただけたら嬉しいです!

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