二人の日々
こんな感じの私たちだけど、割とお付き合いはスムーズな気がする。
なぜならトモが馬鹿だから……
二人一緒にトモの部屋のソファでまったりしている時に、突然トモが言った。
「なあ美咲、茶入れてくれや」
これ、トモは、彼女にかいがいしく世話されてる俺! ってのを実感したいだけなんだなーってのは分かってる。
でもそれに素直に従っちゃう私じゃないんだなあ……
私はまじまじとトモの顔を見つめる。
「え? なんで?」
私が真顔なので、トモはちょっと慌てる。
「なんでって」
「トモは彼女に家政婦になってほしいん? それやったら実際に家政婦雇えば?」
私の言葉を聞いて、トモは目をひん剥いた。
「なんでやねん! んなわけあるか! 俺は自分のことは自分でできるし、お前を自分に都合よく使おうなんて思ってへん!」
「あっそ。じゃあお茶は?」
「……自分で入れます……」
しょぼん、としているトモがかわいくて、私は笑ってしまう。
それじゃあ、と私がトモに抱きつくと、トモはうれしそうに私の背中に腕を回した。
かわいいなあ、と思いながら、私は甘えた声を出す。
「ね、トモ、私紅茶飲みたい。入れて?」
「……はー!? なんで!? さっきお前」
私はトモの唇にぴた、と自分の指をあてて黙らせた。
「こないだトモに入れてもらった紅茶、めっちゃおいしかってんよね。お店で飲む紅茶よりおいしかった! あれってなんでなんやろ? 実はトモって、紅茶入れるんめーっちゃ上手なんかなあ? それとも、トモが入れてくれたって思うから、あの紅茶、特別おいしく思えたんかなあ? どっちやと思う?」
私が至近距離で笑顔でささやいていると、トモの顔はうれしそうににやけだした。
「は、そんなん両方に決まっとるやろ! 俺やで? スーパースターの俺が入れる紅茶がうまくないわけないやろ!? ほら、お前は座って待っとけ、今とびきりうまい紅茶入れたるからな!」
トモは私の頭をよしよし、となでてから立ち上がり、意気揚々とキッチンへ歩いていく。
「で、なんの紅茶がええねん」
「えっとねー、甘いんが飲みたいから、キャラメルティーかなあ。ティーバッグやなくて、ちゃんと葉っぱで入れるやつね?」
「任せとけ!」
トモはご機嫌でお湯を沸かし始めた。
めちゃくちゃ単純だ……
私はおもしろくなって、鼻歌を歌いながら紅茶を入れているトモの元へ近寄っていった。
「もうちょっとでできるからな。待っとけや」
「うん」
ポットにお湯を入れて、砂時計を逆さまに置いてセットしたトモの背中に、私はぴたっとくっついた。
「え、美咲?」
「トモが入れてくれた紅茶、楽しみやなー」
「お、おう」
私は更にトモの背中にぎゅうっと抱きついて、顔をすりすり、と擦り付けた。
トモがどきどきしているのが背中越しに伝わってくる。
「ふふ、これでキャラメルティー、もっと甘くなるかなあ」
「は、はー!? なにそれ!? な、お前そんなかわいいこと言うん!? え、なに!?」
あわあわしているトモがおかしくて、私は声を上げて笑った。
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練習を終え、チームメイトと駅まで歩いていた。
夕方の街中は帰宅途中の人や、これから飯を食いに行くのか、連れ立って歩いている人でにぎわっている。
「今日メシ食いに行かん?」
チームメイトに言われるが、早く帰りたくて仕方がない俺は首を横に振った。
「俺ムリ」
「トモ、お前最近つれなくないか? 飲み会も全然来んやん」
「まあ、俺もいろいろ忙しいからな」
「あれか、女か?」
すぐそばを歩いていた他のやつらも会話に入ってくる。
「どうせまたしょーもないことですぐ別れるんやろ」
「ま、お前やもんな。後腐れなくすぐ別れられるからええやんな。いくらでも次行けるし」
口々に好き好き勝手言いやがって。
チームメイトは俺を馬鹿にしているが、俺はそいつらを見て鼻で笑った。
こいつらは知らないからなー。俺が今どんな状況なのか!
「は、甘いな。今回はちゃうし。あいつ俺にドはまりしとってなー」
「そんなん、今までやってそういう系の女おったやんか」
「それとはちゃう! あいつはなー、俺がおらんとあかんねん! 一日でも俺の顔が見れんかったら死んでまうねん」
美咲の顔を思い浮かべる。まあ、ちょっと盛って言ってるところもあるけどこれくらい許容範囲だろう。
あれだ、男のプライド? それが俺にこう言わせてるんだ! これくらい許されるだろ。
「げ、そんな女だるいやんけ」
周りが眉をひそめるが、俺は不敵に笑った。
「ま、俺の包容力を持ってすればそんなんも全然平気やし? そらさすがにだるい時もあるけどな、まあかわいいもんやんか。あいつ、俺さえおれば他になんもいらんねんから、一緒におるくらいしてやらんとな」
いい気になってしゃべっていると、チームメイトがおい、と声をひそめて俺を肘で突いた。
何だよ、もっと彼女に愛されてる俺を知らしめたいのに、と思ってそいつの方を見ると、なんとそいつの背後に美咲が立っていた!
しかも超笑顔で!!!
「み、美咲!? なんでお前ここに」
そこではっとした。
もしかして美咲は、俺を迎えに来たのか!?
え!? マジで!? そんなに俺に会いたかったのか!?
俺が帰るのを待っていられないくらい!?
俺はパアアア、と顔を輝かせた。
「おー、なんなんお前。めっちゃタイミングええやん。ちょうど帰ろうと思っとったところや」
いそいそと美咲の前に行くが、美咲はさっきの笑顔を1mmも動かさなかった。
「そうなんや。天嶺さん」
めちゃくちゃ穏やかな……というか、むしろ感情を感じられないようなのっぺりとした声。
「へ? なにそれ? なんで苗字」
「どうやら天嶺さんは家で愛らしい彼女が待ってるんやね? それならはよ帰ったら?」
……ひー!!!
こ、これは! 美咲のこのセリフ、この表情!
さっきの会話、聞かれてたのか!?
「え、いや、ちゃうねん、今言っとったんは」
「知らんかったなあ。天嶺さんにそんな愛の重い彼女がおったなんて。いつそんな人できたん? 私と時期被ってる? まさか浮気? ……ああ、私で浮気してただけで、そっちが本命? その彼女が今家で待っとるんかな?」
俺はめちゃくちゃ慌てた。冷や汗がだらだら出てくる。
いかん、これはいかん!
とにかく全否定だ!
「ななななんでやねん! んんんなわけないやろ! 俺にお前以外の女なんかおるわけないやろ!」
必死で言いつくろう俺と、穏やかな笑顔を崩さない美咲。
チームメイトがこわごわ俺たちの方を見ているが、誰も口を挟めないようだった。
「そしたらさっきの話はなに? ドはまりしてるんは誰? 一日でも会わんかったら死んでしまうんは? 相手がおればそれだけでええと思ってるんは?」
笑顔のまま畳み掛けるように話す美咲に、俺はがっくりうなだれた。
「はい、それは俺です……」
チームメイトの、あちゃー、と言う声が聞こえる。
クソ、あいつらに明日絶対からかわれる……!
でも美咲の機嫌を取る方が先だ。でなきゃ俺の人生終わる!
反省の意を表明するために美咲の前でしょぼくれていると、ようやく笑顔の仮面をはずした美咲がため息をついて俺の手を取った。
「……トモ、私肉じゃが食べたい」
「!! もちろんや! そら、さっさと帰るぞ! めっちゃ高級肉入れて作ったる!」
よし! 美咲が許してくれた!
こうやって俺に要求してくれることがその証拠だ。
もともと男に頼るとか貢がれることに嫌悪を抱いている美咲が、俺に要求するってことは、美咲は俺に甘えているんだ。
いつも自分で何とかしようとする美咲が、俺の料理は素直に食って、俺がやる菓子もうれしそうに食う。
それが美咲が俺を受け入れて、俺に甘えている何よりの証拠だった。
「俺の作る肉じゃがは小林カツ代のレシピやからな! うまいんたっぷり食わしたるからな!」
美咲の手を握りしめる。
美咲は俺の顔を見上げてニコッと笑った。
ああ、この女神の微笑み……!
美咲が許してくれる。俺に笑いかけてくれる。それだけで腰が砕けそうだ。
「あとデザートも食べたい」
「もちろんや! デパ地下でもどこでも行ってお前の好きなもんなんでも買ってくぞ!」
美咲が俺に体をくっつける。
ぞくぞくする喜びが俺を満たす。
あーヤバい。幸せすぎる。
この世界一いい女が俺に全身をゆだねている。こんな幸せがあるか? 俺以外の誰も手に入れることができない宝がこの手の中にある。
美咲しか目に入っていない俺が意気揚々と歩いていこうとすると、背後からチームメイトが俺に声をかけた。
「あー、まあ……トモ、良かったな」
「お前が幸せならええんちゃう? せいぜい尻に敷かれろよ」
ふん、と鼻で笑い、チームメイトをあしらう。
お前らは全然分かってない。
美咲に受け入れられ愛されることがどれだけ最上の喜びなのか!
この小さい体の中にある気高い心がどれほど俺の心を震わせるのか。
美咲がいれば、俺は世界で一番強くてたくましい男になれる気がした。




