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昼下がりのkamome café  作者: はる
美咲の恋
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17/42

力比べ

 お皿に出来上がったハンバーグを乗せて、サラダなんかも添えちゃって、上にどーん、と目玉焼きを乗せたトモが、めっちゃ自慢げに笑った。


「よし! 今日も天才やなー、俺は!」


 それをじっと見ていた私は、めちゃくちゃ笑顔でトモに近付いた。


「ね、トモ」


「あ?」


「ちょっとお願いがあるねんけど」


「お願い?」


「うん。ちょっと私のこと押さえてくれへん?」


「は?」


 トモが眉根を寄せる。

 さっさとハンバーグを食べたいのに何言いだしたんだこいつは……って表情。


「あのねえ、私の体めっちゃ押さえつけてほしいねん」


「意味分からんねんけど。なんやねんそれ」


「えっとねー、力試し……? いや、ちゃうな、そうそう、トモがどれくらい力強いか確かめるねん! こう、私がめっちゃ抵抗するから、それでも私を押さえつけられるかどうか!」


 よく火事場の馬鹿力とか言うし、私が思いっきり抵抗したら意外とトモも本気を出しちゃうかもしれない。トモが本気で私を押さえようとしたとき、果たして私はトモを怖いと思うかな?

 ま、なんか全然怖いと思わない気がするけど!

 トモはあきれたように額を手で押さえた。


「お前は、俺が必死でメシ作っとる間になに下らんこと考えとるねん」


「えー、私やって力持ちって証明したいだけやもん」


 私がニコニコしながらそう言うと、トモはびっくりするくらい大きなため息をついた。めっちゃ肺活量ありそうなため息!


「しょーもな。さっさと終わらしてメシ食うぞ」


「うん」


「で、どうしろって?」


 トモが私に近付いてくる。

 私はうーん、と考えた。


「えーと、とりあえずがしっと肩つかんでくれる?」


「肩?」


「そう」


 トモが大きい手を私の肩に乗せる。つかむっていうか、乗せてるだけ。これじゃあこれから肩もみが始まりそうだ。


「うーん、なんか違うな……ていうか、トモの手、重たい」


「知るか!」


「じゃあそれはやめて、私の両腕つかんでみて。がしってつかんで拘束するねん」


 そうそう、それだ。そっちの方が身動き取れなさそう!

 トモがため息をつきながら、私の両手首をそれぞれつかんだ。

 でも全然力入ってないな……

 私はちょっと腕を動かした。

 トモの手が離れそうになったので、トモが少しだけ力を入れて離れないようにする。

 あー、これ! こういうことだよね!

 私はもっと力を入れた。

 そうしたら、トモも同じくらい力を入れる。


「……ふっ、トモ、なかなかやるやん」


「いや、これ、なんの遊び?」


「まだこんなん序の口やで。もっと力入れるから!」


 私はぐっと全身に力を入れて、腕を動かそうとした。

 どうだ! これだけ渾身の力を入れれば、少しくらいトモもこいつやるな、って思うはず……!

 と思ったのに、トモはだるそうに首を傾げたまま、私と同じくらいの力で私の腕を押さえ続けた。

 えー! ぜんっぜん動かない……!

 めちゃくちゃ悔しい。ちょっとくらいトモが私の力強さに慌てたり焦ったりしてるところ見たいのに!

 私は歯を食いしばってぐぬぬ、と全身に力を入れた。

 さすがにこれだけ力を入れて抵抗していると……


「うー、痛い……」


 私が小さい声で言うと、突然トモはぱっと手を離した。


「えっ? あれ?」


 急に腕が解放されて驚く。腕は軽くなったけど、トモに押さえられていたところはじんじんとしびれていた。


「あほくさ。こんなんいくらやったって無駄やろ」


「えー、まだ私の本気100%出し切ってへんのに!」


「あほか! 自分の腕見てみろや」


 腕を確認すると、確かにトモにつかまれていたところ、赤くなってるけど……でもこれは私が自分でやろうとしたことだから、どうってことない。まだできるのに。

 トモは舌打ちしながら部屋を出て行った。そして洗面所から濡らしたタオルを持ってきた。

 トモはその濡らしたタオルを私に渡した。


「そこ冷やしとけよ」


 タオルを手に持って、私は口を尖らせた。

 ……まあいいか、結局、何されたってトモは全然怖くないって分かったから。


「トモ」


「今度はなんやねん」


「自分じゃ両腕一緒に冷やされへん。トモがやってよ」


「はあ!?」


 キッチンに戻りかけたトモが鬼のような形相で私を振り返る。

 でも怖くないもんね。


「腕、両方赤くなっとるのに、自分じゃ両腕一緒に冷やされへんねんもん。トモがやってくれんと」


「お前、どんだけわがままやねん!」


 ぶーぶー文句を言いながら、トモはリビングに行ってソファに座り、忌々し気に私を隣に座らせた。

 私が座ると、私の手からタオルをひったくって、タオルを広げて私の両腕をくるんだ。

 心地良い冷たさが火照った腕を包む。


「おおー、ひんやり」


「ち、こんなんやっとったらせっかくのメシが冷めるやんけ」


「別にそんなん、あっためなおしたら良くない? トモよろしくね?」


「マジでお前、手のかかるガキかよ……」


 トモは苛立っていたけれど、私はいい気分だった。

 みんなが怖がっているトモだけど、私は全然怖くないもんね!

 私はニヤニヤしながらトモに尋ねた。


「トモって、女の子にはけっこう優しいん? 私が痛いって言ったら、すぐに手離したもんね」


 この両腕を冷やしているのも、乱暴にタオルをひったくった割には、そっと私の腕をくるんでくれてるし。

 トモは心底うっとおしそうに私を見た。


「はあ? 俺はいつでも紳士やろが」


「どこが!?」


「うるさい。だいたい嫌がっとる女になんかするような趣味俺にはないんじゃ。くだらん」


「ふーん。じゃあ、私以外の女の子にも優しくするん?」


 私がトモの顔を覗き込むと、トモは少しひるんで口をぱくぱく開けた。


「ん、んなもん当たり前やろ。誰にだって同じようにするに決まっとる」


「へー、そうなんや」


「でも、こんな変なこと言いだすんお前しかおらんやろ。だから他の女では検証してへん。それだけの話や」


 何それ!

 私はぶはっと吹き出した。


「あはー、素直やないなあ。別に私にだけ優しくさせていただきます、って言ってええねんで?」


「あほか! そんならお前やって、俺の紳士っぷりに感動して惚れても知らんからな!」


「ご心配なく。私、男は優しくて当然やと思ってるから。これくらい普通やもん」


 トモは舌打ちして苛ついている風だったけれど、それでも私の腕をタオルでくるみ続けた。

 トモと軽口をたたいているのは楽しかった。

 こんな変な人、初めてだなあ。

 強くてえらそうな男なんて嫌いだったのに。

 でも、トモはおもしろいし、力が強いのにその力を私に使ったりはしない。そういうところがちょっとだけかわいいかも、と思ってしまった。


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