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昼下がりのkamome café  作者: はる
美咲の恋
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16/42

試してみよう

 電車を降りて、改札口に向かいながらぼんやりとトモのことを考えていた。

 今日も『時間は?』と連絡が来たので、『8時20分頃駅に着く』と返した。

 トモって、もしかして……という気持ちが芽生えるけど、いやいや、とすぐに否定する気持ちにかき消される。

 だってあいつ、学生時代からめっちゃ注目されてたみたいだし。腹が立つけどかっこいいから、常にもてていたみたいだし。

 実力があって、努力もできて、成果も上がるから自分に自信があって尊大だ。

 そんな人が、どうしてこんなに私に構うんだろう?

 最初は私があいつに気があるんだって勘違いしてたみたいだけど、すぐにそんなのへし折ったし。私、トモに対しては、他の人に対するよりもかなり辛辣に接していると思う。でもあの図々しい男は全然気にしていないけど。

 しょっちゅうごはんを振る舞ってくれて、珍しい高そうなお菓子をくれて、私が喜んだらすごくうれしそうにして。

 ……そんなのまるで、私のことが好きみたいじゃない?

 あーもう、と私はふるふると首を振った。

 別にそんなこと気にする必要なんてない。

 私は単にタダのごはんを食べられて、お菓子をもらえるからトモと会ってるだけだし。頻繁に迎えに来てくれるのも……都合がいいからそうしてもらってるだけだし。

 もしあいつに告白とかされたって当然断る。

 だって私、偉そうなやつ嫌いだもん。

 図々しくて乱暴で、何でも自分に都合のいいように解釈しようとする馬鹿な人。

 そんな人興味ない。

 だから気にすることなんてない。

 ……それなのに、最近気付けばトモのことばっかり考えてるな……

 あいつ、背も体も態度も存在も大きすぎるの! そのせいだ!





 改札を抜けたところで、高瀬さん、と声をかけられた。

 声の方を振り返ると、同じ大学の男子生徒が立っていた。


「あれ、浪下くん」


「やっぱり高瀬さんや。ここに住んでるん?」


 浪下くんは、トモとは対照的で、すごーく穏やかな男子で話しやすかった。どうやら姉と妹三人に囲まれた四人兄弟らしい。なるほどな、って感じ。


「うん。うちの最寄り駅。浪下くんは? この辺なん?」


「ううん、俺はバイトで、今日はこの駅の店舗の手伝いに駆り出されたから来てん。ほら」


 浪下くんは持っていた手提げ袋を広げて、駅前の薬局のエプロンを見せた。


「そうなんや。人手不足? 大変やね」


「そうやねん、急に辞めてまう人とかおってさ……」


 そこで浪下くんはぴた、と話すのをやめて、ぎょっとしたように私の後ろを見た。

 どうしたんだろう? と思って私も後ろを振り返ると、そこにはサングラスをかけたトモが、異様な威圧感を纏わせて立っていた。


「トモ?」


 サングラスをかけているからよくわからないけれど、むすっと口を引き結んでいるトモはなんか不機嫌そう?


「おう、美咲。こいつは?」


 トモは顎で浪下くんを指し示した。

 うわー、相変わらずえらそう……


「浪下くんは同じ大学の人。課題やるグループが一緒やねん」


「ふーん」


 サングラス越しでも、トモが浪下くんをジロジロ見ているのが分かる。

 浪下くんはトモの迫力にすっかり萎縮してしまっている。


「もう、トモ! 変に絡まんといて! ほら、あそこのコンビニでなんか飲み物買ってきてよ。さっさと行って!」


 私はしっしっとトモをコンビニに追いやった。

 トモはちっ、と舌打ちをしてコンビニの方に歩いていく。

 トモが離れたのを確認して、私は浪下くんに謝った。


「なんかごめんね。めっちゃえらそうやろ? 別にあの人、チンピラではないねんけど」


 浪下くんはふー、と息を吐いてから苦笑した。


「めっちゃびっくりした! 俺殴られるかと思った。あの人狂犬みたいやな」


 狂犬!

 その表現がおもしろくて私はぷっと吹き出した。


「ほんまやねえ。でも別に本気で暴力振るったりはせんと思うよ」


「高瀬さんは全然あの人怖がってへんから、すごいなーって思った。あんな迫力ある人やのに、めっちゃ普通に話しとったね」


「え……そう?」


「うん。……あ、俺まだ睨まれてるみたいやからもう行くわ。それじゃ高瀬さん、また大学で」


「うん。またね」


 そそくさと改札を通って去っていく浪下くんに手を振ってコンビニの方を振り返ると、確かにコンビニの中からサングラスをかけたトモが顔を正面に向けてこっちを見ていた。

 確かに圧が強すぎ!





 私がてくてく歩いてコンビニの方へ行くと、会計を済ませたトモが出てきた。


「やる」


 そう言ってトモがペットボトルを私に手渡す。


「あ、これ、期間限定のマスカットティー! 飲みたかったやつやー」


 私が声を上げると、サングラスを外しながらトモはふん、と笑った。


「お前が好きそうなもんくらい分かるっちゅーねん」


 ……うーん、やはり私は餌付けされている……

 二人でマンションの方に歩いていきながら、さっき浪下くんに言われた言葉を思い出す。

 ……確かに私はトモのこと怖いと思ったことないかも。

 ムカつくとかイラッとするとかはいくらでもあるけど。

 でもこんなに大きくて力の強そうな人なのに、怖くないなんて。

 これ、どうしてなんだろう?


「ねえ、トモ」


「なんやねん」


「今日、ちょっとトモの部屋行っていい?」


「は? そら別にええけど」


「差し入れなんも持ってへんけど」


「別にそんなもんどうでもええ……いや、あれや、後で倍もらうからな。それでええ」


 倍って! 実家に頼んで、今度は大容量の何かを送ってもらわないと。


「ははーん、お前あれやろ、一人メシが寂しくなったんやろ。一人暮らしの女ってすぐそういうん言い出すもんなー。しゃあないな、メシくらい俺がいくらでも一緒に食ったるわ」


 したり顔でそう言うトモにイラッとする。

 女性一般のイメージで言ってるのか、元カノがそんなだったのか知らないけど。私をそういうのに当てはめないでくれない?

 言い返すのも面倒だったので、私は素っ気なく言った。


「そしたらハンバーグ作って。目玉焼き乗せたやつね」


「は、任せとけ! ……いや、うちにひき肉あったかな……ちょっとスーパー寄ってくぞ」


 こうやってどんどん行動とか勝手に決めちゃうの。偉そうでほんとムカつく。

 ……でも、やっぱり怖くはないなあ?






 トモの部屋に入ると、早速トモは料理を始めた。

 これも驚きだよね。

 トモなんて、料理なんか全然しなさそうじゃない? 身の回りの世話とか全部他人にやらせそう。

 それなのに、意外とまめに掃除とかしてるみたいだし……料理もしてる。意外過ぎる!

 でもこうなると、なんか対抗心が湧いてくるんだよね。

 私だって一人暮らししてるし。家事出来るし。掃除も料理だってできる!

 私の料理って、食べるの私だけだから、ものすごく手抜きの簡単料理しか作らないけど……でもいつか、めっちゃ凝った料理作ってトモを驚かせてやりたい。

 え、お前そんなん作れるの!? とか言わせてみたい。

 少し離れた場所から料理しているトモを見る。

 手つきを見る限り、けっこうちゃんとしてる。器用なのかなあ。

 見た目はあんなに、気に入らない人間を片っ端から殴りつけていそうなのにね。

 そこで、ふと思った。

 私、トモに力づくで何かされたことないから怖くないのかも?

 実際はどうか分からないけれど、私は気が強いし、もし男に胸ぐらをつかまれたって平然な顔してにらみつけたりできる気がする。

 ……よし、これは、試してみるしかなくない?


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