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昼下がりのkamome café  作者: はる
美咲の恋
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14/42

変な人

 事情聴取が終わった時はもうかなり時間が遅くなっていた。

 疲れた……

 ようやく解放された私たちは、マンションのエントランスの椅子にぐったり座っていた。

 ……いや、ぐったりしてたのは私だけ?


「やっと終わった……」


 小さい声でつぶやく。ああもう、早く帰って寝たい。もう疲れ果てたし、何も考えずに布団に入りたい。


「ま、一応良かったやんか。変なやつつかまって」


「変なやつ……あなたのこと?」


「なんでやねん! あのストーカー男のことに決まっとるやろ!」


「分かってるって」


 私はほんのすこーしだけ、薄く笑った。笑う元気なんて全然なかったけどね。


「ほんまに……女って損してばっかりやなあ……なんで私女に生まれたんやろ」


「は?」


 彼が訝しげに私を見る。私は疲れていたので、彼の方は見返さず、目の前の宙をぼんやりと眺めていた。


「あなたは男で体がでかいってだけでそうそうなめられることないやろ? 私と大違いや。私は若くて女やってだけで欠陥品みたいな扱いをされる。大人の、特に年配の男性からはなにも考えてへん頭の悪いやつって前提で接されるし、変な男からは、弱いから力でなんでも言うこと聞かせられるやろって思われる。電車では痴漢に遭うしトイレの行列は長いしほんまなんもええことない」


「うん? 最後のはなんかちゃうくないか?」


「男は楽でええよね。基本的に女をなめてればええねんから」


 偏見丸出しの意見って分かってるけど。でも悔しいのは、ある程度そのとおりだってことだ。

 私は力では絶対に男性にかなわない。あのストーカー男だって、身長は私と同じくらいで、体もひょろっとしていた。私と違いなんてほとんどなさそうなのに、私の肩をつかんだ手の力は私では振りほどけないくらい強かった。

 この、隣にいる人も……

 あんなにムカついていたのに、結局この人に助けてもらった。この人が現れた時、この人は私を助けてくれる、そう思った。そうじゃなきゃ、私はどうなっていたか分からない。

 私は無力すぎる。ほんと、何もできないなめられるしかない弱い女。

 隣の男は壁にもたれて両手を組み、ぐっと伸びをした。


「は、くだらんムカつくこと言いやがって、って言いたいところやけど、お前の言いたいことはなんとなく分かる。俺やって大変なことくらいいくらでもあるし、とか思ったけど、そういうことちゃうんやろ? 俺の身長とか、鍛えたらいくらでもつく筋肉とか、お前にはどうにもならんもんな。お前が血吐くくらい努力したって手に入らへん。お前、そんだけ男顔負けなくらい気強いのに、女で華奢な見た目やってだけで弱いもん認定されるもんな。そんで実際、弱いもんな。そら腹立つよな」


 私はぐっと唇を噛んだ。

 そうだよ、私がどれだけ努力したって男になれるわけじゃない。この男みたいな筋肉がつくわけじゃない。ストーカーに素手で勝てるようになるわけじゃない。

 彼は突然私を見てニヤッと笑った。


「ところがや。お前が俺並みに強くなる方法がいっこあるねん。分かるか?」


「え?」


 私は驚いて思わず彼を見た。

 何なの、それ?


「俺がお前の護衛になることや。考えてみろ。大統領とか大企業の社長とかえらいやつ! えらいやつは、そいつ自身に物理的な力がなくても屈強な護衛がおる。すると誰も逆らおうとせん。それはえらいやつと護衛がイコールで結びついとるからや。つまり俺がお前の護衛になれば、お前は俺と同等の強さを得ることになるんや!」


 自信満々に話している彼を見て私はあきれた。何言いだすの、この人は……


「……あほくさ。護衛なんかいらんし。私は一般人ですから。それにストーカーはもう捕まったし」


「なに言うとんねん。お前のその見た目、たぶんこれからも同じようなことあるで。護衛は今後も必要やろうな」


「あなた、ほんまもんのあほなん? あなたバレー選手なんちゃうん? いつ私の護衛なんかするんよ」


「いや、だからそれは、こういうお前が帰り遅くなった時とか……そういう時は俺を呼べばええねん。あ、でも俺が遠征に行っとる時とか、仕事でどうしても遅くなった時は無理やからな。そういう時は帰りはタクシー呼べ! 駅からここまで、たとえ数百mでもタクシー使って帰れ! それ以外は俺が護衛する。どや!」


 何がどや! だ。馬鹿馬鹿しい。

 でも何となく分かってきた。こいつ、絶対自分でこうだって思ったことは曲げなさそう。ここで抵抗していつまでもぐちゃぐちゃ言われ続けるの、しんどすぎて無理……とにかく早く帰って寝たい。

 私は適当に流すことにした。


「もうええよ、なんでも。帰りが遅くなったらあなたに連絡したらええんでしょ?」


「そういうことや」


 しぶしぶ私たちは連絡先を交換した。

 絶対連絡しないでおこう……


「ふーん、お前、美咲いうんか」


 携帯に表示された私の名前を見て彼が言う。


「あのねえ、あなたずっと私のことお前って言ってるけど、私にはちゃんと高瀬美咲って名前があるねんからね? どうせあなたは美咲なんて似合ってへん名前やとか言うんやろうけど」


「え? いや、似合ってるやん」


 あまりにも彼がさらっと言うので、私は驚いて一瞬動きが止まった。


「お前、その辺の女よりかは美人やもんな。美咲ってそのままの名前やん。似合うもなにもないっつーか、名は体を表しとる感じや」


「え……」


 いきなり褒められてびっくりしすぎて、かっと顔が熱くなった。

 この人、絶対他人を褒めなさそうなのに!

 そんな私を見て、なぜか彼も慌てた。


「はっ? なんでそんな赤くなるねん!」


「……別に赤くなんてなってへん」


「明らかになっとるやんか! ……へー、その程度のことで赤くなるなんて、かわいいとこあるやん」


 自分が慌てていることをごまかすように彼が茶化して言う。

 とにかく自分が優位に立とうとしている姿にむっとして、私もむきになった。


「なに言ってんの!? あほなんちゃうん?」


「誰がアホや! それから言うとくけどな、俺やってあんたとかあなたやなくてちゃんとした名前あんねんからな!」


「知ってるよ、トモやろ?」


「おい、なんで偉そうに呼び捨てにされなあかんねん。天嶺さまって呼べ!」


「嫌やわ、そんな呼びにくい名前」


「クッソ、覚えとけよ、美咲!」


 結局そっちも呼び捨て!

 私も彼と同じように腹を立ててぷくっと頬を膨らませた。

 あーあ、もう、何なのこいつ。

 私の護衛をするって話も、たぶん勢いで言っちゃっただけだろうし……

 一応有名人のはずなのに、馬鹿っぽいというか、とにかく変な人だなあ、と思った。


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