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昼下がりのkamome café  作者: はる
美咲の恋
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13/42

ストーカー

 その後しばらくの間は、日が暮れる前に帰宅するようになった。

 明るいうちならまだ人通りが多い。視界も開けてるし、変な人が潜むような場所はない。

 そう、自分で防衛すればいいんだ。

 そうすれば、後をつけられることも、変な男に絡まれることもない。

 全部忘れてしまおう。

 本心は引っ越してしまいたかったけど……でも、駅から近くてオートロックのマンションで、お手頃価格なところってなかなかない。それに引っ越しとなるとめちゃくちゃお金がかかるし……

 今いる場所で何とかするしかない。

 だからもう明るいうちしか外に出ない! それでいい。

 ……と言っても、一人暮らしをしている大学生が、それだけでは生活できないってのも事実だ。


 その日は、講義が終わり、用事も済ませて最寄り駅にたどり着くと、もう外は薄暗くなっていた。

 薄暗い……

 少し不安になる。

 でもまだ真っ暗じゃないし。

 えーと、こういう時はあれだ、うちのマンションの方向に向かって歩いていく人についていけばいいんだ。

 誰かそっち方向に行く人いないかなあ……できれば複数人いてくれたらいいんだけど。

 私は駅を出たところで、立ち止まって歩いていく人をぼんやり眺めていた。

 あーあ、どうしてこんなことしないといけないんだろう。

 本当に女って損だ。

 あの……天嶺トモみたいに、無駄に背が高くてでっかい体をしていたら、そうそう狙われることなんてないよね、きっと。

 でも私は女で、こんな風に生まれてしまったんだから仕方ない。

 自分で自分の身を守るために、いろんな方法を考えるしかないんだ。

 私がそんなことを考えながら突っ立っていると、離れた場所から走って近付いてくる人がいるのに気付いた。

 ジョギング中の人かなあ。駅の周辺でもそういう人をよく見かける。

 でも、私の前を通り過ぎるにしては、私に向かってきているように見える……と思ってそのジャージ姿の人を見ると、その人は天嶺トモだった。

 めっちゃでかいし、普通の一般市民とは思えないような体つき。間違いない。

 うわ。

 会いたくない人がこっちに来る。

 私は思いっきり彼と反対方向を向いた。

 走っている彼が近くを通りかかったのは偶然のはず、と思っているのに、彼は私のそばまで来て足を止めた。


「おう、今帰りか?」


 まるで親しい知り合いに偶然出会ったかのような口調に、イラッとする。

 私はつん、とそっぽを向いた。


「俺もずっとランニングしとってんけどな。喉渇いたからここの自販機で飲みもんでも買ってから帰ろうと思ってな」


 私が無視しているのに彼は勝手にペラペラしゃべっている。

 あーもう、うるさい。

 彼を振り切りたくて私は歩き出した。

 暗いから一人で歩いていくのは嫌なのに……

 でもこのうるさい男がいつまでもしゃべっているのを聞いている方が嫌だった。

 私がマンションの方へすたすた歩いていくと、なぜか彼も私のすぐ後ろをついてきた。

 何でついてくるの!?


「あなた、飲み物買うんちゃうん!? なんでこっち来るんよ」


「買うつもりやったけど、よく考えたらすぐ家やもんな。買っても無駄かと思って」


 何それ!?

 ほんと意味分かんない。

 私はそれ以上彼に何も言わずにずんずん歩いてマンションまでたどりついた。

 その間、彼はずっと私の後ろを歩いていた。

 めっっっっちゃむかつくけど、彼がいたので誰かついてきていないか心配することはなかった。





 その後も、同じようなことが何度かあった。

 少し帰りが遅くなって、駅を出たところでどうしようかなあ……と思っていると、どこからともなくランニングしている彼が通りかかる。

 もしかして、この私の帰りが遅くなる時間って彼が日課としてランニングしている時間とかぶってるのかも?

 最初にマンションの近くで会った時もそうだったもんね。

 そう考えると納得できた。

 彼は私を見ると、あー疲れた、と言ってランニングを辞めて、私のそばをてくてく歩いてマンションに帰ることもあったし、帰らずにランニングを続けていることもあった。

 ランニングを続けている時は、彼のランニングコースはどうやらマンションの周りをひたすらぐるぐる回ってる感じみたいで、私が駅からマンションまでたどり着くまでの間に2~3回走っている彼とすれ違った。

 だから私はこっそり、今誰かにつけられたとしてもすぐ人を呼ぶことができるなあ、と思っていた。





 その日もやっぱり私は少し帰りが遅くなってしまっていた。

 だって課題をするために図書室で調べ物をしていたら、思ったより時間がかかっちゃって……どうしようもなかったし……

 今日はいつもよりさらに少し時間が遅い。大丈夫かなあ。

 まだあの人がランニングをしている時間だったらいいんだけど……

 そう思って駅を出ると、信号の近くにちょっとした人だかりができていた。

 何だろう? と思って見てみると、その人だかりの中心にいたのは、天嶺トモだった。

 彼はファンの女の子に囲まれていた。


「トモさん、この前の試合、復帰戦でしたよね? めっちゃかっこよかったです!」


「怪我したの心配してたんですけど、全然大丈夫でしたね! むしろ前よりもっとパワーアップしてるみたいでしたよ!」


「最近よくこの辺走ってるってちょっと話題になってたんですけど、ほんまやったんですね!」


 彼は口々に話しかけるファンの女の子たちに、めちゃくちゃ笑顔で丁寧に応えていた。

 ……へー。そんな表情、するんだ。

 普段私に見せる偉そうだったりムカつくような表情とは全然違う。正に好青年、って感じだ。

 すっごくイライラする。

 私はファンに囲まれている彼の横を通り過ぎた。もちろん、完全に無視して。

 別に平気だし。

 彼がいなくても、最近は暗くなった後でも普通に歩いて帰ることができる。

 駅からマンションなんてすぐ近くだし。

 人通りのない道を歩いていると、あ、今日は静かだなあ、と思う。

 最近はいつも、夜帰っている時でも、彼が後ろにいるか、もしくはこのマンションの周りをぐるぐるランニングしていたから。

 悔しいけれど、あの人が周りをうろうろしているおかげで私は安心して歩けていたんだな、と思った。

 ……ほら、そんなこと考えていたら、もうすぐマンションだ。

 一人でだって、ちゃんと帰って来れた。

 そう思った瞬間、突然肩に手を置かれた。

 不意打ちだったので、あまりにもびっくりしてひっ、と声が出る。

 振り返ると、見たことのない男性が目の前に立っていた。

 私と同じくらいの身長の……小柄な、若い男性。

 誰!?


「やっと静かなところで二人になれましたね」


 薄く笑っている男性を見て、ぞっと身の毛がよだつ。

 ……この人……


「ずっと二人で話したかったのに、邪魔ばっかり入ってなかなか声をかけられなかったから。ようやく今日一人になってくれて良かった」


 もしかして、この人? 以前私の後をつけていた……


「あの男、彼氏なんかじゃないでしょ? あの時以来、別に二人で仲良くしてるところ見ないしね。あの時は魔が差したんだよね? それであの男のところに行ったんでしょ?」


 男が私の肩に置いた手に力を入れる。痛い。


「結局ああいうやつって女を満足させられないんだよね。僕の方がよっぽど君の気に入ると思うよ。絶対僕の方が君を分かってあげられるから。僕の良さを見てほしいんだ。二人でゆっくり話せばきっと分かるよ」


 男がじりじりと私に近付いてくる。

 嫌だ、やめて。離れて。

 でも全然声が出てこない。

 駄目だ、何とかしなくちゃ。逃げなくちゃ。こんなやつひっぱたいて、殴りつけて、叩きのめさなくちゃ。

 そう思っているのに体が恐怖で動かない。


「君もあんな粗野な男より、僕の方がいいと思うだろう?」


 男がぐいっと私に顔を近付けた。

 やめて、と全身に力を入れた時、突然私の肩にかかった男の手が外れた。


「おい、お前! なにしとんねん!」


 天嶺トモが男の手を振り払い、男と私の間に体を割り込ませた。

 私の顔は彼の背中にぐっと押された。驚くほど熱い背中だった。


「あ……」


 男は突然現れた彼に、明らかにひるんでいるようだった。


「お前、こいつになにする気やってん! しばき倒すぞ!」


 彼の怒鳴っている声を聞いて、助かった、と思った。

 この人がいる。だから私は大丈夫だ。もうこれ以上あの男に何かされることはない。


「ああ? なんか文句あるんか? あるんならとっととかかってこいや! 俺がいくらでも相手したる! 今後こいつに近付いてみろ、二度と日の目見られへんようにすんぞ!」


 彼がものすごい剣幕でまくしたてるので、周辺に人が集まってきてちょっとした騒ぎになった。

 その後警察までやって来て、男は捕まり、彼と私も事情聴取を受けることになった。


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