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昼下がりのkamome café  作者: はる
kamome caféの紗羽
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11/42

恋の形

 バイトが終わり、更衣室で美咲さんと着替えていた。

 私はさっきから気になっていたことを美咲さんに聞いてみた。


「美咲さん、あの……天嶺さんと美咲さんの会話って、いつもあんな感じなんですか?」


「あんな感じって? いつもあんなんやけど。なんかおかしかった?」


 ケロッとした顔で美咲さんが答える。うわあ、やっぱりそうなんだ……!


「なんていうか……すごいですよね? 二人とも言いたいこと全部言い合ってるみたいで……」


「そうかなあ? まあトモはあんなんやし、脳みそと口がつながってるやんね。思ったこと即口に出してまう、って感じ」


「そ、そうですね……」


 それは美咲さんもでは……

 美咲さんはシャツを脱いで、柔らかなサマーニットをかぶった。


「んー、でも私、言いたいこと全部言ってるわけちゃうけどなあ」


「え、そうなんですか?」


「そりゃ、普通誰だってそうちゃう? 思ったことなんでもかんでも口にしてたら、普通の社会生活なんか送られへんやん」


 そう……なのかなあ? 私にはよく分からなかった。普段からそんなに複雑なこと考えてないからなのかもしれないけど。


「それより美咲さん、本当に天嶺さんの試合、見たことないんですか?」


 着替え終わった美咲さんは、ロッカーの鏡で髪の毛を整えていた。


「直接はないなあ。たまーにテレビとか動画で見ることはあるけど」


「それ、どうしてなんですか?」


「え?」


 くるっと振り返って美咲さんが私を見る。

 バイト中は髪を結んでいた美咲さんが、今は下ろしている。黒いストレートの髪がさらりと揺れる。髪を下ろした美咲さんもすごく素敵だった。


「だって、天嶺さんはプロの選手なんですよね? バレーをしている天嶺さんが、一番かっこいいんじゃないですか? その姿を直接見ないなんてもったいないなって思わないんですか?」


 好きな人が、一番輝いていてかっこいい姿なんて、絶対見たいと思うんだけどなあ。

 美咲さんはバレーに興味がなくて、天嶺さん自身が好きだから、って言っても……好きなことに夢中になっている天嶺さんの姿を、本当に見たいと思わないの?

 私がじっと美咲さんを見つめていると、美咲さんは苦笑しながらロッカーの扉をぱたん、と閉じた。


「あは、紗羽ちゃんにはかなわへんなあ」


「え?」


「あのね、実は……ほんまは別の理由があるねん。私がトモの試合を見に行かへん理由」


「理由……ですか?」


「うん。紗羽ちゃんはあんまり知らんみたいやけど、トモって高校生の頃からバレーで頭角を現して有名で、そんであの見た目やん? めっちゃもてとってんて。だから、今もバレーの試合見に行っても、トモ目当ての女性のお客さん、めーっちゃいっぱいおるみたいやねん」


「……そうなんですか」


「私の中で、トモは私にだけ夢中で、私にだけ振り回されてほしいって思ってるんやろうね。トモがたくさんの女性から注目を浴びて黄色い声援を受けて、その声援に笑顔で応えてる姿、見たくないねんよね。たとえ営業用の嘘の笑顔やったとしても、トモの笑顔が私以外の人に向けられてるんを見たくない。めっちゃ心狭いけど、それが理由」


 ……えええ!?

 あの、すました顔で天嶺さんをあしらってる美咲さんが、そんなこと考えてたの……!?

 少し恥ずかしそうに、拗ねたような表情で話している美咲さんを見て、私の胸はぎゅーっと締め付けられるように痛くなった。

 なんかもう、今すぐ美咲さんを抱きしめたいくらい!


「あの、美咲さん、今の話、絶対天嶺さんに言うべきですよ!」


「え? トモに?」


 驚いた表情の美咲さんに、私は畳みかけるように言った。


「うん、絶対! この話聞いたら、天嶺さん、めちゃくちゃ喜びますよ! 今までよりいっそう美咲さんのこと大好きになるはず! きっと美咲さんのために、もっといい彼氏になろうってきっと思います!」


「ええー……でもこんなん言ったら、あいつ絶対調子に乗るし……」


「調子に乗ってもいいじゃないですか! 好きな人が自分の言葉で幸せになってくれるねんから、それよりいいことなんてないでしょ? 私も美咲さんが今の話伝えて、天嶺さんが喜んで、二人が今よりもっと仲良くなってくれたらうれしい。そしたら美咲さんも更に幸せになるんやって思うから」


 私がすごく熱く語っているので、美咲さんは戸惑っていたけれど、少し考えるようなそぶりを見せたあと、ふっと表情を緩めた。


「……そうやなあ、そしたら、たまにはトモを調子に乗らせてやってもええかな?」


「絶対いいと思います!」


「あは、紗羽ちゃん、ありがとね。そしたらトモに話してみる」


 美咲さんは今日一番の極上の笑顔を見せた。

 そのまま更衣室を出ようとして、ふと足を止め、私を振り返った。


「ね、紗羽ちゃん」


「はい?」


「こないだ、紗羽ちゃんと佐久間くんと私で帰ってる時、トモが私のこと迎えに来てたやろ? その時私、トモに駆け寄って抱きついたん、覚えてる?」


 あ、あの衝撃的なラブシーン……! もちろん忘れるはずがない。

 私はこくり、とうなずいた。


「あれね、普段は私、あんまり外でトモにべたべたしたりせんねんで? でもあの時ね、紗羽ちゃんと佐久間くんが、お互い恥ずかしがりながら名前で呼び合ってるん見て……なんかたまらん気持ちになってんよね。初々しいっていうか、恋が始まる手前みたいな、くすぐったくてじっとしておれんようなときめきを思い出してん。そしたら、トモといちゃいちゃしたくてたまらんくなったの! だから人目があるのに抱きついちゃった。びっくりさせたんやったらごめんね?」


「え……え、あの」


「私とトモは、そんな名前を呼びあうだけで照れてはにかんで、みたいなのすっとばしてもたから、めっちゃいいなー! って思ってん。あ、別に紗羽ちゃんたちにどうにかなれって言ってるわけちゃうからね? ただそういう気持ちがじわって心の中に広がっていく状況を、しっかり味わって楽しまんとねって思ってん。だから紗羽ちゃんも頑張ってね」


 美咲さんは私の頭をよしよし、となでてから更衣室を出て行った。





 ……私は、呆然として美咲さんが去っていったドアを見つめていた。

 え? え、美咲さん、勘違いしてる……?

 私と凪くんが?

 違うし。私と彼は、全然そんなんじゃないのに。

 ……でも、私の中にはある考えが浮かんでいた。

 私にとって恋は憧れで、どんなものなのか実際には知らないけれど、こんな風だったらいいなって思っている理想像があって……

 私はそれを一ノ瀬さんに重ね合わせていた。

 穏やかで優しくてあたたかい人。二人でたくさん話をして、お互いを分かりあって、一緒にいると安心する。自分を理解してくれる人といる幸せ。

 一ノ瀬さんは、そういう恋愛をしているんだろうなと思っていた。

 だから、彼女がいる一ノ瀬さんのことを、私は安心して好きでいられた。

 一ノ瀬さんはきっと揺るがない。浮気とか絶対しないし、彼女とも信頼しあっているから、相手を疑うこともない。

 それが理想の恋愛の姿なんだと思っていた。

 もう一人の私の理想の人、美咲さん。

 美咲さんの恋愛は、私が想像していたものとはまったく違っていた。

 美咲さんも、年上の人と安定した恋愛をしているのだと思っていたのに……

 でも実際は、美咲さんも天嶺さんも、自分の本音をぶつけ合っている。相手の考えていることが分からなくて、ぶつけられても理解できなくて、文句を言ったり不満を言ったりしている。

 それなのに二人の結びつきはものすごく強固に見えた。

 美咲さんの恋愛は私の想像の範疇を越えているので、恋愛は実はこういうものなんだ、と言われても、自分に同じような恋ができるとは思えない。

 でも、美咲さんの恋愛から、激しさを取り除いてみたら……

 そうしたら、実は私と凪くんの関係と似ているのかも? とほんの少し思ってしまった。

 お互いに、お互いのことを知らない。考え方や思っていることを知らない。でも相手の話を聞いて、おもしろいなあ、と思って受け入れている。

 もしかして……何も話さなくても分かりあえる相手といることだけが恋じゃないのかもしれない。

 えええー、何これ!?

 私はずっと一ノ瀬さんに恋をしているんだと思っていたのに……!

 もしかしたらそれは恋とは違うものだったのかもしれない。

 いや、違わないのかもしれないけど。

 でも恋の形はきっとそれだけじゃないんだ。





 私はふらつきながら更衣室を出て、kamome caféを出た。

 すると、カフェの前に凪くんが立っていた。


「あ、紗羽さん、おつかれさまです」


 壁にもたれて携帯を見ていた凪くんは、私を見て体を起こした。

 いつもの高校の制服姿。私とは違う高校の、男の子。


「お、おつかれさま。どうしたん?」


「紗羽さんを待ってたんです」


「……え!?」


 私はこれ以上無理だってくらい目を見開いた。

 どういうこと!?


「え、えっと、なんで」


「あー、これなんですけど」


 凪くんが手に持っている携帯を私の方に差し出す。


「……なに?」


「このクリーパーのぬいぐるみと、ゴジラのフィギュア、どっちがいいと思います?」


「へ?」


「弟の誕生日、もうすぐなんですよね。弟がクリーパーもゴジラもどっちも好きなんで、プレゼントをどっちにしようか悩んでて」


 驚きすぎて天井まで飛び出しそうだった心臓が、急にしゅん、と落ち着いた。

 何だよそれ……


「ええー、それ、なんで私に聞くの……私、そのキャラのことなんてなんも知らんのに……」


「うーん、他の人に聞いても全然いいんですけど、紗羽さんが茶化したりしないで一番ちゃんと考えてくれそうやなって思ったんで」


 うぐ。

 だからなんでそういうこと言う……!

 落ち着いたと思った心臓がまたドキドキしだした。

 どうしてそんな風に、簡単に私のこと信頼してるようなこと言うかなあ。

 何だかそんなの……うれしくなっちゃうじゃないか……

 あーもう、分かんないや。

 これって、私って気が多いってことなの?

 一ノ瀬さんのことが好きなはずなのに、凪くんに対してもドキドキしてしまうのは……

 違うって、ありえないって、って思えば思うほど意識してしまう。

 まさか、これももしかして……恋なの?

 え? どっちが本当?

 一ノ瀬さんのことを思って、あったかい気持ちになって、いいなあって焦がれる気持ち。

 佐久間くんと話していて、何だか落ち着かなくてそわそわして、でももっと話していたいなあって思ってしまう気持ち。

 どっちの気持ちが恋なの?


ここまで読んでいただきありがとうございます!

第一章はここまでとなります。

紗羽の気持ちが分からなくなったところで終了なの? って感じですが……

それはまたのちほど、ということにしまして。


次回からは、第二章として、美咲とトモの出会いの話を書いていこうと思います。

反発している二人が、どんな風に心を寄せ合うようになっていったのか、見に来ていただけたら嬉しいです。

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