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昼下がりのkamome café  作者: はる
kamome caféの紗羽
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10/42

先輩の恋人

 kamome caféのカウンター席で、天嶺さんと制服姿の凪くんが話し込んでいた。


「で、どこをやってんて?」


「膝と腰です。医者には使い過ぎって言われて……。でも大会が近かったから、あんまり休むわけにもいかんくて。そしたらぶっ壊れてしまいました」


「あー、まあ焦る気持ちも分かるけどな。でも治りきらんまま見切り発車はなあ。結局選手生命縮めてまうもんな」


 凪くんは、今日はバイトの日じゃない。

 でも天嶺さんにいろいろ話が聞きたい、ということで、美咲さんに頼んで天嶺さんにカフェに来てもらい、二人はカウンター席に座って楽しそうに話していた。


「変やの。あんなにトレーニングの話ばっかりしとっておもしろいんかな?」


 美咲さんがそんな二人の姿を見て、あきれたように言う。


「二人ともスポーツがっつりやってる人たちやから、その辺はまあ……男の人同士で分かりあえるところもあるんかもしれないですね。と言っても、たぶん凪くんが天嶺さんに教えてもらうことばっかりでしょうけど」


 凪くんはどうしても天嶺さんに体作り? トレーニング? のことを聞きたくて仕方ないみたいだった。

 あんなに避けていた美咲さんにお願いして、天嶺さんと話す機会を作ってもらうくらい!

 陸上はやめちゃったって言ってたけど、またやりたいのかなあ……

 部活をするようになったら、きっとバイトは辞めちゃうよね。本気で運動部で練習してたら、バイトなんてしてる暇ないもんね……

 いやいや、そんなこと今考えても仕方ないし! 私は首をぶんぶん、と横に振った。


「紗羽ちゃん? どうかした?」


「あ、いえ! えーと、美咲さんはどこで天嶺さんと出会ったんですか? 美咲さんもバレーボールやってたんですか?」


 天嶺さんはプロのバレー選手だから。二人がどこで出会って、どうやって付き合うようになったのか……めちゃくちゃ知りたすぎる! 年上のお姉さんの恋の話なんて、知りたくない人間がいるわけがない!

 私の言葉を聞いて、美咲さんはくすっと笑った。


「えー? まさか。私運動全然できんもん。ジョギングどころかウォーキングすらせんし」


「え……それやったら、どうやって」


「単純に、住んでるマンションが一緒やってん。同じ建物に住んでたら、たまに入り口とかで会ったりするやん?」


「それは……そうかもしれないですけど。でもそれで付き合ったりとか……?」


 私だってご近所さんと、登下校の時とか道で顔を合わせることはあるけど……それで付き合うことに発展することなんてある? まず考えられない!


「ほんまに最初は偶然顔を合わせるくらいやってんけどね。そのうち、ちょっと私がトラブルに遭ったりしたときに、たまたま居合わせたトモが助けてくれたりして。それでお互い認識するようになったって感じかなあ」


「トラブル?」


「んー、まあほら、いろいろあるやん? 付きまとわれたりとか……」


「え、ストーカーってことですか?」


 ちょっと背筋が冷える。

 でも不思議はないか……。美咲さんほどきれいな人だったら、きっといろんな男の人が寄ってきちゃったりするんだろう。好きじゃない人とか、全然知らない人からでも好意を寄せられて、押しかけられたりとか……


「ほんまにね、たまたまトモが居合わせて。その時トモは怪我しとって、トレーニングはしとったけど試合に出られるわけちゃうから、普段より時間があって、それで私のこといろいろ助けてくれるようになってん」


「ええー、なにそれ、ドラマチック……!」


 美咲さんは誰がどう見ても絶世の美女だし、天嶺さんも最初芸能人かな? って思うくらい、かっこよくてオーラがある人だし、そんな二人が出会っちゃったら、そりゃあ恋に落ちて当然だ。

 美咲さんは当時のことを思い出したのか、おかしそうに笑った。


「ドラマチックかあ。そうでもなかったけどね? なんせ、その頃のトモって、めっちゃ偉そうでムカつくやつやったから」


「そうなんですか?」


「うん! あいつ、あの見た目やし、若い頃からめっちゃバレーで注目されとって、高校の頃から日本代表に抜擢されたりしとったから、アホみたいにもてとってさ。そりゃもう天狗になっとってねー。女は自分に惚れて当たり前くらいに思っとったんちゃうかな。私はそういう思い上がった男大っ嫌いやったから、めちゃくちゃトモのこと見下して馬鹿にしとったけど」


「え、ええ!?」


 なんか激しいな!

 でも、美咲さんもめちゃくちゃきれいな人だから、男の人に好かれて当然みたいな感じでそれまで来てただろうから……二人とも同じように思ってたってことなのかなあ。


「私がめっちゃトモのこと冷たくあしらっとったら、トモは当然ムカつくし怒っとったけど、それでも私のこと気になってしまってほっとかれへんねんなっていうんがもうめっちゃ分かってね。文句言いながらも常に私にかまってくるから、いい加減私もトモのこと、かわいいなって思ってまうようになってんよね」


「な、なるほど……」


 それで恋に発展する……という過程が全然私には想像できないけど。

 そういう感じなのかあ……

 そんな始まり方、この二人にしかできなさそうというか……私が参考にするにはレベルが高すぎる話だった。


「でも、今は美咲さんも天嶺さんのこと、大好きなんですよね?」


 私がそう言うと、美咲さんは指先で唇を押さえて、幸せそうに笑った。

 そのしぐさがあまりにもかわいらしくて、私は悶絶しそうになった。


「よし、ボウズ! 一回俺の試合見に来い! チケットくらいいくらでもくれてやる! 美咲とかこの店のやつ、誰でも連れてきてええからまとめて見に来たらええ!」


「マジですか?」


「当然や! 男に二言はないからな! なあ美咲?」


 カウンター席から、天嶺さんが体をのけぞらせて美咲さんを見た。

 美咲さんは肩をすくめてあっさりと天嶺さんに応える。


「私は別に興味ないし、佐久間くんは好きに誰か誘って見に行ったらええよ」


 美咲さんの言葉に私は驚いてえ! と声を上げた。

 天嶺さんも不満そうに口をとがらせる。


「なんやねん美咲、一回くらい俺の試合見に来いや! 絶対お前、俺に惚れ直すから! バッキバキに活躍しとる俺を見ろや!」


「え、美咲さん、天嶺さんの試合、見に行ったことないんですか?」


 私たちの視線を受けた美咲さんは、いつもと変わらない天使のような微笑みを見せた。


「私、バレー興味ないもん。私が興味あるんはトモ本人だけやし。それやったらあかんの?」


 その言葉は確実に天嶺さんを射抜いたようだった。

 天嶺さんはぐ、と姿勢を正し、美咲さんを凝視した。


「あかんわけあるか! お前が俺にベタ惚れなん、知っとるからな! でも活躍しとる俺やって見てもええと思うけど……でもこの生身の俺と向き合いたいお前の気持ちはちゃんと受け止めるからな!」


「うん、そうやね。いっつもトモが私の気持ちを受け止めてくれるから、安心してる」


 天嶺さんはがば、と自分の顔を両手で覆った。


「あーもう無理……美咲、お前もうバイト休まへん? さっさと俺と一緒に帰ろう?」


「なに言うてんの? 私はトモからバレーを取り上げてへんのに、トモは私から仕事を取り上げるん? そんな心の狭い人やとは思ってへんかったなあ」


「アホか! 俺の心は宇宙より広いんじゃ! お前が二十四時間仕事したって俺はお前を待っとるからな!」


 美咲さんが何を言っても天嶺さんは激しく言い返して、そしてそれをやんわりと毒と愛の言葉で打ち返す美咲さん。

 す、すごい……

 キッチンから一ノ瀬さんがちょこっとカウンターの方に顔を出した。


「はー、すごいな。美咲ちゃん、魔性すぎるやろ……」


「それ、一言一句同意します……」


 めちゃくちゃ激しいけど、でもお互いすごく好きなんだなあ……というのは伝わってきた。

 ほんとにこの二人、特殊すぎじゃない!?


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