4 『とりま、やってみよ』
「スッパシーを用意しました」
アルトの前に、五個の黄色い果物が並べられた。
厨房から持ってきてもらったものだ。
手のひらほどの大きさで、丸く、皮は黄色い。
『何個?』
スマホから美羽の声が聞こえる。
「とりあえず五個です」
『ちょうどいいじゃん』
『美羽、このサイトも五個使ってるよ』
『マジ? じゃあ、そのまま真似しよ』
どうやら二人は、先ほどから何かを調べているらしい。
「なぜ五個なのですか?」
『ネットでレモン使ってスマホ充電してる人がいるの』
『レモン五個つないでる』
「ネット……?
レモン……?」
またアルトの頭で、はてなマークが行進を始めるが、とりあえず無視する。
『うん』
『そっちにはないんでしょ?』
「レモンというものは存じませんので、似たものをご用意しました。
説明を聞く限り、このスッパシーが近いかと」
『じゃ、それでやってみよ』
『やってみよー』
相変わらず軽い。
アルトは目の前のスッパシーを見た。
「それで、これをどうすれば?」
『ちょっと待って。えーっと……』
美羽の声が途切れる。
『銅と亜鉛を刺すんだって』
「銅と……アエン?」
『うん。亜鉛』
「アエンとは何でしょうか」
『…………』
沈黙。
『瑠奈、亜鉛って何?』
『知らん』
『ウチも』
「…………」
『アルト君、そっちに金属って何があるの?』
「金属ですか?」
『うん。なんでもいいから』
「銅、鉄、金、銀、鉛などでしたら」
『めっちゃあるじゃん』
『金とか使う?』
『いや、もったいなくね?』
『銀も高そう』
『鉄でできないかな』
また声が途切れた。
『あ、できるっぽい』
『銅と鉄でも電池になるって』
『じゃ、それでいこう』
「よろしいのですか?」
『とりま、やってみよ』
それでいいのだろうか。
アルトには分からなかった。
とはいえ、銅と鉄ならすぐに用意できる。
銅貨と鉄釘を五個ずつ。
アルトは美羽たちに言われるまま、スッパシー一個につき、銅貨と鉄釘を一本ずつ刺していった。
『銅と鉄、くっつけちゃダメだって』
「離して刺しています」
『オッケー。じゃあ次、線でつなぐ』
「どことどこを?」
『えーっと……』
沈黙。
『美羽、これ直列?』
『直列じゃない?』
『並列って書いてあるとこもあるけど』
『直列と並列ってどっちがどっちだっけ?』
『知らん』
『ウチも』
「…………」
アルトは少しずつ、この二人に慣れてきた気がした。
『あ、これだ。まず五個をつなぐんだって』
「どのように?」
『一個目の銅を二個目の鉄につないで、二個目の銅を三個目の鉄にして……』
『それ直列だって』
『じゃあ直列で』
アルトは言われた通りに金属線をつないだ。
五個のスッパシーが、一列に結ばれる。
「できました」
『じゃ、スマホにつないでみて』
「はい」
用意した線をスマホにつなぐ。
アルトは画面を見つめた。
『どう?』
「……何も起きません」
『えー?』
『この人、五個でやってんじゃん』
『スッパシーだからかな』
『レモンじゃないもんね』
しばらく二人で相談している。
やがて、美羽が言った。
『いやいや、これ足りないんじゃね?
この人、結局レモンがたくさんいるからやめてるっぽい』
『……ほんとだね。スッパシーたくさんいるっぽ』
「では、増やしますか?」
『増やそ』
『増やそー』
スッパシーが追加された。
十個。
二十個。
五十個。
五個ずつ一組にして、同じものをいくつも作っていく。
途中で美羽が声を上げた。
『あ、待って。これ違うかも』
アルトの手が止まる。
「何がでしょう」
『五個つないだやつを一セットにして、それを横につなげばって書いてある』
「一セット」
『うん。それを何個も作って』
「はい」
『横につなぐ』
「横?」
『並列だって』
『そうそう、並列』
「並列とは?」
『…………』
『五個縦に繋いだやつを一組にしてぇ、その一組の頭を別の一組の頭、お尻をお尻につないでいく?
わかる?』
「なんとなく。そろばんみたいな感じですか?」
『そろばん! そろばんあるのか。笑うし。
うーん、たぶん、そんな感じでよさげ』
本当によいのか、アルトはいささか自信がなかった。
だが、やるしかない。
五個一組。
同じものをいくつも作る。
それをまとめてつなぐ。
頭と頭。
お尻とお尻。
構造さえ分かれば、あとは早かった。
王城の職人たちが呼ばれた。
一組を見本として渡す。
「これと同じものを作ればよいのだな?」
「はい」
「いくつだ?」
「……いっぱいです」
「いっぱい?」
「私にも分かりません」
職人は怪訝そうな顔をした。
それでも作業は始まった。
スッパシーに銅貨を刺す。
鉄釘を刺す。
線をつなぐ。
五個一組。
また五個一組。
さらに五個一組。
やがて厨房にあったスッパシーがなくなった。
「全部使いました」
アルトはスマホをつないだ。
『どう?』
「何も起きません」
『じゃあ、もっと』
「もっとですか」
『うん』
アルトは国王に報告した。
「スッパシーを、さらに集める必要があります」
「どれほどだ?」
「……いっぱいです」
「いっぱい」
「はい」
国王は眉間を押さえた。
「確認するが」
「はい」
「そのスマホというものが動かなくなれば、異世界におられる美羽殿たちとの連絡も絶えるのだな?」
「はい」
国王は少し考えた。
「ならば集めよ」
「よろしいのですか?」
「異世界との唯一の連絡手段なのであろう。失うわけにはいかぬ」
国王は立ち上がった。
「王都中からスッパシーを集めよ。足りなければ近隣の村からもだ」
「はっ!」
◇
「今、王都中のスッパシーを集めています。少し時間がかかります」
『どんだけかかるの?』
「半日、いえ、近隣の村からのものは一日ぐらいかかるかと」
『……電池、持たないねぇ』
スマホから聞こえてくる美羽の声に、アルトの背筋を冷たいものが走った。
このスマホが動かなくなれば、希望はついえてしまう。
『いったん切ろうか、アルト君』
「切る?」
『電池持たないから、いったん切るの』
「駄目です! そんなことをすれば、私たちはどうすればいいのですか!」
『えっと、一日待って、またこっちから電話する。このくらいの時間』
「……しかし、もう二度とつながらないかもしれないじゃないですか」
『どっちにしても、このままだと電池切れで終わりじゃん。
大丈夫。こっちからまた電話するから。明日のこのくらいの時間ね。
待ってね。じゃあ、切るよ』
「ああ、待ってください、まだ心の準備が!」
アルトは叫んだが、美羽からの返事はなかった。
呆然と、沈黙してしまったスマホを見つめる。
「……本当に大丈夫なのだろうか……」
不安しかなかった。
ふと、アルトの目がヒグモンの目と合った。
――だいじょうクマー。美羽を信じるクマー。
ヒグモンが、そう言ったように思えた。
――語尾の「クマー」とはいったい何なのだろう。
少しだけ気になった。
「……そうですね」
アルトはヒグモンを持ち上げた。
「美羽殿を信じましょう」
当然、ヒグモンは何も答えない。
アルトはヒグモンをスマホの隣に置いた。
「それまでに、やれることをやります」
まずは、スッパシーだ。




