↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/14

第4章 敗者の疑念1

 訓練場を離れても、背中に集まる視線は減らなかった。渡り廊下へ入れば、先を歩いていた生徒達が左右へ寄る。昨日の祝賀会でも同じように道を空けられたけれど、あの時とは目の色が違った。今は私を避ける者より、お兄様の手元や腰の剣を盗み見る者の方が多い。


「三年最強を、あんなに簡単に……」

「魔力量は平均だったはずだろう。いや、魔力量で勝ったのではない、技術だ」

「技量を、今まで隠していたのか?」


 囁きは石壁に反射し、聞きたくなくても耳に入った。


 お兄様は歩調を変えない。私より半歩前を歩きながら、廊下の角や開いた窓へ目を配っている。決闘の後とは思えないほど呼吸も静かだった。


「お兄様。先ほどの魔力は、本当に水だけだったのですよね」


 声を落として尋ねる。


「もちろん。霧と水の帯を作った。あとは身体の使い方だけだ」

「本当に、それだけでレオポルド様を倒せる方が、ほかにいらっしゃると思いますか」


 お兄様は平然と答えた。


「同じだけ鍛えれば、理屈の上では誰にでもできるよ」


 理屈の上では。


 それは嘘ではない。霧で視界を遮ることも、水で手首を拘束することも、足と肩を押して重心を崩すことも、学園で教わる技術の範囲に入る。だが、学園最強の剣士が振り下ろす重い一撃へ踏み込み、その全てを続けて成功させるところまで「誰にでもできる」で済ませるのは、さすがに無理がある。


 もっとも、お兄様は決して分かりやすい嘘をつかない。本当のことを、必要な分だけ答えるのだ。


「ハワード先輩も、同じことを考えるでしょうか」

「どうだろう。負けた直後は、自分の技量の方が気になるものだよ」


 その答えを最後に、私達は一年生と二年生の教室へ分かれた。扉を開けると、教室にいた生徒達の会話が一斉に止まった。

 昨日は、私が入っただけで席を離れた者もいた。今朝は全員がこちらを見ているものの、声をかけてくる者はいない。


 私は背筋を伸ばし、自分の席へ向かった。

 今日示されたのは、私への信頼ではなく、お兄様が強いという事実だけだ。それを自分の名誉まで戻ったように勘違いしてはいけない。


 椅子を引き、バッグから教科書とペンを出す。

 授業開始の鐘が鳴った。


2026年08月30日 20時00分 次話アップロード予定。

星で評価頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。