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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第二部 竜姫の報復

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第20章 竜帝国最強戦士2

 翌朝、アーサーは学園の外縁に広がる森で、遠くから近づく魔力を探っていた。

 朝から警戒していたため、察知することができた。そして、先回りしてここへ来たのだ。昨夜、アグネスから届いた手紙も読んでいたおかげだ。自分を殺すよう命じたのは、やはりリゼリアだった。

 授業は始まっており、森の中に他の人影はない。

 やがて、竜人の男が姿を現した。背が高く、肩幅の広いがっしりした体格で、濃紺の上着を身に着けている。灰白色の髪は短く刈られ、額の左右には後方へ反る太い黒い角が二本あった。耳の先も鋭く尖っている。

 男は淡い青の瞳でアーサーを見据えると、迷わず近づいてきて、少し離れて止まった。


「先に出迎えてくれるとは助かる。無駄な殺生は控えろとのことだからな」

「一人で来てくれるとは、こちらも同じく助かる」

「アイスドラゴンのグレイだ。アーサー・ヴァレンティス、決闘を申し込む」

「隠しもしないとは、潔いな。その姿では隠す意味も無いだろうが」


 名乗る時に見えた上の犬歯も、人間のものより長く尖っていた。

 グレイと名乗った男は、昨夜リゼリアの命令を受けて動き出した竜人の一人と見てよいだろう。ここまで来る間に感じていた魔力より、数倍の圧を感じる。

 アーサーは道に出た。グレイも道の中央へ退き、向き合う二人の間に遮る物はなくなった。


「申し込みを受けよう」

「王太子殿、この身の程知らずな願い、聞き入れてくれたこと……感謝する。いざ、尋常に勝負!」


 できるなら、生かして捕らえたい。残る四人の行方も聞ける。

 アーサーはグレイの足元へ水を走らせた。ウォーター・プリズン。水の帯で手足を包み、相手を傷つけずに動きを封じる魔法だ。まず両脚を止め、それから腕を拘束するつもりだった。


「ブリザード」


 グレイの周囲に白い氷雪が舞った。

 水の帯は足首へ巻きつく直前に凍り、石畳へ落ちた。グレイはそれを踏み砕き、アーサーへ進んでくる。水と風系統の上位複合魔法だ。アーサーの放った水を、動かす間も与えず凍らせてしまった。

 出力を上げれば、学園ごと吹き飛ばす事も出来る。


 アーサーは左右からもう二本の水帯を伸ばした。今度は速さを上げ、両腕を同時に狙う。

 グレイは振り向きもしなかった。帯は肘へ届く前に白く濁り、硬い音を立てて折れた。氷雪はそのままアーサーへ吹きつけ、制服の襟にも霜がつく。


「その程度か」


 アーサーは答えず、水流を正面からぶつけた。先ほどとは比べ物にならない高出力で、相手を押し倒すための水圧をかける。だが、水はグレイの前で分厚い氷となり、後から続いた分まで凍りつき、砕け散る。


「アイスブランド」


 グレイが氷の横を抜けて踏み込んだ。手には、氷で出来た剣が握られている。アーサーが差し出された剣を避けて懐へ入ろうとすると、相手はすぐに肘を曲げ、喉を狙って突き出してくる。

 半歩退いてかわしたが、追ってくるグレイとの距離はほとんど開かなかった。冷気を浴びた頬に霜がつき痛む。腕を掴んで投げるには、この氷雪の中へさらに入らなければならない。


 魔法の出力だけではない。踏み込みも、こちらの動きに合わせる速さも、先ほどの水帯を防いだ反応も、これまで学園で相手にした者とは違う。

 アーサーは斜めに退きながら水の防壁を張った。渦を作って攻撃を逸らすはずの水流まで、すぐに凍結する。グレイは拳でそれを砕き、砕けた氷ごとこちらへ飛ばしてきた。

 アーサーは顔を庇って飛び退いた。袖が裂け、腕に痛みが走る。布の下を伝う温かさで、切れたのだと分かった。


「そんな程度ではあるまい。本気を出せ!」

「……」


 グレイは攻撃を緩めず、再び距離を詰める。その前から吹きつける氷雪に、水の防壁を重ねても凍らされるだけだ。

 アーサーは異空間を開き、白銀の細身の剣を掴んだ。自ら作った聖剣ソードウルフ。蓄えた魔力で複数の術式を自動展開し、全ての属性の魔法を使える剣だった。

 剣に当たった氷が砕ける。アーサーは氷を打ち返すが、グレイは退かなかった。むしろ一歩深く踏み込み、至近距離から、さらに氷結の魔力を叩きつけてくる。周囲に白い霜が広がった。


 このままでは、こちらが殺される。学園の近くでは使いたくはなかったが、致し方ない。

 重力魔法には以前なら国王の許可が必要だった。だが、王太子となり実権を握った今はアーサー自身が使用を許可できるため、別に国王へ許しを求める必要はない。


 アーサーは、グレイの周囲にグラビトンをかけた。対象に加わる重力を増す魔法だ。まずは膝を折らせる強さで、踏み込みを止めようとする。

 グレイは上体を沈めながらも踏み止まった。歯を食いしばってアイスブランドを突き出し、なおも魔力を注ぎ込んでくる。伸びた剣が、アーサーの喉元へ迫った。

 少々身体を重くしただけでは、動きを止められない。まともな人間の体力ではなかった。この距離で生かしたまま取り押さえようとすれば、先に喉を貫かれる。

 アーサーはソードウルフでアイスブランドを払い落とすと同時に、グラビトンの出力を上げた。


 グレイの身体が石畳へ叩きつけられた。起き上がろうとした姿勢のまま押し潰され、氷雪が途絶える。

 二十メートルほどのクレーターの様な穴が出来、グレイはそこに倒れていた。

 アーサーは魔法を解き、剣を構えたまま近づいた。グレイは動かなかった。身を屈めて確かめても、呼吸も脈もない。

 殺さずに勝つつもりで始めた決闘は、相手の死で終わった。


 アーサーが呼ぶと、クララが木の後ろから現れた。


「クララ、後始末を頼む」

「はい、下校時間までには、全て修復しておきます」

「それと、新しい制服を頼む。このままでは、マチルダが心配する」

「了解いたしました」


 アーサーはソードウルフを異空間へ戻した。ポケットからハンカチを取り出し、腕の傷を押さえた。

 リゼリアを問い詰めれば、警戒して残る四人との連絡を絶つかもしれない。とりあえず、要人達には警戒するよう広く伝えたが、他の四人がどこにいて誰を狙うのかまでは正確に分からない。

 今はリゼリアに気づかせず、泳がせる必要がある。彼女が命じたと知っていることは、まだ本人に告げるわけにはいかない。

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