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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第16章 謀りましたね2

「それでは、みなさん異論はございませんね」


 アグネスの明るい声がした。

 アーサーが振り向くと、叔母は笑顔になっていた。先ほどまでの厳しい表情が嘘のようだ。

 誰も異論を唱えない。


「アグネス叔母様?」


 問いかけても、アグネスは微笑んでいるだけだった。

 ヘンリーが立ち上がった。アーサーは姿勢を正し、告げられる処分を待った。


「アーサー・アシュフォードは我が庶子であり、その事情からセドリックに預けていた。母親は某国の今は亡き姫であり、身分は申し分ない。彼を新しい王太子として迎える」


 アーサーはヘンリーを見つめた。

 何か返事をしなくてはならない。そう思っても、何と言えばいいのか分からなかった。


「……陛下。今、何とおっしゃいましたか」

「君を、新しい王太子として迎えると言ったのだ」

「いえ、その前です。私が、陛下の子だと?」

「これで身分に不足はなかろう」


 不足があるかどうかを聞いたのではない。

 ヘンリーは当たり前のことを告げるように言ったが、これは、明らかに、でっちあげだった。王の庶子も、某国の今は亡き姫も、その事情でセドリックに預けたという話も。王太子にするための出自の全て、嘘もいいところである。


 アーサーはセドリックを見た。

 もはや息子ではない。さっきは見捨てられたのかと思ったが、王の子として迎えられるのなら、確かにそういうことになる。


「父上は、このお話をご承知だったのですか」

「陛下に、異論はないと申し上げたとおりだ」


 それで済ませるつもりらしい。

 アーサーは次にガレスを見た。次の近衛騎士団長にはできない。王太子になるからだと言われれば、先ほどの言葉も分かる。

 なぜ自分だけが、処罰されると思って立っていたのだろう。


「叔母様。まさか、先日の……」

「男爵家では困ると言ったのは、あなたでしょう?」


 アグネスは楽しそうに答えた。

 言った。確かに、そう言った。

 マチルダが自分と結婚しても、男爵家の妻になるだけだ。王太子の婚約者だった頃の立場には戻らない。だから、叔母の求めるようにはできないと断ったのだ。

 それに対して、自分を王太子にしてしまうとは。


「だからといって、このようなことを」

「同じ家の兄妹だから困るとも言っていたわね」


 そちらまで言われて、アーサーは黙った。

 王の子として迎えられれば、アシュフォード家の兄という説明も変わる。叔母は、断るために挙げた理由を全て解決していた。

 自分は何も頼んでいない。むしろ、勝手なことをしないでほしいと伝えたはずだった。


 アーサーはヘンリーに向き直った。


「陛下、私は王太子となるつもりで処分を受けると申し上げたのではありません」

「どのような処分でも受ける覚悟だと言ったな。今更覆すことは出来ない。ここにいる全ての者が証人だ」

「それは、そういう意味では」


 言いかけて、アーサーは困り果てた。

 これでは抗議を続けるわけにもいかない。

 どうにか反論出来る者はいないのか。ヒューを見ても、叔父はアグネスの隣に立ったまま笑いをこらえながら黙っている。


 アグネスはヘンリーから順に、一同を見渡した。


「みなさんの口外出来ない秘密は、全部知ってるのよ。うちのアーサーをよろしくね」


 ヘンリーが苦笑した。リチャードも、ガレスも、セドリックも同じだった。ヒューに至るまで、誰も否定せずに苦笑いをしている。

 アーサーには、それぞれが何を思い浮かべたのか分からない。だが、叔母に向かって余計なことを言う者がいない理由は、よく分かった。

 ヴィクターとオズモンドまで苦笑しているのを見て、助けを求めるのは諦めた。


 リチャード公爵が言った。


「アーサー君、君は自分の力が大きすぎることに気がついた方がいい。誰も手綱を握れないのだ。もはや、君自身が国を導く責任がある」


「謀りましたね」


 アーサーは、頭を押さえた。

2026年09月20日は3話アップロード予定です。

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