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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第16章 謀りましたね1

 アグネスに呼び出されてから数日後、今度はヘンリーから呼び出しを受けた。

 王宮の一室へ入ったアーサーは、待っていた人々を見て足を止めた。


 ヘンリーのほかに、宰相のリチャード・ヨーク公爵と、父のセドリック・アシュフォード男爵がいる。近衛騎士団長のガレス・ヘイル、レオポルドの父であるヴィクター・ハワード侯爵、マーガレットの父であるオズモンド・ブラウン公爵も来ていた。

 先日の謁見で顔を合わせた者ばかりだが、今日は誰も話しかけてこない。

 それだけなら、まだよかった。


 ヒュー・アシュフォード子爵も来ていた。セドリックの弟で、アグネスの夫にあたる叔父だ。国の諜報を担うアシュフォード家の一員であり、アーサーにとっては、ここで顔を合わせるとは思っていなかった相手だった。

 その隣には、アグネスがいる。


 八人とも、怖い顔でこちらを睨んでいた。

 アーサーは叔母を見た。つい数日前、結婚の話をあれほど楽しそうにしていた人まで、今日は笑っていない。


「お呼びにより参りました」


 アーサーはヘンリーの前へ進み、一礼した。

 返ってきたのは、挨拶ではなかった。


「アーサー君、我が息子がああなったのは君の責任でもある。どうなるか当然分かっているな?」


 エドワードのことだ。

 竜帝国へ送られた王太子は、この部屋にはいない。マチルダとの婚約を解消し、マーガレットとの結婚も認められず、今は遠い国にいる。

 その処遇を決めたのはヘンリーだが、そこに至るまでに自分が何をしたか、アーサーはよく覚えていた。王太子のしたことを暴き、皆の前で敗北させた。父親としてのヘンリーの心情まで考えて行動したわけではない。

 喧嘩両成敗と、考えればアーサーにも重い罰が与えられることも十分に考えられる。


 今、ヘンリー国王の周りにいるのは、裏では勅命騎士の役目を持つ人間達ばかりだ。一度にかかられたら、アーサーでも簡単に勝つことは出来ない。メテオ・スウォームは、この国最強の攻撃用大規模儀式魔法だ。しかし、個人戦では多勢に無勢、皆が一癖も二癖もある実力者だった。


「はっ! どのような処分でも受ける覚悟です」


 アーサーは直立不動で答えた。

 マチルダを守るためにしたことを、今になって悔やむつもりはなかった。もう一度同じことが起これば、同じように妹を守る。

 処分があるというなら、言い訳はしない。


 ただ、セドリックだけでなく、ヒューとアグネスまで呼ばれているのが気になった。自分だけのことで済まないのだろうか。


「陛下。私のしたことについては、私が責任を負います。アシュフォード家には迷惑をかけたくありませんので、ご容赦を」

「そうか。覚悟はできているのだな」

「はい」


 ヘンリーは、まだ何を命じるか言わなかった。

 アーサーは待った。問いただすわけにもいかず、かといって、このまま家族まで叱責されるのを黙って聞くつもりもない。

 それを言おうとした時、リチャードが先に口を開いた。


「君を、我が娘の相手にと考えていたのだが残念だ」


 ヨーク公爵邸で食事に招かれた時にも、娘との縁談を持ちかけられた。あの時は、その後でアリスとダンスを踊ったが、結婚を承諾したわけではない。

 しかし、こう残念がられると、アーサーは、まるで死刑台に送られるような気がした。


「先日も、身に余るお話をいただきました」

「君なら、安心して任せられると思ったのだがね」


 リチャードは、そこで言葉を切った。

 アーサーは弁明を求められているのかと思ったが、宰相は返事を待つ様子もなく、ヘンリーを見た。

 娘の夫にできないような処分。そう考えかけて、アーサーはやめた。内容も聞かずに怯えていてどうする。

 だが、次にガレスが言ったことは、さらに決定的だった。


「アーサー君、私の次の近衛騎士団長は君しかいないと考えていたのだが……」


 近衛騎士団長であるガレスには、これまでにも教えを受けている。その後を任せたいとまで考えてくれていたことは、素直に嬉しかった。

 どうせなら、別の機会に聞きたかった。


「光栄です。ですが、私にはまだ学ぶことが多くございます」

「もう、学んでも近衛騎士団長にはなれないのだがな」


 過去のこととして言われてしまった。

 アーサーはガレスを見たまま、次の言葉を待った。もはや、騎士としての道も閉ざされるのか。

 命を捨てる覚悟をしたところで、ヘンリーがセドリックを呼んだ。


「セドリック、異論は無いな」

「ございません。この者は、もはや息子ではありません」


 アーサーは、思わずセドリックを見た。

 処分を受けるとは答えた。しかし、父からそんなふうに言われることまでは、覚悟していなかった。


「父上」


 セドリックは答えない。

 勘当ということだろうか。自分のために家全体が責められるよりはいい。覚悟を決めて死刑台に登るだけだ。

 ヒューも止めようとはしない。ヴィクターもオズモンドも、黙ったままでいる。


 アーサーは、せめて最後まで聞こうとヘンリーに向き直った。

 ただ、マチルダにはどう伝わるのだろう。

 妹に不名誉な最後になることを悔やんだ。

2026年09月19日 23時00分 次話アップロード予定。

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