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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第15章 責任を取ってもらいます2

「マチルダは、俺を兄として慕ってくれています。俺も、あいつの兄として一緒に暮らしてきました」

「仲の良いことね。それなら、これからも一緒にいてあげて」

「そういう意味で申し上げたのではありません」


 いつもなら、妹との仲を喜んでもらえるのは嬉しい。ところが今は、何と答えても結婚の話に繋げられてしまう。

 アーサーは少し考えてから、言葉を選び直した。


「同じ家の兄妹という立場で、結婚などできません。叔母様も、それはお分かりでしょう」

「そこは、私がうまくやっておきます。まかせておきなさい」


 アグネスは屈託なく笑った。

 その気軽さに、アーサーは思わず椅子に浅く座り直す。こういう話、彼女より頼りになる女性はいない。だが、勝手にうまくやられては困る。


「待ってください。俺は、まだ何も了承していません」

「あら。お兄様という立場が困るのでしょう? うまくやっておきますから」

「勝手なことをしないでください。俺がお願いしたことにされては困ります」


 アグネスに悪気があるとは思わない。マチルダを大切に思っていることも疑っていない。それでも、話しているうちに結婚を承諾したことになってはたまらない。

 アーサーが真剣に言うと、アグネスはしばらく彼の顔を見てから、楽しそうに声を弾ませた。


「本当に、そんなに困ることかしら。マチルダを大事にしてくれているのでしょう?」

「それは、当然です」

「ずっと?」

「ええ」

「だったら、随分話は簡単だと思うのだけれど」


 そこで言いよどめば、妹を大事にすることまで迷っているように聞こえてしまう。

 叔母が尋ねていることには、ためらわず答えられるのだ。その返事から先を、勝手に決められるのが困る。


「俺がマチルダを大事に思うことと、結婚することは別です」

「どう別なの?」


 アグネスは不思議そうに聞いてきた。

 アーサーは少しの間、黙り込んだ。妹を大切に思っていると、わざわざ説明する必要のない相手に、それをどう説明すればよいのか。

 マチルダが自分を頼れば応えたい。困っているなら助けたいし、悲しんでいる時に一人にはしたくない。けれど、それは今もしていることで、妹の夫になるなんてことを考えたのは初めてだ。


「兄としてできることは、これからもするつもりです。だからといって、急に結婚しろと言われましても」

「急に思えるのは、あなたが今まで考えていなかったからでしょう。すぐに考えてちょうだい」


 急だと抗議したはずが、かえって返事を求められてしまった。

 アーサーは一度、息を吐く。相手が叔母でなければ、ここまで遠慮はしない。だが、娘のために話しているアグネスへ、これ以上強い言葉を返したくはなかった。


「マチルダのこれからを、俺だけで決めるわけにはいきません」

「あなたの話です。その後、あなたがプロポーズするのです」

「ですから、お受けできないと」

「男なら覚悟を決めなさい」


 アグネスはきっぱりと言い切った。

 アーサーが断ったことより、まだ覚悟が足りないことの方を問題にしているらしい。少なくとも、これで話を終えてくれそうな様子はなかった。


「あの子が今まで頑張ってきたことは、あなたもよく知っているでしょう。もう一度言いますが、あなたが責任を取りなさい」


 叔母は明るく言う。アーサーは困りながらも、その言葉を聞き流せなかった。

 マチルダが重い責任を負わされてきたことは、誰よりも知っている。妹を守るためなら、できることは何でもするつもりだった。だが、叔母が最初に言ったことと、今勧めていることは、本当に結び付くのだろうか。


 アーサーは姿勢を正し、アグネスを見た。


「叔母様は、マチルダの立場を完全に回復するとおっしゃいましたね」

「ええ。もちろんよ」

「それなら、俺と結婚しても目的は果たせません」


 アグネスは返事をせず、続きを待っていた。

 今度は途中で話を変えられる前に、最後まで伝えなくてはならない。


「俺は、表向きは男爵家の人間です。マチルダが俺と結婚しても、男爵家の妻になるだけです。王太子の婚約者だった頃の立場には戻りません」


 裏では侯爵待遇だろうと、人前ではアシュフォード男爵家の嫡男だ。それを理由に妹を王太子妃と同じように扱えと求めることはできない。金はともかく、社交界で目立っては職務に支障が出る。

 マチルダが将来の王妃となるために重ねた努力も、自分が夫となれば、そのまま報われるというものではなかった。


「あいつを守ることはできます。ですが、叔母様が求めている立場を、俺との結婚で与えることはできません。それでは責任を取ったことになりません」


 アーサーは言い終えて、叔母の返事を待った。

 結婚させれば済む話ではない。それだけは、分かってもらいたかった。


「だから、あなたには責任を取ってもらうと言ったでしょう」


 アグネスは、にっこりと笑った。

2026年09月19日 21時00分 次話アップロード予定。

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