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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第11章 学園襲撃5

 アーサーは門の外で、強力な魔力の方へ向かう。ほかの団員とは明らかに違う。

 彼には、ほとんど持っている者がいない特殊な魔力探知能力があった。魔法に頼らず、敵の場所や魔力の強さを探知出来る。


 窓のそばでこの魔力を察した時には、一人で外へ出るつもりだった。ところが、先にジュリアンが敵の配置を告げた。あれほど正確に音波を読めるとは、見事なものだ。

 すでに他の三人は迎撃へ向かっている。彼等なら苦戦はしない相手というのは魔力の大きさから分かっていた。

 自分は、こちらを片づければいい。


 建物の陰に、左頬に傷のある男と、その両脇に剣を持った団員がいた。アーサーが近づくと、傷の男が顎でこちらを指す。


「奴だ。片づけろ」


 随行の二人が左右から迫った。アーサーは足裏から短く水を噴き、滑るように移動して片方の剣が届く前に懐へ入った。手首を押し上げながら腹へ掌を打ち込み、屈んだ男の足を払う。

 背後から来た剣には、水流を斜めに当てた。刃が脇へ逸れたところで振り向き、男の肘を取り、地面へ投げ倒す。先に倒した男が起き上がる前に水の帯を伸ばし、両方の手足を縛った。

 落ちた剣を遠くへ水流で飛ばし、団員も拘束したまま脇に転がす。


「ギデオン・ヴァルガですね」


 傷の男に向き直って言った。


「俺を知ってるのか」

「剣を捨ててください」

「アシュフォードの兄か。そっちから来るとは好都合だ」


 ギデオンが剣を構えた。アーサーは素手のまま前に出る。

 後ろには学園がある。あまり、派手なことは出来ない。見られる可能性を考えれば、使えるのは水魔法と、いつも通り制限した魔力だけだ。

 ギデオンが片足を踏み込んだ瞬間、アーサーは横へ水を噴射して跳んだ。直前まで立っていた土が盛り上がり、爆発する。

 地中で土の魔力を爆発させるグランド・デトネーション。陣地ごと人を吹き飛ばす軍用魔法を、男はためらわず使っていた。


「そんな魔力で俺に勝てるか!」


 飛んだ先へギデオンが斬り込む。アーサーは渦巻く水流を出し、刃を外へ流そうとした。

 だが、男は剣を押し込まず、引いて横から斬りつけた。水流を避けて脇を狙っている。

 アーサーは肘から短く水を噴射し、体をひねった。剣が上着の前を通過する。すれ違いざまに手首を掴もうと狙ったが、男は柄を引き寄せ、肘で打ち返してきた。

 アーサーはその肘を左腕でいなし、腹へ掌を当てた。強い水流を出して吹き飛ばすと、ギデオンは数歩後退しながらも剣を離さなかった。


「学生の動きじゃねえな」


 男は吐き捨て、また地面へ魔力を走らせた。

 アーサーは足裏から水を噴射し、爆発する地面から移動する。着地を待たずに二発目が来る。前へ身を投げ、地面すれすれを水流で滑った。背後で土が噴き上がり、背中へ小石が当たる。

 そのまま男の足首へ水の帯を巻いたが、ギデオンは自分の周りの土を隆起させて小さく爆発させる。それで水の帯を破壊して逃れ、頭上から剣を振り下ろした。

 アーサーは片手を地面につき、水を噴射して後方へジャンプする。目の前で刃が土を叩く。

 魔力を抑えたまま足を狙っても、この相手には逃げられる。捕らえるより、まず剣をなんとかする必要があった。


「逃げてばかりか!」


 ギデオンが追ってくる。アーサーは今度は逃げず、手の前に小さい水塊を作った。突き出された剣の側面へ当て、ほんのわずかに方向を変える。

 切っ先が横を通ると同時に踏み込み、男の手首をつかむ。剣を持つ腕を外へ伸ばし、もう片方の肘で相手の肘を押した。

 男が力ずくで引き戻そうとする。アーサーはそこで逆に押し込み、足を払った。

 ギデオンは倒れながらも、膝を腹へ突き上げてきた。アーサーが体をずらした瞬間、剣を握る力がわずかに緩んだ今しかない。

 アーサーは水を柄へ集中させ、男の握りをほどくように押し広げた。抜けた剣を水流で弾き、離れたところへ飛ばす。

 武器を失ったギデオンは、倒れた姿勢のまま地面を叩く。そこに魔法陣が光った。

 アーサーは相手の上着をつかんで引き起こし、二人の足元へ水を噴いた。横へ飛んだ直後、さっきまでいた地面が爆発する。

 アーサーは男の体を放さず、飛んできた石のかけらを水流でふせぐ、それでも全ては止められず、制服越しに痛みが走る。


「自分まで巻き込む気ですか」

「お前が先に死ねばいい!」


 ギデオンが顔へ拳を振るう。アーサーは避けて腕を取り、背後へ抜けた。もう片方も取ろうとしたところで、男の姿が暗くかすんだ。

 息遣いも衣擦れも聞こえなくなる。姿と物音を隠す闇魔法、サイレント・ヴェールだ。逃走に使う術だと、アーサーは事前に聞いていた。

 だが、すでにつかんだ腕まで消えるわけではない。アーサーは片腕を握ったまま、魔力感知で相手の動きを読み、両腕をまとめて取り押さえる。

 男が暴れ、闇の向こうでまた土の魔力が膨らんだ。

 アーサーは足を払って横倒しにし、肘をギデオンの喉元に落とす。

 やがて闇が薄れ、男の姿が現れた。息を荒げ、頬を土に擦りつけている。


「まだ続けますか」


 ギデオンは答えず、最後にもう一度だけ暴れた。アーサーは、肘に体重をかけ、ギデオンを気絶させた。

 制服の膝は泥で汚れ、上着にも土がついていた。背中に当たった小石は痛んだが、動きを妨げるほどではない。

 アーサーは、門へ向いて警備員を呼んだ。

2026年09月12日 23時00分 次話アップロード予定。

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