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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第7章 王太子の名では消せない罪2

「レオポルド! 王太子派を抜けて、生徒会の犬になったか!」


 トリスタンが怒鳴った。取り巻き達も同意する。


「「「「三年最強も大したことはなかった。あんな男爵令息に負ける程度の男など、最初から必要なかったんだ!」」」」


 レオポルド様は取り巻きの一人の腕を捻り上げたまま、トリスタンを見もしない。


「主犯は任せる、アーサー」

「頼む、レオポルド」


 お兄様がトリスタンへ向き直った。


「トリスタン・クロウリー。マチルダへの付きまといと、アリスへの集団暴行の容疑で、現行犯逮捕する。抵抗をやめ、教師が来るまで大人しくしていろ」

「俺に命令するな。レオポルドを倒した程度で、自分が強いと思ったか?」

「彼は、お前に比べれば強い」

「男爵令息ごときが、大きな口を叩くな」


 トリスタンは拳を構えた。


「大人しく出来ないのであれば、力で制圧する」


 お兄様の言葉をさえぎり、先に踏み込んだのはトリスタンだった。


 顔を狙った拳を、お兄様はわずかに動いてかわす。二撃目を受け流し、手首を取った。トリスタンの体が回り、次の瞬間には床へ押さえられていた。


「離せ!」

「抵抗をやめろ」

「生意気な!」


 床へ押さえられたまま、トリスタンが空いた左手をお兄様へ向けた。

 赤い魔法陣が開く。


「お兄様!」


 火が一点へ集まり、矢の形に伸びた。鎧さえ焼き抜く殺傷魔法が、目の前にいるお兄様の胸を狙う。

 決闘ではない。訓練でもない。人へ放った時点で、校則違反では済まない犯罪だった。


 お兄様はトリスタンの手首を蹴り上げた。火の槍が天井へ逸れる。同時に水が広がり、燃え移る前に炎を包んで消した。


 熱い蒸気が回廊を覆う。

 白く曇った先で、お兄様はトリスタンの左腕を背中へ回していた。両手を完全に封じ、床へ押さえ直す。制服にも肌にも、焼かれた跡はない。


「今の魔法は、ここにいる全員が見ました」

「だから何だ!」

「殺傷魔法を人へ向けた。犯罪です」

「俺には王太子殿下がついている!」


 私の言葉を聞いて、頬を床へ押しつけられながらもトリスタンは笑った。


「すぐに無罪放免だ。俺を捕らえても無駄だぞ。教師も役人も、我々を裁けたことなどないのだ」

「殿下の名で消せる罪ではありません」

「男爵家ごときが決めることではない。何も知らんくせに!」

「決めるのは法です」


 騒ぎを聞きつけた教師達と学園の衛兵が駆け込んできた。

 お兄様は目撃した生徒達と、天井に残った焦げ跡を示した。衛兵はトリスタンの両腕へ魔法封じの枷をはめ、その場で逮捕する。


「俺には王太子殿下がついている! すぐに解放される! こんなことをしても無駄だ!」


 連れていかれる間も、トリスタンは叫び続けていた。

 アリス様は汚れた制服を払い、教師の質問へ答えようとした。けれど、片腕を上げたところで顔をしかめる。


「アリス様、保健室へ行きましょう」

「先に状況を――」

「説明は私がします」


 お兄様が言うと、アリス様はすぐに反論した。


「怪我人は、治療を受けてください」

「まだ歩けるし、大丈夫」

「歩けることと、怪我をしていることは別です」


 アリス様が黙った。


「……分かったわ。行きましょう」


 彼女は、もう反論しなかった。



 その日の夜、帰宅した私達を追うように、近衛騎士団長のガレス・ヘイルがアシュフォード邸を訪れた。

 応接室へ通されたガレスは、私とお兄様へ事件後の処置を伝えた。


「トリスタン・クロウリーの退学が決まった。王太子殿下の名を出して放免を求めたが、認められていない」

「ご対応ありがとうございます」

「君が拘束した後は、こちらで適切に処理した。もう学園へ戻ることはない」


 ガレスが私へ向き直る。


「マチルダ嬢にも怪我はなかったと聞いている」

「はい。アリス様が守ってくださいました」

「彼女の治療も済んでいる。国内最高の治療魔法師達によって完全に回復している」


 ガレスはそれだけを報告すると、余計な事情を話さず帰っていった。

 逮捕しても無駄だと笑っていたトリスタンは、王太子殿下の名を出しても釈放されず、そのまま学園を退学になった。



 翌朝、生徒会室へ入ると、ジュリアン会長とレオポルド様も退学の知らせを受けていた。


「トリスタンが逮捕されたのは当然です。ですが、王太子派の生徒が釈放されず、そのまま退学になるとは……今回が初めてだ」


 ジュリアン会長が言葉を止める。


「これまでは、殿下の名が出れば処分そのものが曖昧になった。今回は大勢が見ている。殺傷魔法まで使っては、さすがの殿下も庇いきれなかったのだろうか」


 レオポルド様がそう結論づけると、ジュリアン会長も頷いた。

 お兄様が何者なのか、二人は知らない。その意向に逆らうことなど出来はしない。


 ただ一つ、昨日までと違うことは学園中へ伝わった。

 王太子殿下の名でも、犯した罪は消えなかった。

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