第6章 生徒会からの勧誘
放課後、私達二人とレオポルド様は生徒会室へ呼ばれた。
扉を開けると、窓際に二人の生徒が立っていた。
先にこちらへ歩み寄ったのは、柔らかな茶髪の男子生徒だった。
「来てくれてありがとう。僕はジュリアン・ペンブルック。ペンブルック伯爵家の嫡男で、三年生の生徒会長です」
続いて、青みを帯びた黒髪の女子生徒が頭を下げた。
「アリス・ヨーク。ヨーク公爵家の長女で、二年生の副会長よ」
アリス様は、挨拶を終えるとすぐ私達を見た。お兄様とレオポルド様の顔を順に確かめ、最後に私へ目を止める。
「先日の決闘を見たわ。アーサー君がレオポルド先輩に勝ったところも、その後にレオポルド先輩がどういう態度をとったかも」
「その話で、僕達は君達に頼みたいことがあります」
ジュリアン会長が椅子を示した。
「座ってください。生徒会からの正式な依頼です」
私達が腰を下ろすと、ジュリアン会長も向かいの席へ着いた。アリス様はその隣に座ったものの、背もたれへ身を預けようとはしなかった。
「君達も知っているだろうが、王太子派は学内で横暴を繰り返してきた。生徒会は、それを止めようとしてきました」
ジュリアン会長の声は穏やかだった。王太子派の横暴が、どのようなものであるか、事細かに説明される。それは、今まで知る以上にひどいものだった。
「教師へ相談し、相手へ注意し、必要なら王太子殿下にも申し上げています。それでも、殿下の名を盾にされると、僕達の言葉だけでは退かせられない」
「だから、あなた達に頼みたいの」
アリス様が続けた。
「あなた達は、王太子派の名前に怯まずに動ける。今の生徒会に足りないのは、正しいことを言うだけではなく、相手を実際に止められる人よ」
「アリス。そこまで正直に言うのは、どうかと思うぞ」
「必要なことを言っているの」
ジュリアン会長は困ったように黙った。けれど、アリス様をたしなめることはしなかった。
「僕も、アリスの言葉に反対ではありません。生徒会には、君達の力が必要です」
お兄様がジュリアン会長へ尋ねる。
「俺達を、王太子派と争うために呼んだのですか」
「王太子派には、僕達だけでは止められない者がいる。だから、生徒会にも対抗できる戦力が必要なんです」
レオポルド様が口を開いた。
「俺にも、王太子派と敵対する覚悟を求めているのか」
「そうです。レオポルド君には王太子派を抜けて、僕達の仲間として加わってほしい。アーサー君とマチルダさんにも、生徒会の仲間になってほしい」
ジュリアン会長は、レオポルド様から目を逸らさなかった。
「僕には、王太子派の実力者と正面から争う力がない。それでも、生徒会長として見過ごすつもりはありません。僕にできない部分を任せたい」
アリス様が机へ手を置いた。
「二人が来てくれるなら、王太子派にも対抗できるわ」
「僕も、出来るだけのことはする」
お兄様が私を見る。
「マチルダは、どうしたい?」
生徒会からの依頼を受ければ、王太子派との対立は避けられない。けれど、お兄様が決める前に私へ尋ねてくれたことが嬉しかった。
「私は、お引き受けしたいです」
「理由を聞いてもいいかな、マチルダさん」
「私達が受けたような仕打ちを、他の生徒に味わわせたくありません。生徒会が止めようとしているなら、私も力を貸したいです」
お兄様はすぐに頷いた。
「では、俺も引き受ける」
「ありがとう、アーサー君」
ジュリアン会長が頭を下げる。
「今回、君達を迎えるために、新しい役職を用意しました。特別執行委員です」
ジュリアン会長は、私達を見渡した。
「生徒会の武力・実動部隊として、学内で横暴を働く者を現場で取り締まる役目です。必要なら、その場で被害を止め、教師へ引き渡す。通常の役員には任せられない仕事を、君達にお願いしたい」
「特別執行委員、お引き受けします」
お兄様が答え、私も続いた。
「私も、お引き受けします」
アリス様がすぐに口を挟んだ。
「マチルダ、必要なことがあれば、特別執行委員として遠慮なく私達に伝えて」
アリス様はそれだけ言うと、私へ向いた。
「アリス様に直接ですか?」
「ええ。私は待つのが苦手なの」
「知っているよ。だから、君が現場へ出た後のことは僕に任せてほしい」
「ええ。ジュリアン会長なら、後のことは任せられるわ」
先輩と後輩というより、長く同じ場所で働いてきた二人のやり取りに見えた。ジュリアン会長はアリス様の性急さを知ったうえで、信頼している。
ジュリアン会長はレオポルド様へ向き直った。
「レオポルド君にも、特別執行委員をお願いしたい。ただ、返事を急がせるつもりはありません」
「王太子派を抜ける必要があるからか」
「引き受けるということは、王太子殿下と敵対することです。君がどうするかは、君自身で決めてほしい」
レオポルド様は黙っていた。
それでも、彼の目はジュリアン会長から逸れなかった。
「俺は、殿下のためなら、いつでも剣を抜く覚悟だった」
レオポルド様はゆっくりと言った。
「だが、殿下の名を使って弱い者を脅す者を、殿下は止めようともしない。それでも盲目的に殿下に仕え続ければ、俺も同罪だと気がついた。いや、同罪だった」
「レオポルド先輩」
私が呼ぶと、彼は一度だけこちらを見た。
「決闘に負けたからではない。俺は俺の判断で、王太子派を抜ける」
レオポルド様は立ち上がった。
「特別執行委員を引き受けよう」
アリス様が先に手を差し出した。
「歓迎します、レオポルド先輩」
「こちらこそ、よろしく頼む」
ジュリアン会長も立ち上がる。
「役員の任命は、会長と副会長の合意で行います。僕は君達を推薦する」
「私も賛成よ」
アリス様が即答した。
「では、正式に任命します。マチルダさん、アーサー君、レオポルド君を、特別執行委員とします」
私達はそれぞれ返事をした。
生徒会室を出る前に、ジュリアン会長が私達を呼び止める。
「明日から、アーサー君達には特別執行委員として、王太子派の横暴に対処してもらいます。我々もバックアップします」
「私も、出来るだけ現場に出て助けるわ」
アリス様が言った。
お兄様とレオポルド様も頷く。私も二人の隣に並んだ。
レオポルド様は、誰かに追い出されたのではない。自分の意思で王太子派を離れ、生徒会へ足を踏み入れた。




