第5章 敗者の昼食1
中庭を出た私達は、校舎へ戻る途中でレオポルド様に追いつき、三人で食堂へ入った。
食堂には長いテーブルがいくつも並んでいる。一番奥の卓では、王太子殿下とマーガレットを囲んで、大勢の生徒が昼食を取っていた。空いた椅子もいくつかある。今朝までなら、レオポルド様も迷わずそこへ座ったはずだ。
私達が奥の卓へ近づくと、エドワード殿下が会話を止めた。
「何を話していた、レオポルド」
「今朝の勝負について、説明を受けておりました」
「学園最強が、目立たない男爵令息に負けた。そのうえ、勝った相手から教えまで受けたのか」
卓を囲む生徒達の何人かが、レオポルド様へ顔を向ける。マーガレットはエドワード殿下の隣で黙っていた。
「負けたのは事実です。アーサー・アシュフォードの勝利にも間違いはありません」
「三年最強も、大したことはなかったというわけか」
エドワード殿下はそれだけ言うと、レオポルド様から目を外した。追い払う言葉はない。席も空いている。それでもレオポルド様は椅子へ向かわなかった。右手だけが、革手袋のストラップへ触れている。
「お兄様」
「うん」
名前を出さなくても、お兄様は分かってくれた。
「お招きしてもよろしいでしょうか」
「マチルダがそうしたいなら」
「お兄様は、お嫌ではありませんか」
「嫌なら、今朝の決闘の後に助言はしないよ」
言われてみれば、その通りだった。
周囲の視線が、レオポルド様と話をした時よりも多くこちらへ集まる。敗者と一緒にいるだけなら謝罪を受けるためだと思われても、昼食へ誘うとなれば話は別なのだろう。
だからこそ、声を小さくするつもりはなかった。
「レオポルド様」
彼は革手袋から手を離した。
「昼食も、ご一緒にいかがですか」
食堂の話し声が途切れた。
レオポルド様は私と、その後ろのお兄様を順に見た。冗談を疑うというより、決闘を挑んだ相手の妹に食事へ誘われた時の正しい礼儀を、本気で探しているようだった。
「俺は、あなたを疑っている」
私はレオポルド様から目を逸らさずに答えた。
「承知しています」
レオポルド様は、お兄様へ視線を移した。
「兄君には剣を向けた」
それにも、私が答える。
「それも存じています」
レオポルド様はもう一度、私を見た。
「その俺と食事をするのか」
「食事をすれば、疑いが晴れるとは申しません。ただ、先ほどのお言葉を曲げなかった方と、もう少しお話ししたいのです」
レオポルド様は黙り込んだ。
やはり断られるだろうか。そう思った時、お兄様がレオポルド様へ声をかけた。
「昼休みが終わります。話すなら、先に注文した方がいい」
レオポルド様は配膳口を見た。
「……兄妹そろって、決闘の遺恨というものがないのか」
「負けた後に背中から斬る人なら警戒しますが、あなたはそうではない」
「それだけか」
お兄様が頷く。
「十分でしょう」
2026年08月31日 07時00分 次話アップロード予定。
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