その仕事、特運
「はい、これ。今回の報告書です。」
「おぉ、ありがとうよ。エリクの報告書は読みやすくて助かるよ。どれどれ、うん、とりあえず、問題なさそうだな。で、こっちが、次の運行予定だ。」
「どうもです。ん?これは。」
「あぁ、“特運“だ。この後、ギルド長のところに寄っていってくれ。」
「わかりました。」
“特運“。馬引きの仕事は、馬車の御者台に座り、馬車を引く馬を制御すること。そして、馬車の積荷や乗客を安全に、目的地まで送り届けること。ただし、ごく稀に“特運“と呼ばれる仕事がある。これは、本来の馬引きとしての仕事以外に、特別な“役目“があることを指す。その内容は多岐に渡り、例えば、
①搭乗人の道中における護衛
②目的地での物資調達
③目的地での人の捜索やそれに関する情報収集
などがある。そして、その役目の内容は、商業ギルド長から直接言い渡される。エリクは、ギルド長の部屋へ向かった。
コンコン。
「エリクです。」
「入れ。」
「失礼します。」
「エリク、早速で悪いが、今回は護衛だ。」
「護衛、ですか?」
「そうだ。それも、サリエス第二王女殿下だ。」
「サリエス第二王女殿下、ですか。」
「場所は、パリューム辺境伯領にあるザンク湯治場。まぁ、恒例の療養だな。で、“馬引き“に、お前が指名された。」
「そうですか。でもなぜ、特運なのですか?それに、護衛ということですが、冒険者はつかないのですか?」
「当然、道中に冒険者はつく。ただ、冒険者だけでは足らないと、私が踏んで、殿下に進言したところ、お前を指名された、ということだ。」
「と言うことは、やはり、あの噂は本当なのですね?」
エリクは、最近よく耳にする、街道での野盗襲撃の話を思い出した。
「あぁ、そうだ。実は、一昨日も、荷馬車と若手の冒険者パーティが襲われた。生存者の話を聞く限り、これまで報告に上がってきていたのと同じ野盗のようだ。人数もそれなりにいて、わかっている範囲で最低でも10人はいる。」
「最低でも10人、ですか。厄介ですね。」
「あぁ、しかも、どうやら、野盗のくせに妙に統率がとれているようだ。そうなると、冒険者といえど、生半可なランクでは太刀打ちできない。聞くところによると、今回護衛につくのはAランクらしいがな。護衛騎士もいるとはいえ、10人以上を相手にするのは、やはり厳しい。だから、エリク、お前は、とにかく、殿下の命をお守りしろ。そして、騎士や冒険者は野盗殲滅に専念させろ。ただし、お前が必要と判断したのなら、お前が殲滅に加わっても問題ない。」
「わかりました。」
「で、招集は明後日、出立は4日後、だ。」
その言葉に、大きく頷き、ギルド証と指示書を預かって、エリクは部屋を出た。
パリューム辺境伯領は、同じアレドリア王国内にあるが、位置的には、王国の北端になる。王都は南に位置しており、王国自体が南北に縦長なため、王都からの移動だけでも10日はかかる。道中で必要になる道具の確認をして、野盗対策も考える。
「少し、装備の補給が必要だな。それと、念のために、こいつのメンテもしておくか。」
そう考え、早速準備に入った。




