その仕事、馬引き(6)
アルサリオス伯爵領、領都アルセスを出発して予定地で野営を迎える。いよいよ明日、セントリアンス辺境伯領の領都セントリアに辿り着く。エリクは、積荷を確認し、馬車を野営地の隅に置く。馬車を引く馬は今は4頭。アルセスまでは2頭で引いていたが、アルセスからの積荷が増えたため、馬車のサイズがワンランク大きくなったのと、街道が山越えになり、急な上り坂もあることから、アルセスで2頭が追加となった。それに伴い、馬引きの技量も必要になる。馬を2頭扱うのと、4頭を扱うのとでは、その扱い方が異なる。また、平地と坂での扱いも異なり、特に“下り坂“では、馬に対する気遣いも相当の注意が必要になる。扱いが雑になると、結果的に馬車の挙動に影響が出て、それは、乗客や積荷に直結する。馬引きの腕の見せ所である。
「エリク、こっちは済んだぜ。」
「ありがとうございます。こちらもちょうど出来上がったところです。」
「おぉ、今日のも美味そうじゃねぇか。エリクの飯はうまくて楽しみなんだよな。他の奴らも言ってたぜ、遠距離ならエリクと組みてぇって。」
「そうですか?そう言ってもらえると嬉しいです。」
「さぁて、食べるかねぇ。」
「はい、食べましょう。」
そう言って、簡単ではあるが、美味しそうな匂いのする食事を始める。と、エリクは背中越しに視線を感じる。意識を後方に向けると、どうやら、今日アルセスから乗車してきた母娘の娘のほうのようだ。母娘と言っても、側からはどう見ても母娘には見えなかった。ただ、馬引きの“作法“として、乗客のことは基本的に無視する。人には、それぞれ事情があり、馬車を利用するにも、それぞれの理由がある。費用さえ支払ってくれれば、道中の安全は保証する。その程度の間柄でしかない。だから、今回もそれ以上でもそれ以下でもない関係。それでも、どうしても、気になってしまう。あの日の自分とどうしても重ねてしまう。自分と同じ境遇。きっと、この娘も売られたのだろう。雰囲気からなんとなくわかった。ただ一点、自分と違うところがある。それは、・・・。
“烙証“。
つまり、この娘は、“奴隷“として売られたのだ。“烙証“は奴隷を意味する。昔は、体にその印を焼き付けられたらしいが、今は“タグ“と呼ばれる糸で編んだ細い腕輪を手首につけている。良い主人に巡り合うことを祈る、とばかりに、目を瞑り、背中の視線を無視する。
「ん?どうしたエリク。」
「ううん、なんでもないよ。」




