その仕事、馬引き(1)
「お〜い、エリクよ。そろそろ時間じゃぞ。」
「ん?おぉ、やばいやばい。」
馬車乗り場の片隅にある“馬引き詰め所“の休憩室で仮眠をとっていたエリクが、慌てて起き上がり、準備もそこそこに、外に出て、声を張る。
「みなさ〜ん、領都アルセス方面行きの馬車の出発時間で〜す。ご利用の方は、こちらの馬車に乗ってくださ〜い。」
馬車には、冒険者が5名、買い出し商人と思われる人物が2名の計7名が乗車。他に、ここ王都ナシアで生産された武具や野菜が積まれていた。
「では、出発しま〜す。」
また、あの時の夢を見た。「無適正」を授かり、家族から疎まれ、そして、売られた、あの時のこと。
「旦那様、お連れしました。」
「おい、お前、名はなんという?」
「ラ、ラミス、です」
「聞こえん!」
突然の大声に、ビクッとしたラミス。姉から渡されたお守りをギュッと強く握り締め、勇気を振り絞って、声を出す.
「ラミスです。」
「ラミス、か。ならば、今よりその名は捨てよ。今からお前は、“エリク“だ。エリク・フォン・サリマールだ、良いな?」
「え?僕は、エリク?」
「そうだ、エリク・フォン・サリマール。私の養子だ。」
明日をも知れぬ状態から、王都ナシアにあるギルド協会の会長エドワード・フォン・サリマールの養子となり、あらゆる教育を施された。それこそ寝る間も惜しんで。王国の成り立ち・歴史、経済・産業、貴族・貴族関係、剣術・盾術・体術・魔術、馬の扱い、それに、協会長の息子ということで、社交マナー。思いの外エリクは優秀で、どれも、完璧にマスターした。
そして、13歳の時、王立魔剣師学園に入学。学園でも、勉学は完璧に、実技はそこそこにこなせていたが、同級生の中では“最低ランク“という成績で卒業。ただし、これは、そうするように義父エドワードから指示を受けたもの。指示通り“なんとか“学園を卒業してからは、“馬引き“として、馬車を引いて、王国内の領都、村や町、または、他国との間を行き来している。しかし、それは表向きの役目。本当の役目。それは・・・。
(あれから10年、いや、それ以上経つのか、早いなぁ。)




