プロローグ
アレドリア王国西端の、とある伯爵領。
今、領都にある教会で、「適正の儀」が執り行われている。ここアレドリア王国では、王家、貴族家以外の庶民に限り、生まれてから齢8才を迎えた翌年の1月1日に、その子供に適した職業が神より授けられるとしている。その職業とは、この国の商業ギルドを頂点とした組織に属するもの。神職、剣職、術職、技職、農職、酪職、商職、仕職、冒職、これらのいずれかが授けられる。何が授けられるのかは、“神のみぞ知る“である。そして、その職業が授けられる場が「適正の儀」である。
「では、最後に、ラミス。ここへ。」
ラミスと呼ばれた少年が、司祭のいる祭壇の前に進み、片膝をつき、胸の前で両手を組み、目を閉じて、頭を垂れる。
司祭が祈りを神に捧げ、祭杖を掲げると、少年の頭上が光った。他の子供達も頭上が光ったが、ラミスの場合、他の子供達と異なるところがあった。色だ。光の色が、他の子供達と違った。他の子供達は明るい黄色がかった色であったのに対し、この少年、ラミスの場合は、暗い紫がかった色だった。当然、周りにいたものたちから驚きの声が上がった。そして、告げられた職業。
「汝、『無適正』」
周りがざわついた。当然だ。アレドリア王国に「無適正」なる職業はない。領民にとっても、聞き慣れない“コトバ“。なんだ、なんだ、と一気に騒々しくなった。
「静まりなさい。」
司祭が一喝したことで、ようやくざわつきが静まった。
「本日の『適正の儀』、これにて終了。」
特に「無適正」に関する説明もなく、終了した。ラミスは、両親と共に、家路についた。しかし、その両親の表情は、闇がかったように暗かった。帰路の途中、漏れ聞こえた両親の会話から、その理由が、幼いラミスにもわかった。
『悪魔の職業』
そう呼ばれるものらしい。なぜ、そう呼ばれるのか。どうやら、「無適正」を授かった子供のいる家庭には、「よくないこと=災い」が起こるのだという。どんな災いなのかは知られていないが、その家族は口数が少なくなり、雰囲気も暗くなるのだという。さらに、それを授けられた子供は、その後姿を見ない、という。
ラミスは、農業を営む両親のもとに、三男として生を受けた。ラミスの上には、二人の兄と一人の姉、下には、幼い弟と妹が一人ずついる。上の兄と姉は共に“農職“を授かっている。当然ラミスも“農職“、あるいは“酪職“を授かるものと信じて疑わなかった。それが、「悪魔の職業」と噂される「無適正」。その日から、ラミスは、家族から疎まれ、厄介者扱いされるようになった。特に両親と二人の兄からは、完全に無視されるようになった。姉は、これまで通りに接してくれ、食事等も準備してくれていたが、徐々によそよそしくなり、いずれそれもなくなった。碌に食事も取れない状態が続き、ラミスは心身ともに限界が近づいてきていた。
(なるほど、こういうことなんだ。だから、悪魔の職業なんだ。)
幼心にも理解したラミス。
そんなある日。突然、王都から使者が訪れ、ラミスを引き取ると言い出した。見返りに、金銭が与えられた。その額は、農業では一生かかっても稼ぐことができない額。ただし、条件も言い渡された。
一.今後一切、ラミスと関わらないこと。
両親に限らず、兄弟姉妹も同様。つまり、完全に縁を切ること。
一.このことは、一切他言無用。
もし、このことを他言したり、ラミスと“元家族“として、接触した場合、
家族一同、路頭に迷うことになる、場合によっては・・・。
そのようなことがないように、それなりの手当をする。それが、金銭の支払い。今後の生活のことを考え、金貨ではなく、使い勝手の良い銀貨・銅銭で支払われる。そして、あとは、好きに生きよ、という。
その場には、両親、二人の兄、姉、まだ幼い弟と妹も同席していた。幼い弟と妹には、話の内容はわからないだろうが、ラミスがいたにも関わらず、両親は、目を輝かせて、快諾した。二人の兄も同様に。ただ、姉だけは、悲しそうな表情をしていた。ラミスは、姉にだけ、笑みを向け、頷いた。
その日のうちに、ラミスは使者とともに王都に向けて出発した。これから、どんな生活が待っているのか。当然不安でいっぱいだった。ラミスは、手に握りしめていたものを改めて見つめた。
「ラミス、ごめんね。もう会えないんだね。でも、私はラミスのこと忘れないから。はい、これ。」
最後の姉の言葉。そして、姉から渡された手縫いのお守り。両親や兄たちの態度から、不穏なものを感じ取り、密かに作っていたらしい。ラミスは、そんな姉の心遣いが嬉しかった。
ラミスは、初めて乗った馬車の窓から、見慣れた、そして、二度と見ることのないだろう景色を目に焼き付けた。
「ねぇちゃん。今まで、ありがとう。」




