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職業は御者  作者: 勢崎カスリ


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14/16

その仕事、付き添い

 それからの1ヶ月。王女が滞在中のエリクの役目はというと、主に、食料調達時の荷物持ち、館敷地内の整備、が主な役目だった。特に、館には、天然の温泉が湯浴み場に引かれていて、その湯道の整備・管理を任された。本来、この整備・管理は執事の役目であったが、なぜか、サリエス本人が、そうするように指示した。ただし、湯道に赴く際は、必ず執事も同行することが条件としてつくことで、執事も渋々了承した。


 「あの〜、あなたは一体、何者なのですか?なぜ、これほどまでにお嬢様は気にかけるのでしょう。」

 「いや〜、僕に聞かれても〜。ただの馬引き、なんですがねぇ。強いて言えば、出来の悪い同級生、というか、弟のように見られているのですかね?」

 「弟、ですか。確かに、お嬢様は末娘なので、ご自身より小さいお子を見ると、それはそれは可愛がっておりましたから。う、うぉっほん!これは、失礼。おしゃべりが過ぎました。」

 「いえいえ。そういえば、学園にいらした時から、まわりの生徒に対しても、分け隔てなく、接しておられました。お優しいのですね、殿下は。」

 「そうですね、ご兄妹の中では、一番、人当たりの優しい方、ではありますな。あっ、そこを一旦閉じてから、中を清掃します。」

 「はい、こうですね。わかりました。」

 一通り、仕事の段取りを教えてもらい、休憩に入った。館にいる間のエリクの1日は、日が昇るのと同時に、まずは馬への餌やり。朝食用の薪の準備。食事用の湯おこし。朝食は、サリエスの意向で、全員一緒にとることになっている。朝食の後片付けを手伝い、その後、昼までは、館の敷地内の清掃。館自体は確かに小さいが、敷地はそこそこの広さがあるため、敷地全てを清掃するのには、一人では10日は優にかかる。昼食は簡単に済ませて午後は湯道の整備と湯浴み場の清掃。夕食前までに湯浴みのためのお湯はりを済ませる。ここのお湯は、地下からの源泉をそのまま使用しているため、それなりに高温。夕食前に湯はりをしておくことで、自然放熱し、サリエスが夕食後に湯浴みをするときには、ちょうど良い湯加減になっている、という寸法である。当然これは、執事・ダニエルからの助言である。


 そして、5日に一度、領都パリシアスにある市場まで食糧の買い出し、の付き添い。ザンク湯治場にある館から領都パリシアスまでは、買い出し時間も含めると、往復でほぼ1日潰れてしまう。そのため、6日分をまとめて買い出す。当然、馬車で赴くため、馬引きとしてエリクも同行する。メイドが一人で買い出しを行うが、護衛として騎士も一人つく。とはいえ、騎士に荷物を持たせるわけにもいかないので、エリクも付き添う。領都につくと、一旦馬車を馬引きギルドに預けて、エリクも荷物持ちとして同行する。当然、市場の中は徒歩のため、度々、馬車までもどり、荷物を荷台にしまう。これはこれで、かなりの重労働。こっちで野菜、あっちで肉塊。はたまたこっちで果物。

 「辺境の地とはいえ、さすが領都、品は豊富ですね。」

 「エリクさんは、こういうところは初めてなのですか?」

 昼食を兼ねて、しばし休憩。

 「はい、領都には立ち寄りますが、市場とかには出向きませんね。馬引きの詰め所でコトは済みますからね。」

 「馬引きの詰め所とは、そんなに快適なのか?騎士団にも詰め所はあるが、どうも、好きになれなくてなぁ。狭いし、休んだ気にもなれん。」

 フランが興味深そうに聞いてきた。

 「同じようなもんだと思いますよ。快適とは言い難いですね。寝る場所と食堂がある、というだけですから。それに、寝る場所も個室ではなくて、大広間に雑魚寝です。でも、食堂では、その場所の特産品は必ず食べられますね。上限はありますが、好きなものを好きなだけ食べられます。楽しみはそれぐらいです。」

 「特産品?それも、好きなだけ?」

 「はい。そもそも、僕たち馬引きは、到着したその日か、翌日にはその場所を離れますからね。ゆっくり街中を散策、なんてできません。少しでも時間があれば、食べるか、寝るか、しかしないんです。」

 「そうなんですね、馬引きさんも結構、大変なのですね。」

 「そうですね、大変かもしれませんが、お仕えの方や騎士様に比べれば、そんな大したことではありません。ほんと、今回、皆さんとご一緒して、よくわかりました。皆さん、すごいです。頭下がります。」

 「そ、そんな、私なんか・・・。」

 「特産品かぁ、それも好きなだけ。いいなぁ。なぁ、エリク、どこの特産品が美味なんだ?おススメはなんだ?」

 「フラン様?お口元が、」

 「あっと、失礼。つい・・・」

 「そうですね、おすすめというか、僕は、アプレが好きです。特に、アルサリオス伯爵領のアプレ、ですね。領都アルセスに行った時には、必ず3個は食べます。」

 「な、なに?3個?まさかとはおもうが、そ、それをひ、一人でか?」

 「はい、3個をひとりで、です。」

 「く、くそ〜、う、羨ましい。」

 「フラン様?心の声がダダ漏れです。」

 「なぁ、エリクよ、そのアプレは持ち帰ることはできないのか?」

 「さすがに、それはできないですね。アプレは芯が必ず残りますよね。詰め所に置いてある数と残った芯の数、チェックが入るので。」

 「そうかぁ、そうだよなぁ〜。」

 「フラン様?騎士様ともあろうお方が、何アプレの持ち帰りで、そんなに落ち込むんですかぁ。」

 「何をいうか、リース。アプレだぞ?ア・プ・レ。それもアルサリオス産といえば我々でもそう口にできるものではないのだぞ。あの香り、食感、そしてあの甘すぎず、酸っぱ過ぎず、の絶妙な味。騎士とか関係ないだろうが。」

 「お気持ちはよくわかりますが、その、人前ではどうかと思いますよ。その腑抜けた、お・か・おっ!馬引きさんとは言え、エリクさん、殿方ですよ。」

 「いいや、僕はその、含めなくてよろしいかと・・・。」

 「とりあえず、あとは、香辛料を残すのみです。さ、行きますよ。」


 (リースさんて、どちらかといえば、姉御肌なんだな。そして、フランさん。騎士としての腕は確かなんだけど、ちょっと、抜けてるというか、ギャップがあるんだよな。まぁ、そこもいい感じなのかもしれないが・・・)


 “そういえば、ここに来る馬車の中で、お前らアプレ、美味しそうに食べてたろ?しかもあれ、アルサリオス産だよな?“

 “そうですけど、し、仕方ないじゃないですか。そもそも、あれはサリエス様用ですし、毒味を兼ねておりますから“

 “なら、アプレに関してのみ、私が毒味をしようじゃないか“

 “結構です。“

 “いいからやらせろ“

 “い・や、です!“

 “や・ら・せ・ろ!“

 と帰りの馬車の御者台で戯れあっているメイドと女騎士。二人の頭ごしに真っ赤な夕日が沈んでいく。


 約1ヶ月に及ぶ滞在では、特に問題は起きなかった。帰りの道中も、パリューム辺境伯の計らいで、護衛騎士をつけてもらい、問題なく帰都できた。

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