その仕事、護衛(4)
この日は、念のため、夜が明けるまで、起きていることにした。ことがことであるため、未だ興奮がおさまらず、寝付けない、というのもあった。改めて熾した火で、茶を淹れる。
「そういえば、ダニエル。あなたも戦っていたのでしょ?」
「はい、フラン様、ルーデル様と。」
「私たちがテントに身を隠している時、テントの裏側にも賊の気配がありましたが、それもダニエルが対処してくれたのですね。」
「いいえ、私めは、入口側にて応戦しておりましたが。」
「えっ?裏側からも、ですか?」
「えぇ、私の勘違いでなければ・・・。どう、セシル?」
「はい、確かに、賊の気配がテントの裏側にもありました。しかし、入られることはなかったのですが。では、誰が?」
と言って、まさか?という感じで一斉にエリクを見る。
「いやいや、私は隠れていたので。」
と言って、慌てて否定するエリク。
「そうでした。では、私たちの気のせい、だったのでしょうか?」
「でも、確かに、数が合いませんね。僕たちが倒したのは、5人。野党の気配はもっとありました。少なくても10人は。」
「えぇ、私の“感知“でも、冒険者を含めて15、6人はいたと。」
「まさか、取り逃したか?」
「状況を察して、逃げたのかも知れませんね。」
その場に、再度緊張の糸が張り詰める。
「このまま警戒して、朝を迎えましょう。」
サリエスがそう呟く。翌朝、サリエスが、魔道具の“遠話“で王都に連絡し、パリューム辺境伯への援護を願い入れた。魔道具の“遠話“は、太陽の光あるいは、月のあかりを力として使用するため、新月の夜では、使い物にならない。おそらく、野盗側はそれを見越して、新月の夜を利用したのだろう。
エリクが始末した野盗と冒険者は、別の者を使ってこっそり、森の奥深くに移動させている。そこは、いわゆる“魔獣の食事場“と呼ばれるところ。昔からそういう場所があったわけではなく、エリクのような“表向きは普通の庶民“を装った、“御者“と呼ばれるモノが長年にわたり“御して“きた結果、そのような、“血に染まった密かな場所“が生まれたのだ。死者の血の匂いに誘われて、そこかしこから魔獣が引き寄せられ、その場にある死体を全て食べ尽くす。
“御者“は、役割分担がしっかりしている。
対象を始末するモノ。
始末した対象を“魔獣の食事場“へ移動するモノ。
その後に残った武器や鎧などを、後日、回収するモノ。
回収した武器や鎧を、元の魔鉱に戻すモノ。
戻した魔鉱から新たな武器や鎧などを生成するモノ。
今回も、始末したエリクが、念話を使って、“御者ギルド“に状況を報告。別の“御者“が転移でエリクのところへ来て、始末された野盗と冒険者を、転移で“魔獣の食事場“へ運んだのだ。ちなみに、“御者ギルド“は、商業ギルドの傘下にある“裏“組織のこと。エリクのような“御者“と呼ばれるものが所属している。
“御者“とは、
“御ス者“
のこと。
それは、
“影にまわり、コトを成す者“
のこと。
エリクが生かした状態で、別の御者に渡した野盗の頭も、必要な情報を入手したあとは、おそらく・・・。本来であれば、護衛騎士が、親玉と思しき人物を捕らえ、その目的や背後関係を徹底的に聞き出すはずであるが、その気配もなかったのでこちらで手を回した。あとは、ギルドでなんとかするだろう。とはいえ、一応、確認しておく。
「あのぉ、それで、今回の襲撃の目的ってなんだったのでしょう?やはり殿下なのでしょうか?」
恐る恐るといった感じでエリクは聞いてみた。
「あっ、いや、それは、その〜・・・。」
と言って、フランとルーデルは互いを見てから、ともにバツが悪そうに頭を掻きながら、王女に頭を下げた。
(まぁ、この人数であの人数を相手にしたんだ。仕方ないよね。)
その後、まわりを警戒しつつの移動にはなったが、パリューム辺境伯からの護衛支援もあり、なんとか予定通り、パリューム辺境伯領に到着することができた。
数日後、取り逃したと思われていた、その他の野盗や冒険者の行方がわかった。
残りの野盗や冒険者たちは、騎士や執事の実力を目の当たりにし、あの場から逃げ出したようだが、途中魔獣に出会し、魔獣の餌食になったようだ。その証拠に、魔獣の歯形と本人のものと思われる血痕のついた野盗や冒険者の装備が見つかった。
そのような報告を受け、サリエスたちは、ホッと胸を撫で下ろしていた。
いつもの、
“御者ギルドの後始末“
である。




