その仕事、護衛(3)
野党側は何が起こったのか訳が分からず、混乱し始めた。エリクは、残った野盗にも、一人ずつ近づき、同じように始末していく。テントの前では、騎士に混じって、執事も野盗に応戦している。騎士もそうだが、この執事もなかなかの腕前。エリクは、数人の野盗を始末したところで、テントの裏側に近づこうとしている者に気づいた。
「さすが、野盗ですね。卑怯ですよ。」
言い終わらないうちに、心臓に突き刺すエリク。テントの中に今まさに入ろうとしたもう一人の野盗も取り押さえ、外に引きづりだして胸に突き刺す。が、寸前で止めて、短剣の柄で後頭部を殴打し、気を失わせた。そして、森の中へ連れ込んだ。この者が、今回の野盗の頭と思しき人物。活を入れて、意識を戻させる。口には布切れで猿轡をして、両手両足も縛ってある。
「今から1つだけ質問する。yesなら縦、noなら横に首を振れ、いいな?」
男は首を縦に振った。
「お前は、今回の野盗の頭、か?」
男は首を縦に振った。
「そうか、わかった。命拾いしたな。俺は、お前を生かす。あとは、よろしく。」
そう言って、エリクの後ろにいた別のものに捕らえた男を渡し、エリクは、野営地に戻った。
野営地に戻ると、王女のいるテントの前で、騎士と執事が野盗相手に応戦していた。エリクは、気配を消して、参戦する。
エリクは、どちらかといえば華奢な体躯。正面から戦っても、ほぼ勝ち目はない。たとえ、相手が女性であろうと、それなりの剣士であれば、太刀打ちできない。というか、エリクの剣術レベルは、最低のFランク。では、魔術師か?というと、魔術攻撃も大したものは打てない。こちらも最低のFランク。ただし、防御系魔術と隠密系魔術は、なぜか最高のSランクまで行使できる。そのことに気づいたのが、学園在学中。学園時の実技は、剣術と攻撃魔法がほとんど。そのため、実技では、“本当に“あれが実力だったのだ。そして、エリクの戦い方。それは、気配を完全に消し、素早く相手の背後を取り、短剣を心臓に突き刺す。単純にこれだけ。武器も短剣のみ。そのため、短剣の刃の切れ味には殊更気を遣っている。
「何とか、後一人。」
「う、うわぁ〜。」
と言って、持っていた剣を放り投げて逃げ出す最後の一人。
「逃すかぁ〜!」
ルーデルが後を追いかけ、森への入り口あたりで、その一人を取り押さえて始末した。
「お見事です、フラン様、ルーデル様」
「いいえ、ダニエル殿こそ、元筆頭騎士。さすが、の一言です。」
(筆頭騎士、だったのか。この執事。)
「しかし、他の野盗どもはどうしたのでしょう?もっといたと思うのですが?」
「えぇ、それにあの冒険者たち。急に姿が見えなくなりました。」
野盗と合流した冒険者たちは、最初こそ騎士たちの前にいたが、攻撃を仕掛けた時は、後ろに下がり、戦況を見つめていた。おそらくは、騎士が野盗に対応して疲弊してきたところを、攻めようと企んだのだろう。しかし、逆にそのことが、エリクにとっては好都合だった。エリクのような戦い方の場合、単純に数で押し切られるより、変に策を講じてくれる相手の方がかえってやりやすいのだ。
フランとルーデルは、周りにそれらしい気配のないことを確認し、焚き火の火を熾す。執事のダニエルがテントにいるサリエスに声をかける。
「お嬢様、もう大丈夫でございます。」
「ありがとう、それにしても、驚きました。まさか、冒険者が・・・」
「えぇ、護衛であるはずの冒険者が“野盗“の一味だったとは。」
フランが苦虫を潰したような表情で、想いを吐露する。
「そういえば、馬引きは?」
ルーデルがそう言って、あたりを見回す。と言っても、新月のため、真っ暗でほぼ何も見えない。急ぎ、ルーデルが松明をつける。
「エ、エリク?エリクっ!」
サリエスがエリクの名を叫ぶ。
「はい、私はこちらに。」
「よかった、無事だったのね。」
「申し訳ありません、何もできずに。“影に隠れて“おりました。」
「お前、本当に隠れていたのか?よく、見つけられずに済んだな?」
フランが問いただす。
「はい、本当に“隠れて“おりました。“見つからなくて“よかったです。新月のおかげですね。」




