その仕事、護衛(1)
「ねぇ、今どの辺りなの?」
「はい、先ほどカリドーレア伯爵領の領都カレドを過ぎたところです。中間点あたりでしょうか?」
「まだ、半分?やっぱりなが〜い。」
「我慢なさってください、サリエス様。」
「わかってるわよ、リース。でも・・・。」
「はい、どうぞサリエス様。アプレです。」
「あ、ありがと、セシル。」
「セシル様、殿下を甘やかさないでくださいまし。」
「まぁまぁ、いいじゃない。」
「(もぐもぐ)ほうろ、ヒール、ヒーヒャらひ。ヒャッハリ、フハヒハレ、ハフヘ。
(そうよ、リース。いいじゃない。やっぱり、 うまいわね、アプレ)
王都ナシアを出発して早7日。ここまでは順調な旅路。この旅路での7回目の野営。今は2人のメイドが夕食の準備をしている。周辺の状況を調べていた冒険者が戻ってきた。
「この周辺も特に問題はありませんね。」
「そうですか、ありがとうございます。ちょうど夕食の準備ができたところです。さぁ、どうぞこちらへ。」
「どうも、ありがとうございます。では、いただきます。」
皆の夕食が始まった。夕食時は、王女サリエス、その両脇に護衛騎士の2人、焚き火を挟んで、向かいに冒険者の5人が座る。執事と二人のメイドが王女の背後に座る。王女を守る形だ。そして、馬引きのエリクが、冒険者の背後を抑える。これまでと同じ陣形で食事をとる。陣形は同じ。ただ、何かがおかしい。何か、違和感を感じるエリク。エリクにとっては、この違和感は非常に大事だ。これまでも、学園に入学する前も、入学してからも、そして、学園を卒業してからもずっとそう。この“違和感“を感じる感覚を研ぎ澄ましてきた。だからわかる。この違和感の正体。でも、まだそれには触れない。まだ触れていいタイミングではない。そう、違和感には、気づいていいタイミング、そして、触れていいタイミングがある。今はまだ、気づいていいタイミングでしかない。エリクは、この違和感を感じながら、平静を装って、食事を続ける。
食事も終わり、今は焚き火を囲んで、食後のお茶を楽しんでいる。今日は新月。あたりは真っ暗で、あかりといえば、焚き火の火のみ。いくらか風も出てきた。エリクの感じていた違和感。
その一つが、松明。昨夜までは松明を四方に焚いていた。理由は“蟲除け“。棒の先に特殊な魔法を施した布切れを巻き、それに火を灯す。冒険者の一人、女性魔術師がそう言っていた。そのため、普段エリクが使用する、“魔獣除けの香草“は、これまで焚き火に入れていない。しかし、今日は松明を焚いていない。理由を聞いてみると、単に“蟲がいないから焚く必要がない“のだという。ちなみに、エリクの知識に、“蟲除けの松明“なるものは存在していなかった。単に、知らないだけかと思っていた。
そして、もう一つの違和感。それは、食事時の冒険者の座る位置。やはり、昨夜までの位置と、今朝の食事からの位置が異なっていた。それも、朝食時、昼食時、夕食時と、昨日まで全て同じであった位置が、今日に限っては、3回とも異なっていた。そのため、今日は、朝から少し警戒をしていたが、これまでは何も起こらなかった。しかし、夕食時の松明の件もあり、エリクは、数段挙げた警戒度で、周りに気を配る。そんな時、エリクに声がかけられた。
「馬引きさん、どうしたの?そんな怖い顔して。」
冒険者の女性魔術師だった。
「いいえ、新月の野営が久しぶりなもので。新月ですと、周りがよく見えなくなるのでちょっと・・・。」
「そうなのよねぇ。私も、新月の野営は好きじゃなのよねぇ。」
「そうなんですか?それにしても、さすが、冒険者様はすごいですね。ここまでずぅっと歩いてきてますよね?疲れたりしないんですか?」
「そうねぇ、全く疲れてない、といえば嘘になるけど。疲れない歩き方があるのよ。それに、適度に疲れが取れる丸薬も口にしているからね、わたしたちは。」
「丸薬ですか。確か、それって、かなり高価なんですよね。聞いたことがあります。」
「そうね。まぁ、冒険者くらいしか使わないと思うけど。」
「でも、ここまで、ほぼ予定通りに来れてよかったです。実は、馬引き仲間からは、“野盗“の話とかで、脅されたりしてましたから。ホッとしているんですよね。あははは。」
「“野盗“?」
「はい、聞いたことありませんか?最近、街道での襲撃が多いみたいです。」
「そうか、それじゃぁ、残りも気をつけないと、だねぇ。」
「えぇ、本当に。あと3日、このまま何も起こらなければいいんですけど。」
その後は、
“なんで馬引きなの?若いのに。“
“単に、適性がなかったんです。一応、農職なのですが、家は酪職なので、畑とかなくて。小さい頃から家畜の世話はしていましたから。“
“そう、でも、似合っていると思うわよ。馬の扱いも側から見てても、上手よね。“
“そうですか?ありがとうございます。“
なんて話をしている間に、のどかで昨夜までとなんら変わらない時間が過ぎていた。
しかし、その時は突然訪れた。




