運命の日 2
「どうしたんだ山本のやつ!動きが悪いぞ!」
「くそっ!!」
嫌な予想程よく当たる。心配した通りに山本の動きが悪い。チームメイトも合わせるのに苦労している様子だ。パスが来てもボールが収めきれずロストしてしまう。シュートミスも多く、出来たとしても枠内にすら飛んでいかない。
「くそっ!またしても!」
観客席から見ていても悔しがっているのが見て取れた。スコアは0‐1で負けている。前半から調子が悪いため、パスが来る本数も減ってきている。
「頑張れ山本!お前ならできる!」
「頑張れ!!そこだ!」
俺と栞は声援を送り続ける。今はそれしか出来ない。
「………。」
この状況を察してか佐藤さんの表情も曇っていく。合わせた手は祈りを捧げているようにも感じられた。
「あっ!!」
それは絶好のチャンスだった。敵が攻める為に上げた最終ラインの裏を突いて、山本が一人抜け出した。
そのタイミングを味方は見逃さず、縦に一本、完璧なパスが入る。DFは反応が遅れ、キーパーと山本は一対一になった。
「そこだ!いけぇー!」
俺は渾身の声を出した。佐藤さんの手にぎゅっと力が入るのが分かる。
放たれた一撃は空を切り、そのまま枠外へと飛んでいってしまう。
落胆するような周りの声。それが聴こえているかのような山本の表情。
ぴーと笛がなる音。交代の合図が告げられた。番号は山本のものだった。とぼとぼと歩く足取りには精気はなく、暗い所で遭遇すれば西洋のゾンビにも間違われそうな、そんな雰囲気だ。無理もない。本来の自分の力を殆ど出せなかったのだろう。
「すいません…。少し外してもいいですか?」
「ああ、いいぞ。」
あくまで練習試合なのでそこまで厳密にルールは設定されていないのか顧問の先生に許可を取り、そのままグラウンドから去っていく。
「俺達も行こう…。」
「そうだね…。」
俺達は山本を追って、グラウンドを後にする。
「くそ…。あんな筈じゃなかったのに…。」
山本はグラウンドから離れた給水所で頭から水を被りながら、悔しがっていた。被った水が顔を通り汗と一緒に地面に吸われていく。その姿は大量に悔し涙を流しているような…、そんな心情を表しているようにも感じた。
「山本……。」
「どうだい?俺のへなちょこっぷりは凄かっただろ?」
その声には覇気が感じらず、頭で思考したのではなく、感情を口から発していた。
…なんて声を掛ければいい…。何を言えばいいんだ…。
この状況を打開する言葉を俺は持ち合わせてはいなかった。
「えっと、頑張ったと思うよ…。」
それは栞も同じだ。俺達はなんて無力なんだ。山本はこの日の為に頑張ってきたのに…。
佐藤さんに良いところを見せて振り向いて貰おうと……いや、果たしてそうなのだろうか?
俺は試合中の佐藤さんの様子を思い出す。それは別に活躍するところが見れなくて残念がっているようには思えなかった。その姿は結果よりも過程…、下手かどうかなんてよりその人を観ていた。頑張っている人を応援するのに上手い下手なんてない…!
「後悔するよ。こんなことなら呼ばなければ良かったよ…。」
「なぁ、拗ねるのは佐藤さんにどうだったか聞いてみてからだぞ。」
俺はそう言うと、佐藤さんにバトンタッチする。バツが悪そうにする山本。そんな彼に佐藤さんは優しく声を掛けた。
「カッコいいと思ったよ。」
「嘘はよしてくれよ。あんな大事な場面で外して、その前…というか今回の試合カッコいいところなんてなかっただろ……。」
下を向く山本。その声は震えていて、様々な負の感情が推し量れる。それを聞いて佐藤さんは首を横にする。
「そんなこと無いよ。カッコ良かった。」
「どこがだよ。」
「精一杯頑張ってたところだよ。」
顔を上げる山本。表情には驚きが隠せない。それを見て話しを続けた。
「凄く悔しがっていたでしょ?シュートを外したり、パスを貰えない時、私はサッカーあまり詳しくはないから偉そうなことはいえないけどそれって凄いことだと思う!だってそれくらい打ち込んだってことだもん!」
目を輝かせている佐藤さんの声、表情、仕草はとても励ますために嘘を付いているようには見えない。
それを感じてか、山本も話を遮らず聴いていいる。
「それは競技的にカッコいい山本くんも観たかったけどね。でも私はとても満足しました!有難う!」
「うん!こちらこそ有難う!今度はプレーでみもカッコいいところを魅せれるように頑張る!」
その目には涙が浮かんでいた。俺も目から汗が出てしまっている。隣を見ると栞もそうだ。
お互い涙脆いな…。二人を見ていると……。
……私、俊哉くんよりも……。
嫌な記憶を思い出す。やめろ。こんな時に。
「どうしたの?雨宮くん?」
心配した栞が顔を覗き込む。…御免…。
「大丈夫だ。心配掛けたな。有難う。」
「…そう…、それならいいけど…。」
栞の不安そうな顔。俺もしっかりせねば!
「それじゃ、俺戻らなきゃ!また後で!」
「うん!」
(そうだ!まだ試合中だった。)
俺達は山本を見送ると、グラウンドまで戻った。結局、試合には負けてしまったけど、整列の時の顔はとても晴れやかで、そこには後悔の二文字は存在していなかった。




