後悔はするな
「まぁ、その日はどの道試合を観に行くので、別に構いませんが……。」
佐藤さんは渋々答える。
「まじで!やった!駄目元だったから正直断わられると思ったよ。」
先輩は心底嬉しそうに、わざとらしくガッツポーズをした。
「元々試合を観に行くってことは、気になるやつはサッカー部にいるのかな?」
鋭い質問する先輩の言葉に佐藤さんは顔を紅くする。それを見た先輩はニヤリと口元を綻ばせた。
「図星かな?それなら話が早い。用はそいつよりカッコいい所を君に魅せればいい訳だ。」
先程までの負け濃厚な空気から一変し、先輩の顔はやる気に満ち溢れている。それ程までにサッカーに対して自信があるということだ…。
「君が誰のことを気にしているのか知らないが、うちのサッカー部で俺より凄いやつなんていないからな!じゃあ、また明日試合で!」
そう言うと先輩は佐藤さんに手を振りながら、校舎へと戻って行き、佐藤さんも面倒くさそうな顔しながら、同じく自らの教室へと帰って行った。
「どうしよう!?」
山本は慌てふためきながら、俺に聞いてきた。
「剛田林先輩はサッカー部のエース!そんな人が活躍する試合を観たら、さすがの佐藤さんだって心変わりしてしちゃうよ!対して俺なんか……。」
またしても自信喪失する山本。こいつはもっと自信を持つべきなのに……。
「落ち着け!お前はお前のできることをすればいいんだ!この前もそう言っただろ?」
「そうだけど……。」
励ます俺の言葉も山本には完全には届いていないようだ…。
「さっきの話……、二人は知っていたの? その…、サッカー部に佐藤さんの気になる人がいるかもしれないってこと……。」
「実は私達もその可能性は考えていたの…。」
栞が山本に説明をする。この可能性は二人で事前に相談して依頼人には言わない方向で話を進めていた。それを知れば、きっと山本はマイナスに捉えてしまうだろう……。
「そうだったのか……。それならそうと言ってくれたら良かったのに…。」
その言葉には何処か棘のようなものが感じられたが無理もない。言い表せないような気持ち…。その感情をどうしたらいいのか本人にも分からないのだから……。
「気になる気持ちは分かるが、今は明日の試合に集中しようぜ!」
俺は精一杯の鼓舞をする。それしかもう出来ることはないのだから……。
「…ああ、そうだな…。その通りだよ…。」
そう言う山本の表情は暗く沈み、言葉は風に溶けてしまいそうなほど細く、今の心理状態を如実に表していた。
「山本くん…、見事に落ち込んでたね…。」
放課後、部室で俺達二人は依頼人の現状について話し合っていた。
「ああ、あの後クラスでも元気が無かったからな…。」
余程ショックだったのであろう…。山本のやつ授業も碌に聴いていいない様子だったし、飯も喉を通らなかったようだ…。話し掛けても空返事ばかりであれでは明日の練習試合そもそもまともにプレー出来るかどうかも怪しい…。
「山本くんは何であんなに落ち込んでいるんだろう?」
栞が首を傾げる。
「そもそも、確定しているのは佐藤さんの気になる人がサッカー部にいるって事だけでしょ。女たらし先輩こと剛田林先輩では無い訳だし、その相手がもしかしたら自分かも!って思わないのかな…?」
「…そう思えるのは一部の人間だけだろうな。大抵の人は自分がその相手だと思わないだろう。ましてやそこまで自己肯定感が高ければ俺達に依頼なんてしないだろうし……。」
「確かに…。」
それもそうかと納得したかの表情をする栞。…俺には分かる…。山本は今どんどん悪い方向に考えているはずだ…。追い詰められた人間はそういうものだ。たかだか学生時代の恋愛ごっこ、そう揶揄する人もいるだろうが、そこに生きている当人たちからしたら常に本気なのだ…。
「栞。もしお前が俺の事が好きだったとして、俺が他の人の事が好きかもしれなかったとしたらお前どうする?」
「ぶふっー!!」
栞は飲んでいたお茶を吹き出した。水滴が空を舞う。その軌跡には虹の架け橋ができ……る訳が無かった…。汚い。
「いきなりなんだよ。汚いなぁ〜」
「それはこっちの台詞!?突然何!」
顔を真っ赤にしながら、詰め寄る。そんな変なことは言ってはないと思うが…。
「例えばの話だよ。今抱えている問題を身近な人に置き換えただけさ…。」
「そう……、例えばね。そう…、そうよね。こっちの気も知らないで……。」
落ち着いたのか冷静になる栞。若干呼吸を乱した姿。この見た目でその仕草をするとなんかイケナイものを見ているようでドキドキする。
「で、どうよ? 学園一の美少女の意見は?」
「私なら強引に振り向かせるわ。」
キッパリと言い切る。その姿は自信に満ちていた。
「…まだ付き合っていない訳でしょ?だったらやりようはいくらでもあるわ。」
「その自信を山本にも分けて上げてくれ…。」
「自信なんかじゃないよ。そうしたい、するべきだって思うだけ。じゃないと後悔する。」
語る栞には例え話には思えない鬼気迫るものを感じさせた。
「そうだな。お前の言う通りだと思うよ。」
俺はスマホを起動させメッセージを送る。
「学園一の美少女からのありがた〜いお言葉だ。受けとれ。」
「後悔しないよう頑張れ!!」




