ナンパ野郎なんて一撃ですよ
「何処にいるんだ…栞のやつ…。」
携帯に連絡しても一向に繋がらないし…、メッセージも既読にならない…。一体何処で何をしているんだ。
〜今から少し前の事〜
「しまった…。携帯のバッテリー切れかかってる…。」
朝から充電して来るのを忘れ、気付けばもう残り数%まで減っていた。
「まぁ…いいか。今日はもう使わないだろうし…、雨宮くんも私がサポートしなくても上手くやるだろうし…。」
いじけた足取りで、地面に転がる石を蹴り上げる。あまり褒められ行為には思えないが、今は周りに人が居ないので良しとしよう。
「はぁ〜これからどうしよう…。」
二人のデートも気になるけど…、二人が仲良くしているのを観るのは辛い。幾ら依頼だから…、疑似デートだから、と自分に言い聞かせても、心にはしっかりと針を突き立てられるようなダメージが蓄積していく。乙女心とは面倒くさいのである。
「あんなメッセージまで送って、きっと雨宮くんも私に失望したよね…。依頼を途中で投げ出す奴だって……どうしよう…嫌われちゃう。」
目には涙が浮かんでいたが、こんな自分勝手な事をして泣く訳にはいかないと…、必死に堪える。
「ねぇねぇ…お姉さん。どったの?泣きそうな顔しちゃって〜。彼氏にでも振られた?」
突然声を掛けて来たのは、如何にもチャラそうな金色の髪をした大学生くらいの青年だった。
「俺でも良ければ話聞くよ。…ていうかお姉さんすげー美人じゃない!」
(今時何て古典的なナンパだろう…。最早絶滅危惧種ではないだろうか?)
「すいません。今、人を待っているので失礼します。」
面倒くさいので、早々に突き離す。こういう時はキッパリとNOを突き付けてやればいいのだ。
(…ナンパ慣れしているのが、上手くなっていくのは果たして喜ばしい事なのか?)
「いいじゃん少しくらい。ちょっとだけだからさ…其処のカフェでお茶でもしていこうよ。」
(まさかの食い下がり、あんたには興味がないって察しなさいよ!)
「ほらほら、一緒に行こうよ!」
「ちょっと!辞めて下さい!」
男は私の袖を掴むと強引に引っ張ろうとする。いきなりの事で、気が動転し、軽くパニックになりそうになる。
(どうしよう!此処まで強引だとは思わなかった。…かくなる上はあれを使うしかないわね。)
「ふ――――。」
「どうしたのお姉さん?」
(丹田に全身の力を溜め、それを一気に拳に集め解放する……私の奥義―――。これを受けて(試した事は無い)立ち上がったものは居ない。)
「―――食らいなさい。」
「えっ、何か言った?」
狙うは鳩尾唯一つ。
「おい、手を離せ!」
拳を振りかざすその刹那…男の、しかもよく知っている声が響いた。
「栞から手を離せ!」
颯爽としかし力強くそこに割って入ったのは雨宮くんだった。
「何で此処にいるのよ…。花宮さんとのデートはどうしたのよ…。」
依頼人をほっといて、来るなんて雨宮くんらしくは無い。…でも、それでも自分の所に来てくれるのは堪らなく嬉しい。
「何だお前?邪魔しないでくれる。」
「いや、色々あってさ。取り敢えずナンパの人。俺はこいつと知り合いで話しがあるから……。…行くぞ!!」
「あっ!」
雨宮くんは私の手を取って走り出した。私もその流れに逆らう事はしない。さっきの男と違い、優しく私の手を引いてくれる…。
(こういうの慣れてないくせに…気取っちゃって…♪)
「よし、これくらい離れれば十分かな。」
「結構距離走ったもんね。ナンパの人、ポカンとしてたよ。」
「しょうがないだろ。栞を探していたら、まさかナンパに遭っているなんて思わなかったんだから。一生懸命だったんよ。」
「ふふ…有難う。嬉しかったよし、…カッコ良かったぞ。」
素直に御礼を言われ、照れくさくなる。こいつのこういう所は見習いたい。
「それにしてもモテるってのも大変なんだな。羨ましいと思ってたけど、考えものだぜ。」
「むー…、雨宮くんがそれ言う?」
照れを隠す為に話しを誤魔化そうとするも、何か気に障ったのか、栞は頬を膨らませてむくれてしまった。
「なんだよ…。自虐しても別に良いだろこれくらい。」
「…そうじゃないけど…、もういい!雨宮くんのバカ!」
更にむくれてしまった。こんなやり取りも久し振りな感じがする。
「それで花宮ちゃんはどうしたの?…まさか放って置いた訳じゃないでしょうね〜。」
「ああ…、それがさ…。」
俺は香織に過去何があったのかを掻い摘んで話した。
「そんな事があったの…。花宮ちゃん…辛かったのね…。」
「それでそっちの話しは粗方片付いたんだけどさ……何て言うか…その…前に送ってきたメッセージあるだろ。それが気になってさ…。お前を探していたんだ。」
恐る恐る栞に尋ねてみる。俺にはまだ見当がついてはいないが、香織によれば重大な危機が迫っているらしい。
「ああ、それの事だったんだ。御免、分かりにくかったよね…。その何て言えば良いのかな……。」
しどろもどろな解答をしているが、俺と違って緊張から来るものでは無く、そう…言葉を選んでいるような………。
「私、この部活を辞めようと思っているの。」




