鈍感な俺に乙女心を教えて下さい
「…ところで、櫻木先輩はどうしているんですか?」
「…えっ…。」
きょとんとした顔で、突然栞の所在を聞いてくる香織を前に間抜けな声が漏れる。
「…もしかして…栞が尾行してたのバレてたましたか?」
「いや、当たり前じゃないですか。あんな格好しても先輩は目立ちますし。」
そうだったのか。完璧な作戦だと思ったのに…。因みに発案者は俺です。
「なんだ…じゃあ、言ってくれれば良かったのに…。何か恥ずかしくなってきちゃったよ。」
「バレバレでしたよ。笑いを堪えるの大変だでした。」
顔を紅く火照らせる俺に笑い掛ける香織の仕草に何処か栞を重ねてしまう。
「…実はさっきこんなメッセージが送られてきてさ…。」
「どれどれ見せてください。…これは不味いかもしれませんね。」
メッセージを読んだ途端に、先程までの表情に打ってかわり、その語気には真剣さが溢れていた。
「何が不味いんだ?俺がサポート無しで上手くいきそうだから、帰るって話じゃないのか?」
「はぁぁぁ―――――。本気で言ってます?」
まさかのクソデカ溜息。怖いよ。さっきまでの良い感じの雰囲気が台無しじゃないですかね。
「まさか先輩がそこまで鈍感さんだとは思いも寄りませんでしたよ。びっくりです。……これじゃ櫻木先輩も苦労するはずだ……。」
「傷付くな…何もそこまで怒らなくてもいいじゃないか。そんなに駄目な回答だったかな。」
「駄目も何も論外です。いいですか?この作戦は誰が考えたんですか。」
「…俺だけど…。」
「その時、櫻木先輩の様子はどうでした?」
「何か微妙な感じだったな…確か。」
「それはそうですよ。だって、自分の好きなひ……、櫻木先輩だって先輩のデートなんか観たくないはずですから。」
早口て捲し立てる香織に、若干の怖さを感じつつ質問に答えていく。その姿にはさっきまでの過去を語る涙は無く、その様子から俺はこの娘の役に立てたのだと実感し、自然と笑みが溢れた。
「何ニヤニヤしているんですか!人の話を聞いていませんね!」
しまった、嬉しくて表情に出ていたのか。気を付けなければ…!
「御免御免。ちゃんと聞いているよ。…でも栞は人の恋愛事情が大好物だぞ?俺は心の中でミス恋愛脳と呼んでいる。」
「…えっ…そうなんですか。意外ですね…。」
「だろ?後、これ栞には内緒な。」
「はい、わかりました。…って違う!話が二転三転してる!」
ころころ変わる表情は見ていて飽きない。恐らくこれが本来の彼女なのだろう…。
「兎に角、私が言いたいのはですね。櫻木先輩は俊哉先輩と私がデートをするのを好ましく思っていると言いたい訳です。」
「…な…成る程。」
「きっと先輩は私と先輩が仲良くしているのを観て、心を痛めたはずです。」
「…何故、君にそれが分かるんだ…。」
「簡単なことです。それは私も櫻木先輩と同じ気持ちになると思うからです!」
正しく、女の勘とも言うべきだろう何のデータもない根拠だが、何故か説得力がある。
俺はその勘に従う事にした。
「分かった。取り敢えず、俺はどうすればいいんだ?」
「はい、ダウト。私に助言を求めるのが既に間違っています。」
「なら、どうすれば……。」
「はぁ―――しょうがないですね。」
本日2回目のクソデカ溜息。ほんとにそれ傷付くから辞めて欲しいんだけど…。
「まぁ…先輩には、私の長年の心の蟠りを解決してくれたので、その御礼と言う事で特別にヒントをあげちゃいます。」
「是非頼むよ。香織様〜。」
わざとらしく祈るポーズを見せる俺に、微妙な顔をする香織の事はこの際だ…忘れる事にしよう。
「何はともあれ、櫻木先輩と話す事です。」
「えっ…それだけ…。」
「何ですか?気に入りませんでしたか。」
「いやー、そんな事は無いんだけど…。」
ゴニョゴニョしながら、アピールしていると痺れを切らした香織が顔を覗いてくる。
「何か文句でもあるんですか?」
その顔には怒りを通り越して、呆れの二文字が付いていたが、俺だって攻められてばかりでは要られない。臆せずに俺は言い返せしてやる事にした。
「いや〜、もっとこう抽象的じゃなくて、具体的な解決方を知りたいな〜なんて…別に分かりにくいとか…別に思っている訳ではなくてですね……。」
駄目でした。香織の覇気に気圧されて、まともな事が言えない。
(俺って…何時もこんな感じだよな…。)
「くすっ…。大丈夫ですよ。二人で話せば分かりますから。信じて下さい。」
自己否定も束の間に、何故か機嫌が良くなる香織。
今更ではあるが…彼女は何処か自分では無い誰かを考えていると思う時があった。それは先の香織の過去を聞いて、腑に落ちたのだが、今のやり取りにはあまりそれを感じない。
(これはいい傾向ではあるのかもな。)
「ほらっ!ぼーとしないで!早く櫻木先輩に連絡先をして下さい。そして、仲直りをして下さい!」
「仲直りって…別に俺達は喧嘩をしていた訳では無いけど……。」
「ふふ…そうですね。…えい!!」
「痛…!!」
不敵に笑い掛けたと思ったら、いきなり背中を叩いてきた。何なんだ一体…。
「イチャイチャしちゃって……!!さっさと行ってこい!!」
「…ああ…!分かったよ。」
後輩からの叱咤激励を背負い、走りだす。栞は何処にいるかな…。
「せんぱーい!!今日は有難う御座います!」
「おう!気いー付けて帰れよ!」
手を振りながら笑顔で見送る香織に、俺もまた手を振り返した。




