出会い
その公演以降、私は校内外で注目される様になりました。
本来なら喜ばしい事なのでしょうが、私にはどうでもいい事でした。お兄ちゃんとの約束をもう叶えられず、演劇に対して向き合う事の出来ない私に価値などない、そう思い込んでいたんです。
その考えとは対称的に私に対して、向けられる期待が酷く鬱陶しく思えました。
「花宮さん!今度はどんな役を演るのかしら?楽しみだわ。」
「きっと次の劇も良いものになるんだろうね。」
「花宮さんなら間違いなく主役に決まっているよ。」
口々に人は言います。貴方なら出来る。主役が相応しい。君がこの演劇部のエースなんだ…と。
あれから以降、発作を起こす事はありませんでしたが、又いつ同じ事が起きるのか気が気じゃないのに、私に主役をやって欲しいなんて簡単に言わないで欲しかった…。
取り巻く環境が変わり、私の気持ちを考えるのを放棄した、そんな感情の暴風雨の中に私は身を捧げていました。
それは学年が上がり、二年生になった後も、さらに時が過ぎて、3年生になっても、私は自分に向き合う事が出来ずにいました。
「花宮さんは又、脇役を演るの?」
部室で稽古の準備をしていると、部長になった郡上さんが私に話掛けて来ました。
「うん。この役は凄く興味深いんだ。」
「いつも同じ事言ってるじゃん。花宮さんならもっと相応しい役があるのに…。それこそ主役とかさぁ。」
「どの役も劇を構成させている重要な要素だよ。」
「ふふ…。このやり取りももう何年もしているね。」
「もう卒業まで時間も無いもんね。」
夏が終わり、秋が顔を出し始めて何日がたったのだろう。もう冬がそこまで差し迫っていました。
「何よ!しんみりするの早くない!まだまたさだ、中学生活をエンジョイしなくちゃ。」
「その台詞、高校卒業する時にも言っていそうだね。」
「当たり前じゃない!高校生活だって今と同じくらいに尊いに決まってるわ!……そう言えば、花宮さんは進路はどうするの?」
「立花学園に進学しようと思っているの。」
何て事のない質問に私が決意表明をしたのは、その学校がお兄ちゃんと茜さんの母校だったからでした。
「ええっ!!あの進学校で有名な立花!確かに花宮さんは成績も良いもんね。」
「大変だけど頑張ってみようかなって…。」
「うん。きっと受かるよ。私はそこまで高望みはしないから、そこそこの高校にしようと思っているの。」
「…そっか。じゃあ、中学でお別れだね。」
「淋し〜い。別々の学校に行っても友達だからね!」
「ちょっと!」
いきなり熱い抱擁を交わす郡上さんのこういう所には結局、慣れる事はありませんでした。
その後、私は猛勉強の末に立花学園に受かる事が出来ました。
漸くお兄ちゃんと茜さんに並べる。それだけが私の唯一の救いでした。これできっと私も前へ進めるはず…。過去の記憶から解放されるはず。私のこの気持ちはお兄ちゃん達と一緒に歩む事が出来るなかった罪悪感からに違いない。そう思っていました。
「これで、良いんだよね。」
私は入学式の日に、校門の前でそう呟いていました。
こうして、私の高校生活が始まったのです。
「とうとう見つけたよ…花宮さん!言いたい事は分かるよね?」
入学して早々に謎の人物が私をスカウトに来ました。
「いや、分かりませんが…。と言うか貴方は誰ですか?」
「僕かい?…ふふふ、良いだろう。教えてしんぜよう。僕の名は柊肇だよ。」
背が高く、金色の髪をした怪しい男は柊肇と名乗り、演劇部の部長をしている三年生であると伝えました。
哲哉先輩は柊先輩の事を知っていますよね。何かと有名な人ですから。
「はぁ…。それで…柊…先輩が私に何の用でしょうか?」
「用と言うのは他でも無い。助けてくれないか。」
この人は言葉足らずな所が結構あるので、最初は行間を読むのに戸惑いました。
「あの…説明が足りていないんじゃないですか。意味が分からないんですけど…。」
「貴方に救世主になって欲しいんだ!」
「話が通じない様なので、これで失礼します。それでは。」
「ああっ!待って待って。分かったよ、ちゃんと説明するから。しょうがないな…。」
「何で先輩がしょうがない感じを出しているんですか。こっちの台詞ですよ。」
先輩の話では、演劇部は部員が足りずに困っいて、近々生徒会の査定があり、そこで部が存続するかどうかが決まるそうで、新入生を確保したいと…。そこに私が入学して来たので、それを餌に他の新入生を一網打尽にしたい…と、その為に声を掛けたそうです。
全然気付きませんでしたが、中学時代の功績から高校演劇界隈?から、どうやら私はスーパールーキーと目されていた様です。
「まさかあの花宮香織がうちの高校に進学していたとはね。もっと有力な演劇部がある所に行くとばかり…。」
「別にいいじゃないですか。…他を当たってください。」
自分の過去に手が触れる気がして、いつも以上に突っぱねてしまいました。
「御免御免。確かに今はそんな事はどうでもいい!渡りに船とはこの事だ。ミス完璧美少女には断れてしまって後がないんだ。頼むよ。」
柊先輩はしつこく私に詰め寄り、このままでは頭まで下げそうになったその時―――
「おい!嫌がってるだろ!」
哲哉先輩に出会ったんです。




